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小柄な身体にサッカーセンスを詰め込んだ静岡育ちの異才。帝京長岡MF香西秀河が絶対に超えたいのはプレミアで一緒のピッチに立った「兄の背中」

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帝京長岡高の小柄な異才、MF香西秀河(1年=清水エスパルスSS静岡出身)

 常にピッチの上を絶え間なく動き続け、思考を巡らせ続ける。どのポジションに立てば、自分の力を一番発揮できるか。どこにボールを入れれば、チームが一番スムーズに回るか。考えて、考えて、考える。大好きなサッカーの世界で生き残っていくために。

「自分は小柄だと言われる中で、小さいころから『止める、蹴る』の部分は兄の大河と一緒にやってきましたし、もっと自分の特徴であるボールタッチだったり、味方を使うプレーを発揮しながら、自分で打開する力もつけていきたいと思います」。

 サッカー王国・静岡で育った、帝京長岡高(新潟)の中盤を彩る異才。MF香西秀河(1年=清水エスパルスSS静岡出身)は背中を追い続けた兄を超えるべく、雪深い長岡の地で自らの武器をひたすら磨き続けている。


 3月上旬に開催された『2025 アスレカップ群馬 サッカーフェスティバル』の2日目。年代別代表の選手も居並ぶ東京ヴェルディユース(東京)と対峙した帝京長岡の中で、MF中澤昊介(2年)とドイスボランチに並んだ一際小柄な50番が目に留まる。

「味方とのコンビネーションだったり、味方を生かすスペースへのパスが自分の特徴です」。高校入学時の身長は158センチとプロフィールに記されている香西は、常にボールとスペースを求めて足を動かし続け、シンプルなボールタッチで攻撃のリズムを創出する。

「試合の入りは自分たちが良くて、チャンスをいっぱい作れたことは良かったんですけど、そこで決め切れなかったことで結局失点してしまって、難しい試合展開になってしまいました」(香西)。開始10分までに3本のシュートがポストやクロスバーを叩くと、以降は劣勢を強いられて2点を先行されてしまう。

 そこからいったんは追い付いたものの、最後はPKを献上して2-3で敗戦。ただ、フル出場を果たした香西は「4月からプレミアリーグが開幕するので、ヴェルディもプレミアのチームで高い強度でプレーしていたので、そこを体感できたのは学びになりました。自分は味方を使うプレーが多いんですけど、もっと自分で相手の懐に潜っていくプレーだったり、1個持ち出してシュートまで行ったり、自分で試合を決めるプレーをしていきたいと思いました」ときっぱり。強豪相手に奮闘した70分間は、貴重な学びの機会となったようだ。



 中学時代まで静岡で過ごしていた香西が帝京長岡への進学を決めた最大の理由は、昨季のチームでも試合によってボランチ、センターバック、サイドバックを務めるなど、そのポリバレントさで主要キャストを担っていた2歳年上の兄・香西大河(3年)の存在だ。

「自分がこの帝京長岡に来たのは、去年の3年生や大河の影響があって、特に大河と選手権に一緒に出る夢を持ってきました」。

 そう話す“弟”のプレミアデビューは鮮烈だった。昨年10月にアウェイで戦ったWEST第18節・東福岡高戦。初めてベンチに入った香西は、1点ビハインドの後半開始からピッチに解き放たれると、投入直後の4分にライン間で巧みにパスを引き出し、テンポ良くラストパス。ボールを受けた兄の大河がゴールを決め切り、いきなりアシストを記録してしまう。

「あの時はメチャクチャ緊張したんですけど、3年生も自分がやりやすいように声を掛けてくれたり、自分がやりやすいポジションを取ってくれたりしていたので、メチャクチャ楽しかったです」。

 結果的にこの試合は逆転勝利を収め、『兄へのアシスト』を披露した香西はアウェイでの勝ち点3獲得に大きく貢献。この活躍で一気に評価を高めると、高校選手権予選でもベンチ入りを果たしたが、チームは準決勝の新潟明訓高戦で惜敗。兄たちが悔し涙に暮れる光景を、脳裏に焼き付けた。

「大河と選手権には一緒に出られなかったですけど、大河からはチームに対する声掛けや守備での戦う姿勢はいっぱい学びましたし、プレミアや県予選で一緒の試合に出られたのは、一生の財産だと思います。自分は大河のことをライバルだと思っていて、そこを超えないと自分もこの先はないので、超えるべき存在です」。兄と共闘した思い出も胸に、これからもこの高校で為すべきことと向き合っていく。


 新チームになって感じたのは、去年の3年生がいかに1年生の自分を支えてくれていたかだったという。「去年は3年生が自分を生かしてくれて、自分も3年生に頼っていたんですけど、新チームになった時に自分1人では何もできなくて、そこで『もっと1人で打開していく力を付けていかないと、この身長では埋もれていってしまうな』と思ったんです」。

 今まで以上に個人で局面を切り開く力にフォーカスしているからこそ、参考にしたいと思っている選手がいる。「最近は前橋育英の白井誠也選手を見ていて、あの人も小柄なんですけど、相手の前に潜り込んでいく姿を見ていると、メチャクチャカッコいいと思いますし、自分も大きな相手に負けずに、自分が一番ぐらいの気持ちでやっていけたらいいかなと思います」。高校選手権でブレイクした1つ年上のアタッカーを見習いながら、できることを増やすためのチャレンジに取り組んでいく。

 学年も上がる今シーズンは、チームでの立ち位置もより確立したいところ。そのためには目に見える結果が必要。本人もプレミアを戦う上で明確な数字を掲げている。「今年はプレミア全試合に出場して、5ゴール10アシストは行きたいです。チームとしてはまず目の前の1試合1試合、“1分の1”を全力でプレーすることはみんなで共有しているのと、プレミアは去年の3年生が残してくれた舞台なので、まず3年生に感謝して、あの人たちを超えられるようにやっていきたいです」。

 自分だからこそ、できることがある。自分だからこそ、周囲に与えられる熱量がある。小柄な身体にサッカーセンスを目いっぱい詰め込んだ、帝京長岡の羅針盤。圧倒的なのびしろを携えている香西秀河の2025年には、大きな飛躍の雰囲気が漂っている。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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