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日本代表コンフィデンシャル by 寺野典子

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巻のゴールとチームの成熟度
by 寺野典子

オシム・ジャパンにおいて、エースストライカーとは誰か?
誰もが思い浮かべるのが、招集されたすべての試合で先発出場を飾っている巻誠一郎だろう。
 しかし、未だノーゴール。その結果は川淵キャプテンが苦言を呈した。「下手なんじゃないか?」と。
 先日『サブラ』という雑誌のインタビューで巻に会った。「高校のときから上手い選手はたくさんいたし、僕は下手くそだった」と言い、自然と川淵発言の話題になり、「今さらって感じ」と少しあきれ顔で笑った。
 そして、「自分はエースという役割の選手じゃない」と何度も繰り返した。理想は「ゴールが取れる汗かきFW」だとも。「前線でつぶれ役になったり、守備をしたり……」とその仕事について語る。その姿には自信が溢れていたし、そういうプレーをすることでジェフ千葉ではチームメイトが点を取ってくれると話す表情からは、チームメイトと築いた深い信頼感が伝わってきた。
 巻が千葉に入団した年、オシムが監督に就任している。そして3年目を迎えた05年、先発に定着した巻は12得点を挙げ、チームもリーグ戦4位、ナビスコカップ優勝という成績を残した。チームの成熟度に比例するかのように巻のゴールも増えていった。
「どこに行っても馴染むのに時間がかかり、遅咲きだと言われる」と言う巻だが、05年夏以来2度目の招集となったジーコ・ジャパンでは、今年2月から5月上旬まで6試合に出場し3得点をマーク。しかしオシム・ジャパンでは……未だノーゴール。ふたつの代表の違いはいくつもあるだろうが、ひとつ挙げるとすればやはり組織の成熟度の違いだろう。
 巻のゴールの歴史をたどり、彼のゴールと組織の成熟度は無縁ではないことを、改めて思った。圧倒的な個人技でゴールを生むのではなく、組織の駒として機能することで力を発揮する……巻はそういうストライカーなのかもしれない。

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