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日本代表コンフィデンシャル by 寺野典子

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新たなスタート
by 寺野典子

 いまから約1年前の05年12月。ワールドカップドイツ大会の組み合わせが決まり、その舞台に立つ可能性のある選手たちは誰もが期待に胸を膨らませていた。
「トルシエのときとは違い、日本代表らしいサッカーで勝負に挑めるから、いろんなことが見えてくるはず。終わったとき『やっぱり俺全然ダメだったなぁ』とたくさん課題が見つかればいいね」と意気揚々と話していたのは中村俊輔だった。しかし40度近い発熱の中、何もできずに大会は終わった。ピッチ上では課題を見つける以前の状態だった。何も得られないというよりも、喪失感が大きかったに違いない。残されたのはえぐりとられたかのように大きくあいた穴だっただろう。
「だからさ、必死こいてるよ、チャンピオンズリーグで(笑)」
 その穴を埋ようと中村は戦っている。
 あのピッチに立った多くの選手たちが同様の喪失感を抱いたはずだ。
 無残に散った大会結果。自分たちのサッカーをやり敗れたのであれば、課題も見つかるが、個々の能力の差を痛感したとは言え、自分たちが積み上げてきたサッカーが出来なかったことでの空しさは小さくはないだろう。もしかしたら、最後の最後まで、彼らの思う“自分たちのサッカー”がひとつにはならなかったのかもしれない。
 様々な立場の人間が、様々な原因を口にする。それはピッチに立った者だけに限らない。けれど、原因など誰にもわかるはずはないのかもしれない。そして、原因探しは当事者にとっては、意味を持たないのかもしれない。冷めたような悔しさとやり切れなさが残ったとしても、過去には帰れないのだから。
すぐに2010年に向かう代表へのサバイバルに名を連ねられれば、それは大きな“切り替え”のモチベーションになるだろう。しかし、多くのドイツ大会のメンバーは欧州組も含め、そのチャンスは与えられていない。
 過ぎて行く時間の中で、やれることは、無心に毎日のサッカーに打ち込むことだけだ。小さな課題や目標を手にコツコツと始めるしかないのだ。
 そうすれば、きっと、新しい何かが見つかるはずだ。大きな穴を埋めることができるかどうかはわからないが……。代わりの何かはきっと見つけられる。中村にとってのチャンピオンズリーグのような何かが……。

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