「自分にとって必要なキャリアを辿れている」一般就活経ての“大卒J3”から今季J1初挑戦…苦境新潟で存在感放つ27歳MF新井泰貴「早く勝って喜び合いたい」
[3.15 J1第6節 町田 1-0 新潟 Gスタ]
アルビレックス新潟MF新井泰貴(27)は加入1年目の今季、開幕節・横浜FM戦で途中出場し、プロ6年目でのJ1デビューを果たすと、続く第2節・清水戦での45分間のプレーを経て、第4節・C大阪戦からボランチの先発に定着。着実にプレータイムを伸ばし、国内トップカテゴリで存在感を高めている。
その間チームは開幕6試合未勝利が続いていることもあり、自身のパフォーマンスに満足は見せないが、プロ1〜3年目をJ3鳥取、4〜5年目をJ2藤枝で過ごし、懸命にここまで這い上がってきた身。「このチームで上に行きたいし、このチームで上の順位にどんどん這い上がっていきたい思いしかない。とにかく自分が試合に出て勝たせたい」と並ならぬ決意でチームを浮上に導くべく、この苦境に立ち向かっている。
そんな強い思いと実行力の一端は、この日のJ1第6節・町田戦の前半の出来事に表れていた。
新潟は3-4-2-1の急造布陣で町田対策を講じ、敵地に挑んだが、攻撃ではビルドアップが町田のマンツーマンプレスにことごとくハマり、守備では逆にボールを握られる展開に。すると前半途中、中盤のエリアで接触プレーが続き、負傷者の状態確認のためプレーが止まるやいなや、新井は樹森大介監督のもとに向かい、ベンチの意見を遠いサイドの選手に伝達していた。
そこでの修正の対象となったのは、ベンチサイドから遠い左サイドの高い位置でのプレッシング。結果としてはその後、ビルドアップの修正が効かないままに不用意なボールロストから失点につながったため、守備の修正の効果は限定的なものにとどまっていたが、J1初挑戦の新加入MFがすでにチームのブレーンを担い、それをピッチ上で表現しようとしている姿勢は印象的だった。
試合後、新井にこのシーンについて問うと、次のように振り返った。
「ピッチの中で選手が感じていることと、ベンチで見ながら感じていることは違うと思うし、プレーが切れたタイミングで監督から『もっとプレッシャーをかけていきたい』という指示があって、それは左サイドのベンチから一番遠いサイドだったので、それを自分が伝えに行った。ただ、そこでピッチの中でやっている感覚のところのすり合わせもコミュニケーションをとるようにしていた」
そこでは単に指揮官の指示を伝達するだけでなく、ピッチ内の認識も同時に伝えていたという新井。その振る舞いに至ったのは、ここまで着実に出場時間を伸ばしてきた責任感からだった。
「自分もこのチームに入ってこの数か月、いつまでも新加入選手のままでは良くない。自分がピッチの真ん中にいるので、試合に出ている以上は率先してやらないといけないと思っている」
またこうした役割を自然と務められる背景には、自らは「個人技で課題を解決するタイプではない」という自己認識もあるようだ。
「僕自身、身体能力が高い選手でもないし、特別なスペシャルなドリブルがあるわけじゃないし、個人の能力で何か打開できるかと言われたらそういうプレーヤーではない。どこでチームの勝利のために貢献できるかを常に考えながらプレーしていることが一つ一つのプレー、一つ一つの立ち位置、コミュニケーションにつながっていると思う」
チームのことを第一に考えるプレースタイルで出場機会を与えられているからには、周囲を束ねる役割は必須要素。「自分がどうやって新潟の勝利のために貢献できるかをただひたすら、がむしゃらに日々のトレーニングから意識してやっていることでいま出場時間をもらえていると思う」。樹森監督のもとで新たに立ち上がったチームの中で、全員が向かう方向を共有する取り組みを続けている。
もっとも、そんな新井だがチームへの言及とともに「ただ、その中で常に競争があるのは変わらない。しっかりと自分の成長にも目を向けてやっていきたい」とも言葉を続け、個人技術のレベルもJ1基準に引き上げる必要性を強調していた。
「チームとしてどんどん成長していかないといけないと思うので、そのために個人の成長が必要。個人の成長にも目を向けながら、それが結果的にチームの成長につながると思うので、そこは意識して取り組んでいかないといけない」
とはいえ、この日の町田戦ではビルドアップのサポートや守備の予測で個人面のクオリティーも随所に見せていた新井。それどころか後半にはたった一人で局面を打開するようなプレーでスタジアムをどよめかせていた。
0-1のビハインドで迎えた後半17分だった。新井は自陣でのボール奪取を起点に前を向くと、果敢な持ち上がりで相手選手よりも前に出た上で、それまで続けていた全体のバランスを考えたパスではなく、前線でダイナミックな動き出しを見せたFW矢村健へのスルーパスを選択。見事に足元に届けてみせた。
普段なら前節からボランチのコンビを組むMF秋山裕紀が一身に担っているような、局面を大きくひっくり返すようなプレー。この場面では抜け出した矢村が町田DF岡村大八との1対1に阻まれ、結果的にゴールにはつながらなかったが、新井のワンプレーから後半最大のビッグチャンスが生まれたのは間違いなかった。
「いつもならもっと安全なプレーを選択していたかもしれないけど、(勝利が遠い状況で)この新潟の勝利のためにというところで、ゴールを奪わなきゃいけないということでああいうプレーが出た。自分のやれるプレーの幅はどんどん広げていきたいと思っているので、ああいうチャンスがあれば狙っていきたいし、とにかくチームの勝ちにつなげられるようにやっていきたい」(新井)
いまでこそバランサーとしての役割が定着しているものの、高校時代を過ごした湘南U-18ではより攻撃的なプレーヤーとして育った新井。現在のスタイルは産業能率大(1〜3年次:神奈川県1部、4年次:関東2部)で過ごした大学時代に「どうやってプロを目指していくかというところで自分が生き抜いていく道を考えた」結果だというが、逆にJ1の舞台に立ったいまは“J1基準”の個人プレーに目を向けて取り組みながら、プレーの幅を広げていることを感じさせるワンシーンだった。
かつては「大学2年時くらいまではプロは現実的に厳しいかなという思いもあった」という中、就職活動にも励んで一般企業の内定を勝ち取った上で、内定先の理解を受けてJクラブへの練習参加を重ね、プロ入りを掴み取った苦労人。プロ入り後は毎年コンスタントに出場機会を掴んできたものの、順風満帆なサッカーキャリアではなかったからこそ、目の前の試練を乗り越え、自らを適応させていくためのすべは知っている。
「自分自身はエリートの道を辿ってきたわけではないし、大学に入ってからもトップチームでプレーする機会は限られていて、1年生の時は本当に一番下のチームからだったので、どうやってプロを目指していくかというところで自分が生き抜いていく道を考えてきたし、どの道を選ぶことでプロに近づくかを考えながら、大学で4年間しっかりプレーできたことがこうやってコツコツとであってもいま、この舞台まで来られている一つの要因かなと思います」
「プロに入ってからは監督・指導者の方々も含めて恵まれた環境にいられて、鳥取時代も多くの試合に使っていただいて、藤枝でもプレーする時間をいただいたからこそ、いまここにいられる。その点、もし大学卒業時に運よく上のリーグに入れていたとしても、今のようにいっているとは思っていないので、僕自身はJ3からちゃんと試合に出続けて、自信や経験をつけてきたことに意味があると思っているし、過去は無駄じゃなかったというか自分にとって必要なキャリアを辿れているのかなと思っています」
今季はJ1という舞台で戦える喜びを感じつつ、そうした積み重ねの成果が試される勝負の1年になる。「国内トップレベルのリーグでいまプレーできていることは本当に幸せなことで、あれだけ大勢のサポーターの方々の前でプレーできるのは本当に嬉しいこと。この状況は当たり前じゃないと常に思っているので、与えられた時間の中でもっと勝利に貢献したい。まだ今季勝てていないので、自分たちの流れを変えるためにも、応援してくれる方々のためにも早く勝って喜び合いたいなと思います」。まずは誰の目にも分かる「勝利」という結果で、自らの価値を表現するつもりだ。
(取材・文 竹内達也)
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アルビレックス新潟MF新井泰貴(27)は加入1年目の今季、開幕節・横浜FM戦で途中出場し、プロ6年目でのJ1デビューを果たすと、続く第2節・清水戦での45分間のプレーを経て、第4節・C大阪戦からボランチの先発に定着。着実にプレータイムを伸ばし、国内トップカテゴリで存在感を高めている。
その間チームは開幕6試合未勝利が続いていることもあり、自身のパフォーマンスに満足は見せないが、プロ1〜3年目をJ3鳥取、4〜5年目をJ2藤枝で過ごし、懸命にここまで這い上がってきた身。「このチームで上に行きたいし、このチームで上の順位にどんどん這い上がっていきたい思いしかない。とにかく自分が試合に出て勝たせたい」と並ならぬ決意でチームを浮上に導くべく、この苦境に立ち向かっている。
そんな強い思いと実行力の一端は、この日のJ1第6節・町田戦の前半の出来事に表れていた。
新潟は3-4-2-1の急造布陣で町田対策を講じ、敵地に挑んだが、攻撃ではビルドアップが町田のマンツーマンプレスにことごとくハマり、守備では逆にボールを握られる展開に。すると前半途中、中盤のエリアで接触プレーが続き、負傷者の状態確認のためプレーが止まるやいなや、新井は樹森大介監督のもとに向かい、ベンチの意見を遠いサイドの選手に伝達していた。
そこでの修正の対象となったのは、ベンチサイドから遠い左サイドの高い位置でのプレッシング。結果としてはその後、ビルドアップの修正が効かないままに不用意なボールロストから失点につながったため、守備の修正の効果は限定的なものにとどまっていたが、J1初挑戦の新加入MFがすでにチームのブレーンを担い、それをピッチ上で表現しようとしている姿勢は印象的だった。
試合後、新井にこのシーンについて問うと、次のように振り返った。
「ピッチの中で選手が感じていることと、ベンチで見ながら感じていることは違うと思うし、プレーが切れたタイミングで監督から『もっとプレッシャーをかけていきたい』という指示があって、それは左サイドのベンチから一番遠いサイドだったので、それを自分が伝えに行った。ただ、そこでピッチの中でやっている感覚のところのすり合わせもコミュニケーションをとるようにしていた」
そこでは単に指揮官の指示を伝達するだけでなく、ピッチ内の認識も同時に伝えていたという新井。その振る舞いに至ったのは、ここまで着実に出場時間を伸ばしてきた責任感からだった。
「自分もこのチームに入ってこの数か月、いつまでも新加入選手のままでは良くない。自分がピッチの真ん中にいるので、試合に出ている以上は率先してやらないといけないと思っている」
またこうした役割を自然と務められる背景には、自らは「個人技で課題を解決するタイプではない」という自己認識もあるようだ。
「僕自身、身体能力が高い選手でもないし、特別なスペシャルなドリブルがあるわけじゃないし、個人の能力で何か打開できるかと言われたらそういうプレーヤーではない。どこでチームの勝利のために貢献できるかを常に考えながらプレーしていることが一つ一つのプレー、一つ一つの立ち位置、コミュニケーションにつながっていると思う」
チームのことを第一に考えるプレースタイルで出場機会を与えられているからには、周囲を束ねる役割は必須要素。「自分がどうやって新潟の勝利のために貢献できるかをただひたすら、がむしゃらに日々のトレーニングから意識してやっていることでいま出場時間をもらえていると思う」。樹森監督のもとで新たに立ち上がったチームの中で、全員が向かう方向を共有する取り組みを続けている。
もっとも、そんな新井だがチームへの言及とともに「ただ、その中で常に競争があるのは変わらない。しっかりと自分の成長にも目を向けてやっていきたい」とも言葉を続け、個人技術のレベルもJ1基準に引き上げる必要性を強調していた。
「チームとしてどんどん成長していかないといけないと思うので、そのために個人の成長が必要。個人の成長にも目を向けながら、それが結果的にチームの成長につながると思うので、そこは意識して取り組んでいかないといけない」
とはいえ、この日の町田戦ではビルドアップのサポートや守備の予測で個人面のクオリティーも随所に見せていた新井。それどころか後半にはたった一人で局面を打開するようなプレーでスタジアムをどよめかせていた。
0-1のビハインドで迎えた後半17分だった。新井は自陣でのボール奪取を起点に前を向くと、果敢な持ち上がりで相手選手よりも前に出た上で、それまで続けていた全体のバランスを考えたパスではなく、前線でダイナミックな動き出しを見せたFW矢村健へのスルーパスを選択。見事に足元に届けてみせた。
普段なら前節からボランチのコンビを組むMF秋山裕紀が一身に担っているような、局面を大きくひっくり返すようなプレー。この場面では抜け出した矢村が町田DF岡村大八との1対1に阻まれ、結果的にゴールにはつながらなかったが、新井のワンプレーから後半最大のビッグチャンスが生まれたのは間違いなかった。
「いつもならもっと安全なプレーを選択していたかもしれないけど、(勝利が遠い状況で)この新潟の勝利のためにというところで、ゴールを奪わなきゃいけないということでああいうプレーが出た。自分のやれるプレーの幅はどんどん広げていきたいと思っているので、ああいうチャンスがあれば狙っていきたいし、とにかくチームの勝ちにつなげられるようにやっていきたい」(新井)
いまでこそバランサーとしての役割が定着しているものの、高校時代を過ごした湘南U-18ではより攻撃的なプレーヤーとして育った新井。現在のスタイルは産業能率大(1〜3年次:神奈川県1部、4年次:関東2部)で過ごした大学時代に「どうやってプロを目指していくかというところで自分が生き抜いていく道を考えた」結果だというが、逆にJ1の舞台に立ったいまは“J1基準”の個人プレーに目を向けて取り組みながら、プレーの幅を広げていることを感じさせるワンシーンだった。
かつては「大学2年時くらいまではプロは現実的に厳しいかなという思いもあった」という中、就職活動にも励んで一般企業の内定を勝ち取った上で、内定先の理解を受けてJクラブへの練習参加を重ね、プロ入りを掴み取った苦労人。プロ入り後は毎年コンスタントに出場機会を掴んできたものの、順風満帆なサッカーキャリアではなかったからこそ、目の前の試練を乗り越え、自らを適応させていくためのすべは知っている。
「自分自身はエリートの道を辿ってきたわけではないし、大学に入ってからもトップチームでプレーする機会は限られていて、1年生の時は本当に一番下のチームからだったので、どうやってプロを目指していくかというところで自分が生き抜いていく道を考えてきたし、どの道を選ぶことでプロに近づくかを考えながら、大学で4年間しっかりプレーできたことがこうやってコツコツとであってもいま、この舞台まで来られている一つの要因かなと思います」
「プロに入ってからは監督・指導者の方々も含めて恵まれた環境にいられて、鳥取時代も多くの試合に使っていただいて、藤枝でもプレーする時間をいただいたからこそ、いまここにいられる。その点、もし大学卒業時に運よく上のリーグに入れていたとしても、今のようにいっているとは思っていないので、僕自身はJ3からちゃんと試合に出続けて、自信や経験をつけてきたことに意味があると思っているし、過去は無駄じゃなかったというか自分にとって必要なキャリアを辿れているのかなと思っています」
今季はJ1という舞台で戦える喜びを感じつつ、そうした積み重ねの成果が試される勝負の1年になる。「国内トップレベルのリーグでいまプレーできていることは本当に幸せなことで、あれだけ大勢のサポーターの方々の前でプレーできるのは本当に嬉しいこと。この状況は当たり前じゃないと常に思っているので、与えられた時間の中でもっと勝利に貢献したい。まだ今季勝てていないので、自分たちの流れを変えるためにも、応援してくれる方々のためにも早く勝って喜び合いたいなと思います」。まずは誰の目にも分かる「勝利」という結果で、自らの価値を表現するつもりだ。
(取材・文 竹内達也)
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