J1フィーバー岡山がU-18育成でも大きな一歩…初の“ダブルヘッダー”は名古屋と2-4激闘「これからが重要」
[5.18 プレミアリーグWEST第8節 岡山U-18 2-4 名古屋U-18 JFEス]
高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2025 WESTは18日、第8節を各地で行い、岡山市のJFE晴れの国スタジアムでファジアーノ岡山U-18と名古屋グランパスU-18が対戦した。約2時間半前までJ1第17節の岡山対新潟戦が行われていたばかりのスタジアムで、高校生のプレミアリーグを同日開催するという意欲的な試み。試合は激しい打ち合いの末、名古屋U-18が4-2で4試合ぶりの白星を飾った。
今季昇格に伴う“J1フィーバー”でホームゲームのチケット完売が続くトップチームと、昨季からプレミアリーグWEST昇格を果たしたU-18との“岡山ダブルヘッダー”。試合運営の都合により一度はJ1リーグ戦に集まった14666人の観客が撤収しなければならず、さらに2時間半のインターバルを経ての開催となったが、トップチームの横断幕や応援をリードするファン・サポーターが大勢スタジアムに残り、名古屋の応援団も含めた930人が試合の行方を見守った。


そんな観客の熱量に応えるかのように、試合はプレミアリーグらしい質の高さと両者の意地がぶつかる熱い打ち合いとなった。先にスコアを動かしたのは名古屋。前半20分、3-4-2-1のボランチを担うMF八色真人(3年=名古屋U-15)が高い位置までプレッシングをかけ、ボールを奪うと、浮き球のスルーパスにエースのFW大西利都(3年)が反応。冷静にGKとの1対1を制し、今季8試合目にして11ゴール目で1-0とした。


一方の岡山も普段以上の声援に奮起。すぐに意地を見せた。「もちろん失点はしないほうがいいんですけど、今季は先制点を取られるゲームが多いなか、やられても崩れないことは求めている」(梁圭史監督)。嫌な奪われ方で失点した後もビルドアップの勇気を失わず、4-3-3の布陣を可変させながらボールを前進させると、前半23分、MF坂本蓮太(3年)がMF末宗寛士郎(3年)とのワンツーから左を攻め込み、切り返しの連続で相手を次々にかわしながら最後は右足で沈めた。


フィニッシュの局面を一人で切り裂いたスーパーゴール。これまでU-18に縁のなかったファン・サポーターの記憶にも間違いなく残ったであろう背番号7の坂本は、憧れのピッチでの今季チーム最多3ゴール目に「気持ち良かったです。みんなから『エグかった』って言われて嬉しかったです」と喜びを爆発させた。
ところが名古屋もさらにギアを上げていく。「3試合勝ちなしで来ていて、チームとして必ず勝たないといけない試合だった」(大西)。開幕4連勝という最高のスタートを切ったが、前節まで3試合連続の複数失点によって2分1敗の足踏み。失点直後の決定機は岡山のGK水田優誠(3年)のスーパーセーブに阻まれたものの、エースは大いに燃えていた。
すると前半35分、またも大西が決めた。人数をかけて押し込んだ攻撃から一度はバックラインに戻したが、すでにプロ契約を結んでいるDF森壮一朗(3年)がリベロの位置から質の高いロングフィードを右サイドに展開。右ウイングバックのMF千賀翔大郎(2年)がドリブルで打開し、縦突破と見せかけてからの左足クロスをゴール前に送り込むと、大西が身体をひねりながらのヘディングシュートをクロスバーに当てながらねじ込んだ。


もっとも、岡山はここでも譲らなかった。サポーターのチャントの声量はますます高まるなか、前半アディショナルタイム1分、左サイドバックを担うDF脇本祐希(3年)の配球から前進を試みると、MF加納尚則(3年)が持ち前のフィジカルを活かしてボールをキープし、最後は末宗がゴール前へ。昨季17歳でプロ契約を交わし、トップチームにも登録されている“10番”が左足で同点ゴールを沈めた。岡山はシュート2本で2点。大舞台で研ぎ澄まされた決定力が4試合ぶりの複数得点をもたらした。


ハーフタイムから明けた後半は岡山がさらに押し返し、一進一退の攻防が続いた。まずは2分、岡山の1点目を奪った坂本が猛烈なカットインシュートを放つも、これは惜しくも枠外。名古屋も5分、攻守に存在感を見せる八色がミドルシュートを放ったが、岡山DF松本優輝(2年)にブロックされた。また7分には八色のクロスにMF小島蒼斗(2年)が合わせるも、わずかに右へ。互いにチャンスを決め切れない時間が続いた。
そうして迎えた後半9分、名古屋のスーパーゴールが試合を動かした。サイドを使いながら深く押し込み、クロスボールが跳ね返される流れとなったが、中盤でMF野村勇仁(3年)とMF恒吉良真(2年)がつなぎながら左サイドに展開すると、MF野中祐吾(3年)が右足ロングシュート。巧みにドライブ回転をかけたボールはGKの頭上を超え、ゴールマウスに吸い込まれた。野中は日曜夜にもかかわらず、岡山まで駆けつけたサポーターにFWキリアン・ムパッペのゴールパフォーマンスで歓喜を表現。スコアは3-2となった。


その後は両チームともに選手交代を行うなか、拮抗した時間が続く。岡山は後半34分、DF千田遼(3年)のアーリークロスに末宗が飛び込むという“トップ昇格”ホットラインで決定機を作ったが、ヘディングシュートはわずかに枠を外れる。


すると名古屋は後半36分、八色のスルーパスからまたも大西が抜け出し、ハットトリックで勝負あり。8試合13得点という記録的なゴールラッシュを続けるエースの大活躍により、名古屋が4試合ぶりの勝利を掴んだ。




岡山はこれで4連敗。第5節の神村学園戦から4失点が3度、3失点が1度と大量失点が続いており、CBで先発した上で終盤はインサイドハーフも務めた2年生の松本は「ここまでは前半に決められて点差が開く厳しい試合が続いていたなか、今回はうまく蓮太くんと寛士郎くんが取り返してくれて、後ろはやられないようにと考えていたけどやられてしまった。もっと守備から入らないといけない」と反省を口にした。
それでもスタジアム開催の声援にも後押しされ、内容面では向上が見られたのも事実。梁監督は「選手の意識がより高くなって成長速度は高まっていると思うけど、もう一段高めていかないといけない」と高い要求をしつつも、応援の効果を「いつもに比べてプラスに出たと思います。後押しされたほうが大きかった」と前向きに受け止めながら感謝を語った。
「このダブルヘッダーを開催するにあたって、ファジアーノのフロントの方々、運営をしてくださる方々の協力がなかったらこんなことはできないので感謝していますし、サポーターもこれほどに応援してくれた。(普段ホームゲーム開催をしている)政田でもいつも応援してくださっていますが、こういう環境下でさらに大きな応援をしてくださったことに本当に感謝していますし、彼らの足を一歩進めさせてくれたと思います」(梁監督)


芝生の管理や試合運営負担のため、過去にも京都サンガF.C.やアルビレックス新潟など限られたクラブのみが行ってきたJリーグと高校年代との“ダブルヘッダー”開催だが、岡山はリザーブチームのファジアーノ岡山ネクストで実施してきたノウハウも活用し、実現にこぎ着けた。この日はU-21リーグの創設に向けて動くJリーグ幹部も視察しており、さらなる広がりをもたらす可能性も感じさせていた。
またこの日、Jリーグ視察のために岡山を訪れていた日本代表の森保一監督はUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)の試合前に近隣会場で開催されているUEFAユースリーグを例に挙げながら“ダブルヘッダー”の意義を見出していた。
「Jリーグがあるところで高円宮杯プレミアリーグがある、ユース年代の試合があるということはとてもいいことだと思う。私はヨーロッパでも試合を見させていただいているが、例えばチャンピオンズリーグの前にはユースの試合があって、育成の部分がよりフォーカスされて盛り上がる、そして選手たちのモチベーションになるということと、トップチームとのつながりでサポーターの皆さんに両方を楽しんでいただき、応援してもらえるという光景を見てきた。日本もプロと育成がつながって見られることはサッカー界にとっても地域にとっても素敵なことだと思います」(森保監督)
Jクラブの場合は欧州トップクラブとは異なり、自前のスタジアムではないため試合設備の完全撤収が求められたり、クラブスタッフがトップチームの試合運営に総動員したりと、開催にあたっての負担と課題はより大きい。また今回の名古屋U-18のように後泊を受け入れる対戦相手の協力も欠かせない。それでもなお、クラブユース最大の目的である選手の成長を考えれば、効果や刺激は大きい取り組みだと言える。
先陣を切った岡山としては、この意欲的な取り組みをさらなる成果につなげていく構えだ。「間違いなく大きな一日になったと思います。ただこれをきっかけに、より成長していくことが一番大事。これに満足せず、これをきっかけにして何を積み上げていくか。ここから成長速度を上げていくことが重要。いろんな人に感謝しつつも、これからが重要だと思います」(梁監督)。
(取材・文 竹内達也)
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高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2025 WESTは18日、第8節を各地で行い、岡山市のJFE晴れの国スタジアムでファジアーノ岡山U-18と名古屋グランパスU-18が対戦した。約2時間半前までJ1第17節の岡山対新潟戦が行われていたばかりのスタジアムで、高校生のプレミアリーグを同日開催するという意欲的な試み。試合は激しい打ち合いの末、名古屋U-18が4-2で4試合ぶりの白星を飾った。
今季昇格に伴う“J1フィーバー”でホームゲームのチケット完売が続くトップチームと、昨季からプレミアリーグWEST昇格を果たしたU-18との“岡山ダブルヘッダー”。試合運営の都合により一度はJ1リーグ戦に集まった14666人の観客が撤収しなければならず、さらに2時間半のインターバルを経ての開催となったが、トップチームの横断幕や応援をリードするファン・サポーターが大勢スタジアムに残り、名古屋の応援団も含めた930人が試合の行方を見守った。


ユース専用の横断幕も掲げられた
そんな観客の熱量に応えるかのように、試合はプレミアリーグらしい質の高さと両者の意地がぶつかる熱い打ち合いとなった。先にスコアを動かしたのは名古屋。前半20分、3-4-2-1のボランチを担うMF八色真人(3年=名古屋U-15)が高い位置までプレッシングをかけ、ボールを奪うと、浮き球のスルーパスにエースのFW大西利都(3年)が反応。冷静にGKとの1対1を制し、今季8試合目にして11ゴール目で1-0とした。


名古屋FW大西利都(3年)が先制ゴール
一方の岡山も普段以上の声援に奮起。すぐに意地を見せた。「もちろん失点はしないほうがいいんですけど、今季は先制点を取られるゲームが多いなか、やられても崩れないことは求めている」(梁圭史監督)。嫌な奪われ方で失点した後もビルドアップの勇気を失わず、4-3-3の布陣を可変させながらボールを前進させると、前半23分、MF坂本蓮太(3年)がMF末宗寛士郎(3年)とのワンツーから左を攻め込み、切り返しの連続で相手を次々にかわしながら最後は右足で沈めた。


岡山MF坂本蓮太(3年、写真右)が同点弾
フィニッシュの局面を一人で切り裂いたスーパーゴール。これまでU-18に縁のなかったファン・サポーターの記憶にも間違いなく残ったであろう背番号7の坂本は、憧れのピッチでの今季チーム最多3ゴール目に「気持ち良かったです。みんなから『エグかった』って言われて嬉しかったです」と喜びを爆発させた。
ところが名古屋もさらにギアを上げていく。「3試合勝ちなしで来ていて、チームとして必ず勝たないといけない試合だった」(大西)。開幕4連勝という最高のスタートを切ったが、前節まで3試合連続の複数失点によって2分1敗の足踏み。失点直後の決定機は岡山のGK水田優誠(3年)のスーパーセーブに阻まれたものの、エースは大いに燃えていた。
すると前半35分、またも大西が決めた。人数をかけて押し込んだ攻撃から一度はバックラインに戻したが、すでにプロ契約を結んでいるDF森壮一朗(3年)がリベロの位置から質の高いロングフィードを右サイドに展開。右ウイングバックのMF千賀翔大郎(2年)がドリブルで打開し、縦突破と見せかけてからの左足クロスをゴール前に送り込むと、大西が身体をひねりながらのヘディングシュートをクロスバーに当てながらねじ込んだ。


大西が2ゴール目
もっとも、岡山はここでも譲らなかった。サポーターのチャントの声量はますます高まるなか、前半アディショナルタイム1分、左サイドバックを担うDF脇本祐希(3年)の配球から前進を試みると、MF加納尚則(3年)が持ち前のフィジカルを活かしてボールをキープし、最後は末宗がゴール前へ。昨季17歳でプロ契約を交わし、トップチームにも登録されている“10番”が左足で同点ゴールを沈めた。岡山はシュート2本で2点。大舞台で研ぎ澄まされた決定力が4試合ぶりの複数得点をもたらした。


岡山MF末宗寛士郎(3年)も同点弾
ハーフタイムから明けた後半は岡山がさらに押し返し、一進一退の攻防が続いた。まずは2分、岡山の1点目を奪った坂本が猛烈なカットインシュートを放つも、これは惜しくも枠外。名古屋も5分、攻守に存在感を見せる八色がミドルシュートを放ったが、岡山DF松本優輝(2年)にブロックされた。また7分には八色のクロスにMF小島蒼斗(2年)が合わせるも、わずかに右へ。互いにチャンスを決め切れない時間が続いた。
そうして迎えた後半9分、名古屋のスーパーゴールが試合を動かした。サイドを使いながら深く押し込み、クロスボールが跳ね返される流れとなったが、中盤でMF野村勇仁(3年)とMF恒吉良真(2年)がつなぎながら左サイドに展開すると、MF野中祐吾(3年)が右足ロングシュート。巧みにドライブ回転をかけたボールはGKの頭上を超え、ゴールマウスに吸い込まれた。野中は日曜夜にもかかわらず、岡山まで駆けつけたサポーターにFWキリアン・ムパッペのゴールパフォーマンスで歓喜を表現。スコアは3-2となった。


MF野中祐吾(3年、右から2人目)がスーパーゴール
その後は両チームともに選手交代を行うなか、拮抗した時間が続く。岡山は後半34分、DF千田遼(3年)のアーリークロスに末宗が飛び込むという“トップ昇格”ホットラインで決定機を作ったが、ヘディングシュートはわずかに枠を外れる。


岡山DF千田遼(3年)が高精度クロス
すると名古屋は後半36分、八色のスルーパスからまたも大西が抜け出し、ハットトリックで勝負あり。8試合13得点という記録的なゴールラッシュを続けるエースの大活躍により、名古屋が4試合ぶりの勝利を掴んだ。


大西がダメ押し。今大会8戦13ゴール!


GK加藤直太郎(2年)は出場試合で初勝利!
岡山はこれで4連敗。第5節の神村学園戦から4失点が3度、3失点が1度と大量失点が続いており、CBで先発した上で終盤はインサイドハーフも務めた2年生の松本は「ここまでは前半に決められて点差が開く厳しい試合が続いていたなか、今回はうまく蓮太くんと寛士郎くんが取り返してくれて、後ろはやられないようにと考えていたけどやられてしまった。もっと守備から入らないといけない」と反省を口にした。
それでもスタジアム開催の声援にも後押しされ、内容面では向上が見られたのも事実。梁監督は「選手の意識がより高くなって成長速度は高まっていると思うけど、もう一段高めていかないといけない」と高い要求をしつつも、応援の効果を「いつもに比べてプラスに出たと思います。後押しされたほうが大きかった」と前向きに受け止めながら感謝を語った。
「このダブルヘッダーを開催するにあたって、ファジアーノのフロントの方々、運営をしてくださる方々の協力がなかったらこんなことはできないので感謝していますし、サポーターもこれほどに応援してくれた。(普段ホームゲーム開催をしている)政田でもいつも応援してくださっていますが、こういう環境下でさらに大きな応援をしてくださったことに本当に感謝していますし、彼らの足を一歩進めさせてくれたと思います」(梁監督)


岡山を率いる梁圭史監督
芝生の管理や試合運営負担のため、過去にも京都サンガF.C.やアルビレックス新潟など限られたクラブのみが行ってきたJリーグと高校年代との“ダブルヘッダー”開催だが、岡山はリザーブチームのファジアーノ岡山ネクストで実施してきたノウハウも活用し、実現にこぎ着けた。この日はU-21リーグの創設に向けて動くJリーグ幹部も視察しており、さらなる広がりをもたらす可能性も感じさせていた。
またこの日、Jリーグ視察のために岡山を訪れていた日本代表の森保一監督はUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)の試合前に近隣会場で開催されているUEFAユースリーグを例に挙げながら“ダブルヘッダー”の意義を見出していた。
「Jリーグがあるところで高円宮杯プレミアリーグがある、ユース年代の試合があるということはとてもいいことだと思う。私はヨーロッパでも試合を見させていただいているが、例えばチャンピオンズリーグの前にはユースの試合があって、育成の部分がよりフォーカスされて盛り上がる、そして選手たちのモチベーションになるということと、トップチームとのつながりでサポーターの皆さんに両方を楽しんでいただき、応援してもらえるという光景を見てきた。日本もプロと育成がつながって見られることはサッカー界にとっても地域にとっても素敵なことだと思います」(森保監督)
Jクラブの場合は欧州トップクラブとは異なり、自前のスタジアムではないため試合設備の完全撤収が求められたり、クラブスタッフがトップチームの試合運営に総動員したりと、開催にあたっての負担と課題はより大きい。また今回の名古屋U-18のように後泊を受け入れる対戦相手の協力も欠かせない。それでもなお、クラブユース最大の目的である選手の成長を考えれば、効果や刺激は大きい取り組みだと言える。
先陣を切った岡山としては、この意欲的な取り組みをさらなる成果につなげていく構えだ。「間違いなく大きな一日になったと思います。ただこれをきっかけに、より成長していくことが一番大事。これに満足せず、これをきっかけにして何を積み上げていくか。ここから成長速度を上げていくことが重要。いろんな人に感謝しつつも、これからが重要だと思います」(梁監督)。
(取材・文 竹内達也)
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