激しい打ち合いの末に「疾風怒濤の2分間」で再逆転!川崎F U-18は11年ぶりプレミア復帰の東京Vユースに競り勝って森勇介新監督の初陣を白星で飾る!
[4.6 プレミアリーグEAST第1節 川崎F U-18 3-2 東京Vユース Anker フロンタウン生田 Ankerフィールド]
22分の1だとわかっていても、やはり緊張感は隠せるはずもない。自分のプレーはうまく行くのか。チームで積み重ねてきたことは通用するのか。そして、何よりも試合に勝てるのか。そんな想いの中で迎えた90分間だからこそ、点を獲って、獲られて、獲り返して、手繰り寄せた勝点3には、大きな、大きな価値がある。
「まずは失点しないことが一番だと思うので、そこは反省しながらも、今日は逆転できる力がこのチームにあることがわかったことが凄く大きいですし、次からは1点獲られても慌てずにゲーム運びができると思います」(川崎フロンターレU-18・林駿佑)
『疾風怒濤の2分間』で逆転開幕勝利!高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2025 EAST第1節で、3年ぶりのタイトル奪還を狙う川崎フロンターレU-18(神奈川)と11年ぶりのプレミア復帰となった東京ヴェルディユース(東京)が対峙した一戦は、川崎F U-18がシーソーゲームを3-2で制し、開幕白星を手にしている。
お互いに探り合うような形で立ち上がったオープニングマッチは、ホームチームのストライカーが点の取り合いの号砲を鳴らす。前半13分。相手のフィードをキャプテンのDF林駿佑(3年)が頭で跳ね返し、MF新堀翔(3年)は丁寧にスルーパス。抜け出したFW恩田裕太郎(3年)はGKとの1対1を制して、ボールをゴールネットへ流し込み、川崎F U-18が1点をリードする。
ビハインドを負う格好となった東京Vユースは「失点してしまってから目が覚めたというか、『もっと前に行こう』という感じになりました」とFW寺村智晴(3年)が話したように、徐々に10番のMF仲山獅恩(3年)やMF今井健人(3年)とMF舛舘環汰(3年)のドイスボランチを中心にボールが動き始め、セットプレーを含めて相手ゴール前を窺う回数が増えていく。
すると、27分に迎えた同点機。DF中村宗士朗(3年)のオーバーラップを起点に、MF木下晴天(2年)の左クロスが相手のハンドを誘発して、PKを獲得。仲山のキックは川崎F U-18のGK松澤成音(3年)がストップしたものの、こぼれ球を「去年までいた佐伯(直哉)コーチからずっと『自分を信じろ』と言われてきたので、その時の言葉を思い出して、自分に自信を持ってやってきました」という寺村が執念でプッシュ。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。
畳み掛けたアウェイチーム。32分。中盤でルーズボールを拾った舛舘は左へ展開。MF草間信(2年)は足裏での切り返しでマーカーを剥がすと、そのまま左足一閃。DFをかすめた軌道は、ゴール右スミへ吸い込まれる。「テンポ良くボールも動くようになって、全体的に緊張がほぐれてきた時間帯で逆転できたのは良かったと思います」(仲山)。2-1。東京Vユースが逆転に成功して、最初の45分間は終了した。


ハーフタイムに決断したのは川崎F U-18の森勇介監督。「簡単にワンタッチで放すとか、前を向かないとか、方向を決められてしまって相手がやりやすい形になってしまって、結局蹴るだけになってしまったというところがありました」という流れを受け、ボランチにU-16日本代表のMF小田脩人(1年)を送り込み、中盤のテコ入れに着手する。
この交代策でゲームリズムが変わる。小田がボールを引き出し、シンプルに左右へと振り分け始めたことで、ドイスボランチでコンビを組むMF小川尋斗(2年)のプレーエリアも拡大。後半21分にはその小川が右へと展開し、右サイドバックに入ったMF平内一聖(3年)のクロスに、フリーで飛び込んだ新堀はシュートを打ち切れなかったものの好トライ。24分には小田がドリブルで前へと持ち出し、MF平塚隼人(3年)のカットインシュートは東京VユースGK林亮太(2年)にキャッチされるも、漂い出した得点の雰囲気。一方のアウェイチームも仲山が2度の決定機を生かせず、突き放し切れない。
川崎F U-18が巻き起こした『疾風怒濤の2分間』。32分。左から新堀が蹴り込んだCKに、この日がプレミアデビューとなったDFペイシェンス海翔(3年)が飛び込むと、DFに当たったボールはゴールネットへ転がり込む。2-2。同点。
33分。直前の選手交代を受けて、右サイドバックから左サイドハーフにポジションを移していた平内が、鋭い出足で相手のビルドアップをかっさらうと、左から中央へ。恩田は右に流し、新堀が打ち切ったシュートは相手DFにブロックされたが、恩田が左足で合わせたボールは左ポストの内側を叩いて、ゴールへ吸い込まれる。ここ1か月近くは対外試合でゴールがなかったものの、「コーチの方々がずっと『本番で決めればいい』と言ってくれていたので、『今日は絶対に決めるぞ』という気持ちでやっていました」というエースの再逆転弾。3-2。またも川崎F U-18が一歩前に出る。
相次いで4枚の交代カードを切り、総攻撃に打って出た東京Vユースのラストチャンスは45+3分。DF渡邉春来(2年)が果敢なインターセプトで飛び出し、仲山が繋いだボールに途中出場のMF若月蓮(1年)が反応するも、全力で戻ってきた川崎F U-18のMF廣瀬寧生(2年)が執念のクリア。直後にタイムアップの笛がピッチに響き渡る。「本当によく最後まで頑張ってくれました。もう選手に感謝ですね」(森監督)。激闘の開幕戦は再逆転で力強く勝ち切った川崎F U-18が、新指揮官の初陣を勝利で飾る結果となった。


1点のビハインドで迎えたハーフタイム。ホームチームの選手たちはロッカールームに戻らず、ピッチサイドのベンチに集まっていた。しばらくすると、選手たちの前に歩み出た指揮官は、熱量を持った言葉で選手たちへ訴えかける。
「ボールが来たらビビッて、簡単にはたいたり、ラインを越えられるところも行かなかったり、後ろばかり探したり、前を覗けなかったりしていたので、『それだったらプロにはなれないよ』ということは言いましたね。プロになりたいんだったら、そういうことは当たり前のようにできないといけないですし、そこは強く言いました」(森監督)
このプレシーズンの3か月をともに過ごし、彼らの力を信じているからこそ、飛ばされた檄。選手たちの心に悔しさの火が、熱く冷静に灯る。キャプテンの林の言葉が印象深い。「前半はやっている時から自分たちも『このままじゃダメだな』と思っていましたし、監督からああいう檄が飛んだというか、厳しい言葉をかけられた中で、後半に改善できたことは凄く良かったですし、上手く勝利で終われたことは良かったかなと思います」。
もちろん選手のメンタルに訴えかけただけではない。試合の流れを的確に把握し、振るった采配も効果を発揮する。「ウチが狙っていたのは、相手も3-2-5みたいな形なんですけど、“3”のファーストラインを越えたあたりのところで、ボランチがフリーになるか、そこに食いつくようなら2列目がフリーになるので、ウチのインサイドハーフに入れたところをうまく狙っていこうと言っていたんですけど、前半はそれが全然できなかったので、ボランチのところを変えようと思って、小田を出しました」(森監督)。1年生ボランチの働きぶりは前述した通り。ピッチの外と中の思惑が概ね一致した後半の45分間が、これからのシーズンを戦う上でも小さくない経験になったことは間違いない。
現役時代を過ごしたチームでもあり、2020年にジュニアユースのコーチを務めていたころの教え子もいたという“古巣”に競り勝ち、監督初陣に勝利を収めた森監督だが、選手の奮闘こそ称賛したものの、試合の内容にはまったく納得していないという。
「全然今日は面白くないサッカーでしたね。もっともっとできると思うので、もっともっと練習します」。
目指すのは『アグレッシブで元気の良いエネルギッシュなサッカー』。情熱の新指揮官に率いられた2025年の川崎F U-18が遂げていく進化には、大いに注目していく必要がありそうだ。


(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2025特集
22分の1だとわかっていても、やはり緊張感は隠せるはずもない。自分のプレーはうまく行くのか。チームで積み重ねてきたことは通用するのか。そして、何よりも試合に勝てるのか。そんな想いの中で迎えた90分間だからこそ、点を獲って、獲られて、獲り返して、手繰り寄せた勝点3には、大きな、大きな価値がある。
「まずは失点しないことが一番だと思うので、そこは反省しながらも、今日は逆転できる力がこのチームにあることがわかったことが凄く大きいですし、次からは1点獲られても慌てずにゲーム運びができると思います」(川崎フロンターレU-18・林駿佑)
『疾風怒濤の2分間』で逆転開幕勝利!高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2025 EAST第1節で、3年ぶりのタイトル奪還を狙う川崎フロンターレU-18(神奈川)と11年ぶりのプレミア復帰となった東京ヴェルディユース(東京)が対峙した一戦は、川崎F U-18がシーソーゲームを3-2で制し、開幕白星を手にしている。
お互いに探り合うような形で立ち上がったオープニングマッチは、ホームチームのストライカーが点の取り合いの号砲を鳴らす。前半13分。相手のフィードをキャプテンのDF林駿佑(3年)が頭で跳ね返し、MF新堀翔(3年)は丁寧にスルーパス。抜け出したFW恩田裕太郎(3年)はGKとの1対1を制して、ボールをゴールネットへ流し込み、川崎F U-18が1点をリードする。
ビハインドを負う格好となった東京Vユースは「失点してしまってから目が覚めたというか、『もっと前に行こう』という感じになりました」とFW寺村智晴(3年)が話したように、徐々に10番のMF仲山獅恩(3年)やMF今井健人(3年)とMF舛舘環汰(3年)のドイスボランチを中心にボールが動き始め、セットプレーを含めて相手ゴール前を窺う回数が増えていく。
すると、27分に迎えた同点機。DF中村宗士朗(3年)のオーバーラップを起点に、MF木下晴天(2年)の左クロスが相手のハンドを誘発して、PKを獲得。仲山のキックは川崎F U-18のGK松澤成音(3年)がストップしたものの、こぼれ球を「去年までいた佐伯(直哉)コーチからずっと『自分を信じろ』と言われてきたので、その時の言葉を思い出して、自分に自信を持ってやってきました」という寺村が執念でプッシュ。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。
畳み掛けたアウェイチーム。32分。中盤でルーズボールを拾った舛舘は左へ展開。MF草間信(2年)は足裏での切り返しでマーカーを剥がすと、そのまま左足一閃。DFをかすめた軌道は、ゴール右スミへ吸い込まれる。「テンポ良くボールも動くようになって、全体的に緊張がほぐれてきた時間帯で逆転できたのは良かったと思います」(仲山)。2-1。東京Vユースが逆転に成功して、最初の45分間は終了した。


ハーフタイムに決断したのは川崎F U-18の森勇介監督。「簡単にワンタッチで放すとか、前を向かないとか、方向を決められてしまって相手がやりやすい形になってしまって、結局蹴るだけになってしまったというところがありました」という流れを受け、ボランチにU-16日本代表のMF小田脩人(1年)を送り込み、中盤のテコ入れに着手する。
この交代策でゲームリズムが変わる。小田がボールを引き出し、シンプルに左右へと振り分け始めたことで、ドイスボランチでコンビを組むMF小川尋斗(2年)のプレーエリアも拡大。後半21分にはその小川が右へと展開し、右サイドバックに入ったMF平内一聖(3年)のクロスに、フリーで飛び込んだ新堀はシュートを打ち切れなかったものの好トライ。24分には小田がドリブルで前へと持ち出し、MF平塚隼人(3年)のカットインシュートは東京VユースGK林亮太(2年)にキャッチされるも、漂い出した得点の雰囲気。一方のアウェイチームも仲山が2度の決定機を生かせず、突き放し切れない。
川崎F U-18が巻き起こした『疾風怒濤の2分間』。32分。左から新堀が蹴り込んだCKに、この日がプレミアデビューとなったDFペイシェンス海翔(3年)が飛び込むと、DFに当たったボールはゴールネットへ転がり込む。2-2。同点。
33分。直前の選手交代を受けて、右サイドバックから左サイドハーフにポジションを移していた平内が、鋭い出足で相手のビルドアップをかっさらうと、左から中央へ。恩田は右に流し、新堀が打ち切ったシュートは相手DFにブロックされたが、恩田が左足で合わせたボールは左ポストの内側を叩いて、ゴールへ吸い込まれる。ここ1か月近くは対外試合でゴールがなかったものの、「コーチの方々がずっと『本番で決めればいい』と言ってくれていたので、『今日は絶対に決めるぞ』という気持ちでやっていました」というエースの再逆転弾。3-2。またも川崎F U-18が一歩前に出る。
相次いで4枚の交代カードを切り、総攻撃に打って出た東京Vユースのラストチャンスは45+3分。DF渡邉春来(2年)が果敢なインターセプトで飛び出し、仲山が繋いだボールに途中出場のMF若月蓮(1年)が反応するも、全力で戻ってきた川崎F U-18のMF廣瀬寧生(2年)が執念のクリア。直後にタイムアップの笛がピッチに響き渡る。「本当によく最後まで頑張ってくれました。もう選手に感謝ですね」(森監督)。激闘の開幕戦は再逆転で力強く勝ち切った川崎F U-18が、新指揮官の初陣を勝利で飾る結果となった。


1点のビハインドで迎えたハーフタイム。ホームチームの選手たちはロッカールームに戻らず、ピッチサイドのベンチに集まっていた。しばらくすると、選手たちの前に歩み出た指揮官は、熱量を持った言葉で選手たちへ訴えかける。
「ボールが来たらビビッて、簡単にはたいたり、ラインを越えられるところも行かなかったり、後ろばかり探したり、前を覗けなかったりしていたので、『それだったらプロにはなれないよ』ということは言いましたね。プロになりたいんだったら、そういうことは当たり前のようにできないといけないですし、そこは強く言いました」(森監督)
このプレシーズンの3か月をともに過ごし、彼らの力を信じているからこそ、飛ばされた檄。選手たちの心に悔しさの火が、熱く冷静に灯る。キャプテンの林の言葉が印象深い。「前半はやっている時から自分たちも『このままじゃダメだな』と思っていましたし、監督からああいう檄が飛んだというか、厳しい言葉をかけられた中で、後半に改善できたことは凄く良かったですし、上手く勝利で終われたことは良かったかなと思います」。
もちろん選手のメンタルに訴えかけただけではない。試合の流れを的確に把握し、振るった采配も効果を発揮する。「ウチが狙っていたのは、相手も3-2-5みたいな形なんですけど、“3”のファーストラインを越えたあたりのところで、ボランチがフリーになるか、そこに食いつくようなら2列目がフリーになるので、ウチのインサイドハーフに入れたところをうまく狙っていこうと言っていたんですけど、前半はそれが全然できなかったので、ボランチのところを変えようと思って、小田を出しました」(森監督)。1年生ボランチの働きぶりは前述した通り。ピッチの外と中の思惑が概ね一致した後半の45分間が、これからのシーズンを戦う上でも小さくない経験になったことは間違いない。
現役時代を過ごしたチームでもあり、2020年にジュニアユースのコーチを務めていたころの教え子もいたという“古巣”に競り勝ち、監督初陣に勝利を収めた森監督だが、選手の奮闘こそ称賛したものの、試合の内容にはまったく納得していないという。
「全然今日は面白くないサッカーでしたね。もっともっとできると思うので、もっともっと練習します」。
目指すのは『アグレッシブで元気の良いエネルギッシュなサッカー』。情熱の新指揮官に率いられた2025年の川崎F U-18が遂げていく進化には、大いに注目していく必要がありそうだ。


(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2025特集


