beacon

165センチのセンターバックがプレミアWEST制覇に刻んだ確かな足跡。神戸U-18DF寺岡佑真がピッチ上で発する圧倒的な覇気

ポスト
Xに投稿
Facebookでシェア
Facebookでシェア
URLをコピー
URLをコピー
URLをコピーしました

ヴィッセル神戸U-18が誇る生粋のファイター、DF寺岡佑真(3年=ヴィッセル神戸伊丹U-15出身)

[12.21 プレミアリーグファイナル 鹿島ユース 1-1(PK3-2) 神戸U-18 埼玉]

 それはもちろん勝ちたかったけれど、今の持てる力は100パーセント出し切ったから、不思議と悔いはない。こんなにも最高のスタジアムで、こんなにも最高の仲間たちと、日本一を目指して戦った110分間は、間違いなくこれからの自分を支えてくれる、かけがえのない時間になる。

「悔しい結果にはなってしまったんですけど、自分がサッカーしてきた中で一番凄い試合会場で、ずっと鳥肌が立っていたというか、ずっとワクワクドキドキしている感じだったので、小学生のころから今までサッカーしてきて良かったなと思いました」。

 プレミアリーグWESTを制したヴィッセル神戸U-18(兵庫)のディフェンスラインを、1年間にわたって支え続けた生粋のファイター。DF寺岡佑真(3年=ヴィッセル神戸伊丹U-15出身)の奮闘は、今季のチームの躍進を振り返るうえでも語り落とせない。


「鹿島には吉田湊海とかいいフォワードがいたので、1点も獲らせないという気持ちでプレーしていました」。寺岡は日本一を懸けた試合に、気合をたぎらせていた。高円宮杯プレミアリーグファイナル。対峙するのはEAST王者であり、夏のクラブユース選手権でも苦杯を嘗めた鹿島アントラーズユース(茨城)。絶対に負けたくない相手だ。

 一歩ずつ、一歩ずつ、着実に成長を続けてきた。神戸伊丹U-15でプレーしていた中学時代は攻撃的なポジションが主戦場。U-18に昇格してからは、中学3年時の高円宮杯で日本一を獲得した神戸U-15のメンバーも同期に多数揃う中で、サイドバックにコンバートされる。

「みんな凄く上手くて、(濱崎)健斗とか藤本(陸玖)とかは1年生から試合に出ていて、そういった選手に自分も追い付かないといけないという焦りもありましたし、最初はサイドバックにコンバートされたことで、戸惑いはありながらも、Bチームにいる時から目の前のことや毎日の練習を大事にできたから、今の結果があるのかなと思います」

 昨シーズンは後半戦から左サイドバックの定位置を掴み取り、優勝争いを繰り広げたチームの中で存在感を発揮。今季もそのままレギュラーとしてプレーしていたが、今度は第5節の東福岡高戦からセンターバックで起用されることになる。



「最初は全然センターバックに自信がなかったですね。身長も小さいので、やっていけるか不安でした」。メンバー表に記載されている寺岡の身長は165センチ。確かにセンターバックとしては小柄な部類だが、この人には戦えるメンタルとクレバーなプレービジョンが備わっていた。

「競り合いで勝つのは原(蒼汰)なので、自分は原が競りやすいようにカバーしたり、コーチングしたり、ゴールを守るために身体を張ったり、そういうところは意識しています。自分はリサンドロ・マルティネス選手のような強く行ける選手が好きなので、いつも強気に行くようにはしていますし、やられて後悔したくないので、行けるだけ行きたいと思っていますね」。

 実はファイナルの出場は危ぶまれていた。WEST制覇を手繰り寄せた12月7日のサガン鳥栖U-18戦の後半に、相手との接触で瞼の上を切り、脳震盪の疑いもあった寺岡は途中交代。それまで全試合スタメンを続けていたものの、最終節の東福岡高戦は欠場していたのだ。

「それまで全部の試合に出てきたので、東福岡との最終節も出たかったんですけど、ケガで出れなくて……。でも、みんなも原も『待ってるで』みたいな感じで言ってくれていたので、復帰できて良かったですし、ファイナルは自分が守り切って勝とうと思っていました」。みんなの温かい気持ちがただただ嬉しかった。

 この日のピッチでも存在感は抜群だった。高校でも1年と3年で同じクラスになり、昼食をともにすることも多く、寮でも部屋を行き来する仲だというDF原蒼汰(3年)ときっちり役割を分担しつつ、ここぞという時には相手フォワードにガツンと身体をぶつけ、自由に前は向かさない。

 前半のシュート数は0対10。一方的に攻め込まれる展開の中で、何とか1失点に抑えると、後半は一転して神戸U-18ペースに。同点に追い付いてからも、逆転を信じて、165センチのセンターバックは鹿島ユースの強力アタッカー陣へ必死に食らい付く。

 最後はPK戦で決着が付く。みんなで目指してきたプレミアの頂には、あと一歩で届かなかった。試合後のセレモニー。神戸U-18の多くの選手が涙で顔をゆがめる中、鹿島ユースの選手たちの歓喜に沸く表彰台を、まっすぐに見据える寺岡の姿が印象的だった。




 取材エリアに現れた寺岡の表情は、すっきりとして見えた。「ここで優勝して日本一を達成するのもいいと思うんですけど、準優勝で終わることで、大学でも燃えてくるものがあると思うので、チャンピオンになれなかったことで、これから謙虚にやっていくという意味では、良い負けにしたいと思っています」。そんなマインドも、何とも彼らしい。

 U-18の仲間たちと切磋琢磨した3年間は、ヴィッセルのアカデミーで過ごした6年間は、間違いなくこれからの自分を支えてくれる、かけがえのない時間になる。ここから先はそれぞれの道を歩むことになるが、みんなと結んだその絆はずっと、ずっと、変わらない。

「安部さん(安部雄大監督)からは気持ちの面やマインドの部分をしっかり教わってきたので、そういったところで負けそうな試合でも、最後まで諦めないというところはこれからも大事にしたいですし、人としても諦めない気持ちは大事にしていきたいと思います」。

 2025年のWEST王者を最終ラインのど真ん中で逞しく支えてきた、ピッチ上で圧倒的な覇気を発する小柄なセンターバック。寺岡佑真がクリムゾンレッドの後輩たちに見せ続けた大きな背中の価値は、これからもいぶきの森に受け継がれていくに違いない。



(取材・文 土屋雅史)

●高円宮杯プレミアリーグ2025特集
▶話題沸騰!『ヤーレンズの一生ボケても怒られないサッカーの話』好評配信中
土屋雅史
Text by 土屋雅史

「ゲキサカ」ショート動画

TOP