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イングランドとクロアチアで味わった海外の基準。湘南U-18MF杉浦誠黎がプレミア王者に挑んだ真っ向勝負と叩き出したゴラッソの価値

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湘南ベルマーレU-18のスピードスター、MF杉浦誠黎(2年=東急SレイエスFC U-15出身)

[2.16 神奈川県CYリーグカップ準決勝 湘南U-18 4-3 横浜FCユース 横浜FC・LEOCトレーニングセンター]

 跳ねるように、飛び回るように、ピッチを駆けていく。まず最初の選択肢はドリブル勝負。縦へ、中へ、自在に相手コートを切り裂き、ゴールに繋がる仕事を遂行して、対峙するディフェンダーを混乱に陥れる。その切れ味、圧倒的。

「代表に入れたのもベルマーレのおかげなので、自分はこのクラブを大切にしたいですし、トップチームに上がってたくさん活躍することで、ベルマーレに恩返ししたいので、今年の1年はまずトップ昇格を目標に、このユース年代ではプリンス昇格とクラブユース優勝に自分が導きたいと思います」。

 湘南ベルマーレU-18(神奈川)を力強く牽引する、アグレッシブなサイドアタッカー。MF杉浦誠黎(2年=東急SレイエスFC U-15出身)は世界を相手に体感した手応えを携えながら、より高みを目指すための1年に足を踏み入れていく。


「去年の年末に0-3で負けている相手だったので、みんな気持ちは勝つことだけに向いていました」。杉浦はこの日の試合に懸けていたチームメイトの想いを代弁する。神奈川県クラブユースサッカーリーグカップ準決勝で対峙するのは、昨シーズンのプレミアリーグEAST王者に輝いた横浜FCユース。年末のトレーニングマッチでは完敗を喫していただけに、湘南U-18の選手たちはいつも以上に気合を乗せてゲームに入る。

 試合は立ち上がりから激しく動いた。前半2分にMF中村龍(1年)が、5分にMF安部理仁(2年)が連続得点。開始早々に湘南U-18が2点のリードを奪ったものの、8分には横浜FCユースが追撃の1点を記録。いきなり3つのゴールが乱れ飛ぶ。

「今年は自分が一番上の代だということもありますし、自分が試合を決めたいという想いも高まっているので、点を決める気持ちはチームで一番じゃないといけないと思います」と言い切る杉浦に見せ場が訪れたのは14分。左サイドで中村からパスを受けると、鋭いカットインから右足一閃。GKのニアサイドを破った軌道は、ゴールネットを鮮やかに揺らす。

「龍から横パスが来て、最初はファーを狙おうと思っていたんですけど、相手がファーを消してきて、キーパーもファーに少し寄ったのが見えたので、身体はファーへ向けつつニアに蹴り込みました」。自主練から磨いてきたフィニッシュへの意識が結果に直結。杉浦のゴラッソでチームは再び点差を広げる。

 それでもプレミア王者が粘りを見せ、前半は3-3で終了したものの、後半に入って注目レフティのDF崎野悠真(2年)が蹴り込んだFKの流れから、相手のオウンゴールが決勝点となり、湘南U-18は1点差で逃げ切りに成功する。

 準々決勝の横浜F・マリノスユース戦に続く“横浜の難敵”撃破に、湧き上がる黄緑色の若武者たち。「マリノス戦も横浜FC戦もみんなの勝ちたいという気持ちは相手より全然強かったと思いますし、今日もみんなで声を掛け合ってやれたので、相手に隙を与えずに勝てたと思います」(杉浦)。1週間後のファイナルでは、川崎フロンターレU-18と“一冠目”を懸けて激突することになった。



 昨夏からは海外の空気を体感する2度の機会に恵まれた。1度目は8月。杉浦はチームメイトの中村と崎野と3人で、ベルマーレとクラブ間提携を結んでいるイングランドのウォルバーハンプトンへ練習参加。10日間にわたって貴重な時間を味わった。

「ウルブスではU-18とU-21の練習に入りました。U-18では自分たちの方が上手いところもあったんですけど、U-21になるとスピード感も変わってきて、ベルマーレのトップより速いところもあったので、足りないところも感じられましたし、メチャクチャ良い経験ができました」。

 練習のオフにはアカデミーのOBでもある遠藤航(リバプール)を訪問し、さらにプレミアリーグもスタジアムで観戦。「プレミアリーグの試合も見させてもらったので、ああいう舞台が今は目標になっていますね。トップチームを経験してから、そこに行くのが目標です」。たどり着きたい場所は、夢から明確な目標へとその線を結んだ。

 2度目は11月。杉浦はクロアチア遠征に臨むU-17日本代表に招集される。その3か月前に行われた「Balcom BMW CUP 広島国際ユースサッカー」で初めて年代別代表に呼ばれると、大会ではゴールも挙げて好アピールに成功し、続けて代表活動へ声が掛かる格好となった。

 現地ではアイルランド、ポルトガル、クロアチアと対戦。全試合に出場した杉浦は、現時点での明確な差を実感したという。「まず体格が違ったので、もっと筋トレとか体幹のトレーニングをしないといけないと思いましたし、海外の選手は結構周りが見えていて、『そこに来るか』という場所にも蹴り込んできたり、予想外のことをしてくるので、そういうところは勉強になりました。でも、自分はドリブルでは負けたくないので、しっかり相手を抜き去ることはできたと思います」。課題ははっきりと口にしながら、最後に強気な意志を滲ませるあたりも頼もしい。


 準決勝が行われたこの日も、午前中はトップチームの活動に参加。プロとユースの環境の違いは身体の中に刻み込まれつつある。「やっぱりスピード感が全然違って、ユースは顔を上げてからでもプレーできるんですけど、トップではもう顔を上げてからでは遅いので、そういうところはユースにも持ち帰って、自分の課題として取り組んでいます」。

 参考にしているのは、自らと同様にサイドを主戦場に置くアタッカーだ。「畑大雅選手は体格も凄いですし、スピードもあって、ドリブルもできて、周りも見えている選手なので、自分はあのレベルを目標にしつつ、超えていかないといけないなと思います。トップチームでもドリブルは結構通用するので、そこはどの選手にも負けたくないですね」。

 勝利を収めた横浜FCユース戦。リベンジに成功したタイムアップの瞬間から、杉浦はこみ上げてくる涙を抑えられなかった。思い出せば昨夏のこと。中学時代を過ごした古巣に当たる東急SレイエスFC U-18を下して、クラブユース選手権の全国切符を掴んだ試合後にも、号泣していた姿が印象的だった。

「結構感情が出ちゃうタイプです(笑)。試合が白熱して、終わった後に勝っていたりすると、涙が出ちゃう時はありますね。それは昔からずっと変わらないです」。一方で話してみると非常に素直な明るさも持ち合わせており、魅力的なキャラクターであることは間違いない。

 本人も再三口にしているように、打ち出すべきストロングははっきりしている。あとはその武器を磨き続けて、どこまで突き抜けた存在へと駆け上がれるか。ピッチ上で喜怒哀楽を解き放てるエモーショナルなスピードスター。ボールを持ったらドリブル勝負。杉浦誠黎はチームの勝利のために、とにかく行けるころまで前へ、前へと突き進む。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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