J2リーグのVAR導入には高い壁…JリーグとJFAが進める「レフェリング環境改善」の現在
J2リーグでのビデオ判定システム導入には依然として高い壁が立ちはだかっている。Jリーグと日本サッカー協会(JFA)審判委員会は29日、J2リーグ戦で起きた監督によるレフェリング批判を受け、緊急のメディアブリーフィングを実施。J2リーグ戦へのVAR導入には、年間最低6〜7億円の費用に加え、各会場の環境整備や、全体で40人規模の審判員増員が必要になるとの見通しを示した。
J2リーグ戦では今月24日、第13節の藤枝MYFC対徳島ヴォルティス戦を機にVAR導入に関する議論が再燃した。同試合の後半23分、藤枝FW川本梨誉が敵陣ペナルティーエリア内で蹴った浮き球が、徳島DF田中隼人の左腕を直撃したが、主審はPKを与えなかった。抗議した槙野智章監督にイエローカードが提示された。
槙野監督は試合後、DAZNのフラッシュインタビューで「レフェリーがもしかしたら新ルールを採用したのかもしれない」「マジでJ2のレフェリーのレベル上げないと壊れます」「こういうレフェリングをしている人が普通に吹いたらダメ」と審判員を厳しく批判。Jリーグでは欧州各国リーグと同様、過度な審判批判に対する懲罰規定が定められており、Jリーグ規律委員会は29日、槙野監督に2試合のベンチ入り停止と罰金10万円の処分を下した。
こうした事例を受け、Jリーグは29日、JFA審判委員会と共同で緊急メディアブリーフィングを開催。個別の懲罰事案を受けて、こうした説明の場が設けられるのは異例だが、Jリーグ側は「公式インタビューでの発言であったことと、それがただちに拡散されたことで社会的反響が大きく、担当審判員や発言者個人に対する過度な追及がなされる懸念があり、すでにそうした事態が生じる状況となっているため」と説明した。
ブリーフィングの冒頭ではJFAの扇谷健司審判委員長が「(正しい判定は)ハンドと考えている。審判員は正しい判定を導き出すことができなかった」と見解を説明。続けてJリーグフットボール本部の窪田慎二執行役員が現在のJリーグで実施されている「レフェリング環境向上に向けた取り組み」を説明した。
窪田執行役員はブリーフィングの中で、J2リーグにビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)システムを導入するにあたっての要件に言及。主なハードルは①費用、②会場、③審判割り当ての3点にあるとした。
①費用面では年間最低6〜7億円を追加で捻出する必要がある。また②会場面では、J2リーグの会場にはVAR用のカメラを設置するための土台がないスタジアムもあり、そうした会場では新たな設備が必要になるという。③審判割り当てに関しては1試合あたりVARとAVARの2人が追加となるため、1節あたり最低20人の追加配置が必要になる。現状ではFIFAが定めるトレーニングを受けたVAR有資格者が不足しており、こちらも増員が求められる。さらにJ2へのVAR導入に伴い、現在J3を担当する審判員をJ2に割り当てる機会も増えるため、全体で40人規模での審判員の増員が必要になるという。
その他、J2リーグ戦の中継カメラも現状の4台程度から10台規模に増やす必要があるため、設備投資の必要性はJリーグ内だけにとどまらない。こうした数々の課題から、VARシステム以外のビデオ判定の導入も検討したいところだが、サッカーの国際ルールを定める国際サッカー評議会(IFAB)は一部の例外を除き、VAR以外のシステム導入を認めていないのが現状だ。
またIFABが例外的に「トライアル導入」を認めているビデオ判定システムにも課題は多い。例外の一つである「VARライト」はリプレーオペレーターが不要な仕組みで、カメラ台数も含めた経費削減が期待できるものの、VAR有資格者の要件は現状のVARとほぼ同じ。したがって日本では依然として人員不足という課題は残る。
もう一つの例外である「フットボール・ビデオ・サポート」(FVS)は両チームからのリクエストを受けて主審が判定をレビューする仕組みをとるため、VAR担当審判員の割り当てが必要ないのはメリットだが、U-17W杯などでのトライアル導入では課題が浮上。リクエスト制度が終盤の時間稼ぎや、敗勢時に試合を中断させる目的で使用され、試合運営に悪影響を与える点が問題視されるなど世界的にも慎重な姿勢が取られている。
こうした前提から、Jリーグ側はJ2にビデオ判定を追加導入することを検討してはいるものの、依然として採用には至っていない。窪田執行役員は「我々としてもどのようなものを適宜取り入れていくかというところは検討しているところ」「全体を育成して質の高いリーグを築いていかないと、VARを導入すればいいというだけのものではないという考えもある」と現状の見解を述べた。
■レフェリング環境改善
もっともその一方、JリーグとJFA審判委員会は近年、ビデオ判定に留まらない抜本的なレフェリング環境の改善を行うべく、足並みを揃えて数多くの施策に取り組んできた。
その施策の一つが、専業で審判員を務めるプロフェッショナルレフェリー(PR)の大幅増員だ。これまで多くの審判員は本業を別に持ち、休日を中心に1試合あたりの報酬でJリーグを担当していたが、今季からJ1リーグ戦の主審は全て専業のPRが担当。PRの総数も2年前より10人増え、過去最多の29人に達した。
PRは平日も審判活動のためにトレーニングを行うことができ、安定した待遇が確保されている。またシーズン中のPRキャンプや研修会が高頻度で開かれるようになり、審判員同士で切磋琢磨できる環境も広がった。加えて審判員専用のトレーナー、フィジカル専門スタッフ、メンタル専門スタッフなど審判員の支援体制の拡充も行われている。
さらにJリーグは昨季途中から、選手OBと審判員が試合後に意見交換を行う場を導入し、今季からは『マッチクオリティ・アセッサー』制度として本格運用がスタート。イングランド・プレミアリーグの同様の取り組みから着想を得た仕組みで、選手目線の意見を判定の検証や審判員の指導に生かし、判定の質向上につなげることを目指している。
そのほか、世界的にも求められている若手審判員の育成を促進するため、元イングランド審判協会のマイク・ライリー氏をマネージャーとして招聘し、22〜30歳の審判員を対象とした「育成枠(Elite Referee Development Panel)」も創設。J1担当審判員候補をグループで発掘し、クラブチームと同様に競争環境を生み出すことで審判全体のレベル向上を図る取り組みを始めている。
とはいえ、こうした取り組みを進めても成果が出るまでには一定の時間を要する上、そもそも105m×68mという広いピッチで行われるサッカー競技において、審判員個人が判定ミスを完全になくすことは不可能である。ビデオ判定の導入をはじめ、判定の質を高める取り組みは不可欠。しかし、試合結果を左右する選手のプレーと同様、審判員の判定にミスは起こりうる。そうしたミスのたびに対立を深めるのか、あるいは改善につながる建設的な議論を重ねていけるのか。現場サイドの姿勢も問われている。
(取材・文 竹内達也)
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J2リーグ戦では今月24日、第13節の藤枝MYFC対徳島ヴォルティス戦を機にVAR導入に関する議論が再燃した。同試合の後半23分、藤枝FW川本梨誉が敵陣ペナルティーエリア内で蹴った浮き球が、徳島DF田中隼人の左腕を直撃したが、主審はPKを与えなかった。抗議した槙野智章監督にイエローカードが提示された。
槙野監督は試合後、DAZNのフラッシュインタビューで「レフェリーがもしかしたら新ルールを採用したのかもしれない」「マジでJ2のレフェリーのレベル上げないと壊れます」「こういうレフェリングをしている人が普通に吹いたらダメ」と審判員を厳しく批判。Jリーグでは欧州各国リーグと同様、過度な審判批判に対する懲罰規定が定められており、Jリーグ規律委員会は29日、槙野監督に2試合のベンチ入り停止と罰金10万円の処分を下した。
こうした事例を受け、Jリーグは29日、JFA審判委員会と共同で緊急メディアブリーフィングを開催。個別の懲罰事案を受けて、こうした説明の場が設けられるのは異例だが、Jリーグ側は「公式インタビューでの発言であったことと、それがただちに拡散されたことで社会的反響が大きく、担当審判員や発言者個人に対する過度な追及がなされる懸念があり、すでにそうした事態が生じる状況となっているため」と説明した。
ブリーフィングの冒頭ではJFAの扇谷健司審判委員長が「(正しい判定は)ハンドと考えている。審判員は正しい判定を導き出すことができなかった」と見解を説明。続けてJリーグフットボール本部の窪田慎二執行役員が現在のJリーグで実施されている「レフェリング環境向上に向けた取り組み」を説明した。
窪田執行役員はブリーフィングの中で、J2リーグにビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)システムを導入するにあたっての要件に言及。主なハードルは①費用、②会場、③審判割り当ての3点にあるとした。
①費用面では年間最低6〜7億円を追加で捻出する必要がある。また②会場面では、J2リーグの会場にはVAR用のカメラを設置するための土台がないスタジアムもあり、そうした会場では新たな設備が必要になるという。③審判割り当てに関しては1試合あたりVARとAVARの2人が追加となるため、1節あたり最低20人の追加配置が必要になる。現状ではFIFAが定めるトレーニングを受けたVAR有資格者が不足しており、こちらも増員が求められる。さらにJ2へのVAR導入に伴い、現在J3を担当する審判員をJ2に割り当てる機会も増えるため、全体で40人規模での審判員の増員が必要になるという。
その他、J2リーグ戦の中継カメラも現状の4台程度から10台規模に増やす必要があるため、設備投資の必要性はJリーグ内だけにとどまらない。こうした数々の課題から、VARシステム以外のビデオ判定の導入も検討したいところだが、サッカーの国際ルールを定める国際サッカー評議会(IFAB)は一部の例外を除き、VAR以外のシステム導入を認めていないのが現状だ。
またIFABが例外的に「トライアル導入」を認めているビデオ判定システムにも課題は多い。例外の一つである「VARライト」はリプレーオペレーターが不要な仕組みで、カメラ台数も含めた経費削減が期待できるものの、VAR有資格者の要件は現状のVARとほぼ同じ。したがって日本では依然として人員不足という課題は残る。
もう一つの例外である「フットボール・ビデオ・サポート」(FVS)は両チームからのリクエストを受けて主審が判定をレビューする仕組みをとるため、VAR担当審判員の割り当てが必要ないのはメリットだが、U-17W杯などでのトライアル導入では課題が浮上。リクエスト制度が終盤の時間稼ぎや、敗勢時に試合を中断させる目的で使用され、試合運営に悪影響を与える点が問題視されるなど世界的にも慎重な姿勢が取られている。
こうした前提から、Jリーグ側はJ2にビデオ判定を追加導入することを検討してはいるものの、依然として採用には至っていない。窪田執行役員は「我々としてもどのようなものを適宜取り入れていくかというところは検討しているところ」「全体を育成して質の高いリーグを築いていかないと、VARを導入すればいいというだけのものではないという考えもある」と現状の見解を述べた。
■レフェリング環境改善
もっともその一方、JリーグとJFA審判委員会は近年、ビデオ判定に留まらない抜本的なレフェリング環境の改善を行うべく、足並みを揃えて数多くの施策に取り組んできた。
その施策の一つが、専業で審判員を務めるプロフェッショナルレフェリー(PR)の大幅増員だ。これまで多くの審判員は本業を別に持ち、休日を中心に1試合あたりの報酬でJリーグを担当していたが、今季からJ1リーグ戦の主審は全て専業のPRが担当。PRの総数も2年前より10人増え、過去最多の29人に達した。
PRは平日も審判活動のためにトレーニングを行うことができ、安定した待遇が確保されている。またシーズン中のPRキャンプや研修会が高頻度で開かれるようになり、審判員同士で切磋琢磨できる環境も広がった。加えて審判員専用のトレーナー、フィジカル専門スタッフ、メンタル専門スタッフなど審判員の支援体制の拡充も行われている。
さらにJリーグは昨季途中から、選手OBと審判員が試合後に意見交換を行う場を導入し、今季からは『マッチクオリティ・アセッサー』制度として本格運用がスタート。イングランド・プレミアリーグの同様の取り組みから着想を得た仕組みで、選手目線の意見を判定の検証や審判員の指導に生かし、判定の質向上につなげることを目指している。
そのほか、世界的にも求められている若手審判員の育成を促進するため、元イングランド審判協会のマイク・ライリー氏をマネージャーとして招聘し、22〜30歳の審判員を対象とした「育成枠(Elite Referee Development Panel)」も創設。J1担当審判員候補をグループで発掘し、クラブチームと同様に競争環境を生み出すことで審判全体のレベル向上を図る取り組みを始めている。
とはいえ、こうした取り組みを進めても成果が出るまでには一定の時間を要する上、そもそも105m×68mという広いピッチで行われるサッカー競技において、審判員個人が判定ミスを完全になくすことは不可能である。ビデオ判定の導入をはじめ、判定の質を高める取り組みは不可欠。しかし、試合結果を左右する選手のプレーと同様、審判員の判定にミスは起こりうる。そうしたミスのたびに対立を深めるのか、あるいは改善につながる建設的な議論を重ねていけるのか。現場サイドの姿勢も問われている。
(取材・文 竹内達也)
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