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[MOM4703]広島ユースFW井上愛簾(3年)_積み重ねた努力の先にあった激動の1年。J1のピッチも経験したストライカーが2ゴールで逆転勝利の立役者に!

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サンフレッチェ広島ユースFW井上愛簾(3年=東急SレイエスFC U-15出身)は2ゴールで勝利の立役者に!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[5.19 プレミアリーグWEST第7節 広島ユース 3-2 名古屋U-18 安芸高田市サッカー公園]

 もう「ゴールを奪う」職業に就くことは決まった。周囲から見られるハードルは確実に上がっているが、それでも奪い続けなくてはならない。チームに勝利をもたらすためのゴールを。自分の価値を高めるためのゴールを。

「みんなに自分の背中を見て、追ってもらう存在になりたいと思っていて、絶対に手は抜かないですし、自分はもっとやれるんだぞということを見せていきたいので、今日はまず2点獲れたことは良かったですけど、これからもゴールという形でみんなを勇気付けられたらなと思っています」。

 既にJ1デビューを飾っているサンフレッチェ広島ユース(広島)のナンバー9。FW井上愛簾(3年=東急SレイエスFC U-15出身)が叩き出した2つのゴールが、上位対決に臨むチームに鮮やかな逆転勝利をもたらした。


「試合前に監督から『個人個人の役割をしっかり果たせるように』という話をされていたので、自分はフォワードとして点を獲ることだけを意識していました」。井上もそう語ったこの日の一戦は、勝ち点で並びながらも得失点差で上回られている2位の名古屋グランパスU-18(愛知)が相手。3位の広島ユースは序盤から好リズムで立ち上がったものの、一瞬の隙を突かれて先制点を献上してしまう。

 39分。虎視眈々とその瞬間を狙っていたストライカーの嗅覚が発動する。MF小林志紋(2年)がボールを持った瞬間に、2人のイメージは共有された。「ベンチから沢田(謙太郎アカデミーダイレクター)さんに『裏に抜けろ』ということをずっと言われていたので、志紋が前を向いた時に、自分は足元で受けるのではなくて背後に抜けられました」。ラインブレイク。放ったシュートはGKに弾かれたが、リバウンドをきっちりとゴールネットへ流し込む。

 すぐさまゴールネットからボールを拾い、自陣に戻ってくる井上の表情に笑顔はない。「やっぱりホームだったので、『勝たないと』という気持ちもありましたし、次の1点という感じでした」。視線は向かう。次のゴールへ。チームの勝利へ。

 後半7分。小林が左サイドへ展開したボールから、MF長沼聖明(2年)が速いボールでGKとDFラインの間にクロスを蹴り込むと、完全にマークを外して突っ込んできた井上が、確実にボールをゴールネットへ送り届ける。

 実はこの一連は、狙い通りの流れだったという。「背後に抜けることで、自分にディフェンスが付いてきて、その空いたスペースに長沼選手が入って、自分が中に入るという感じで、凄く良い流れで崩せたので、勢いのまま合わせられました」(井上)。チームで崩した完璧な一撃。ハーフタイムの約束通り、ベンチメンバーの元へ走っていった9番は、すぐにチームメイトの輪の中に飲み込まれた。



 以降もチャンスはあった。90分間で放ったシュートは両チーム最多の7本。だが、“もう1点”は生まれなかった。「3点目というのは意識しましたけど、かと言って冷静じゃなかったかと言ったらそうではないので、そこまで気にすることなく、次はハットトリックできるように頑張りたいです」。“分母”を考えれば、2ゴールでは物足りない。チームの逆転勝利に貢献した手応えは持ちながらも、得点への渇望感は常に自身の中でたぎっている。


 4月7日。エディオンピースウイング広島。J1第7節の湘南ベルマーレ戦で3度目のベンチ入りを果たした井上は、2点をリードした後半45+10分からJリーグデビューのピッチに立った。「その前からずっとベンチに入っていたので『まだか、まだか』とは思っていたんですけど、『2点目が入ったらあるな』とは思っていたので、『やっと出られた』という気持ちが大きかったですね。記録に残ったことも嬉しかったです」。17歳6か月19日でのデビューで、クラブのJ1最年少出場記録を更新した。

 今季は基本的にトップチームで練習する機会も多く、高いレベルの中で切磋琢磨する環境に身を置いている。「やっぱり(荒木)隼人くんと(佐々木)翔さんは凄いですね。全員に芯の強さはあるんですけど、あの2人はスピードもあって、自分が緩急で抜こうと思っても簡単に付いてこられてしまうので、1対1をすることでかなり良い練習になっています。それに周りの選手が上手いですし、サポートもいてくれるので、たくさんのアイデアを持てていますし、あとは自分の質のところだけなので、凄く楽しくやらせてもらっています」。日本代表クラスの先輩とのマッチアップが刺激にならないはずがない。

「去年のこのぐらいの時期はプリンスでやっていたのに、夏でググッと伸びて、プレミアに出るようになって、代表に呼ばれて、ワールドカップに出て、トップと契約して、J1に出て、激動の1年ですよね(笑)」と井上の辿ってきた過程に言及した野田知監督も、「去年で凄く伸びたと思います」とその成長を認めているが、自分の中では決して一足飛びにステップアップを果たした感覚はないという。

「振り返ってみたら凄いとは思うんですけど、1年生の頃から自分にできることはすべてやっていましたし、その頃もトレーニングマッチでは点を獲っていて、ちゃんと自分のストロングを出してプレーしてきた結果として、今のこういう形になったので、それは間違っていなかったんだなと思っています」。重ねてきた努力の先に現れる新しい扉を、一つずつ丁寧にこじ開けてきた。そして、これからもその姿勢は必ず貫いていく。

 今年はアカデミーラストイヤー。プロサッカー選手になる道を切り拓いてくれたこのチームで、成し遂げたいことは明確だ。「どうしても去年の高円宮杯の日本一決定戦の時に負けてしまった悔しさがあるので、そこは絶対に借りを返すという気持ちでやっていくのと、個人としては得点王をしっかり狙っていきたいなと思っています」。

 もう「ゴールを奪う」職業に就くことは決まった。自分のゴールで喜んでくれる人がいる。自分のゴールで笑顔になってくれる人がいる。ならば、それを奪い続けるのみ。その舞台が吉田のグラウンドでも、ピースウイングのピッチでも、井上愛簾が為すべき仕事は変わらない。



(取材・文 土屋雅史)

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