beacon

日本代表コンフィデンシャル by 寺野典子

このエントリーをはてなブックマークに追加

監督の手腕
by 寺野典子

 今季限りで勇退する浦和レッズのギド・ブッフバルト監督。個性派集団をまとめた手腕のひとつには、不甲斐ない試合後の選手への叱責ぶりがある。ミスをした選手への個人攻撃もあり、それは手のつけられない子供のように感情的だった。「ああやって感情的に怒ることで緊張感が増す。これも計算のうち」とブッフバルト監督は笑顔で話していた。そして浦和レッズの強化部長が語る。「ギドが来てから選手たちはオンとオフの切り替えが非常に上手くなった」と。試合前々日に行われる紅白戦の激しさもまた強い浦和の象徴だとも彼は付け加えた。
 そんな話を聞きながら、ジーコ・ジャパンのことを思った。
 実は、ジーコとブッフバルトは名選手だった過去が起因しているのか、共通点が多い。
ふたりとも勝利に徹する面があり、選手交代も少ない。そして、選手の自主性を重んじる監督であり、試合前日にはミニゲームでチームをリラックスさせているのも同じだ。
 しかし、ジーコが選手を叱責するのを見たことがない。「ピリピリした空気ではなく、リラックスした中で徐々に気持ちを上げていくのがこのチームのやり方」と宮本キャプテンも語っていた。そんなジーコが初めて、怒鳴り声を上げたのは、ドイツ大会も残りわずかになってからだったと記憶する。それはあまりに唐突で、突然過ぎた。そして違和感だけがチームに残されたのかもしれない。
 ワールドカップ中のチームのムード作りでは、ブッフバルトの方が上だったのかもしれない。
 20代半ばを過ぎた年齢にもなって、指揮官に怒鳴られなければ、緊張感が保てないのは、あまりに幼稚ではないかと思うこともあるが、98年のフランス大会のフランス代表のドキュメント映画などを見ても、いかに指揮官がチームのムード作りに気を配ったかは伝わってくる。本番前に放たれる選手個々のエネルギー。ギリギリの状態に立たされた者たちの“熱”をまとめるのは、年齢に関係なく容易くはないだろう。しかし、まとまらなければ、チーム力として爆発しない。
「甲府戦のハーフタイム、監督とワシントンが凄い言い合いをしていたんです。でも(控えの)岡野さんが冷静に話していたんで、僕らも冷静になって試合を振り返り、後半に臨めた」という長谷部の話を聞いて、監督をサポートする選手の存在の有無でも浦和レッズの方が優れていたようだ。
 W杯ではホーム開催とは違うプレッシャーに押しつぶされそうになり、続々と起きる負傷などアクシデント。そして、想像を絶する初戦の惨敗。そんな状態に置かれた選手たちをひとつにし、試合へと導くリーダーがドイツの日本代表には居なかった。その力が果たして監督にあったのか? もしそれを指揮官に望めないのであれば、そういう仕事の出来るアシスタントコーチや選手の必要性を感じ、手を施すべき立場は誰だったのか?
 ドイツでの結果を監督や選手、現場スタッフだけに押し付けるわけにはいかないと改めて思った。

TOP