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Jを目指せ! by 木次成夫

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第212回「天皇杯1~2回戦 ヴァンラーレ八戸に感動したものの……」
by 木次成夫

疲れはてた「格下」を中1日で「格上」がホームで待っている設定が影響してか、天皇杯2回戦で『ジャイキリ』を達成したのは町田ゼルビアとソニー仙台2チームだけでした。
その一方で、観客数は概ね低迷。せめて、格下がホーム(あるいは近隣)で1~2回戦を戦える設定にすれば、観客動員を含めて、プラスの効果が期待できたでしょうが……。

[祝ジャイキリ]
≪町田ゼルビア≫
2回戦:1-0 東京V
(西が丘=東京、19時KO、気温31.7度、観客3231人)
*両チームとも2回戦から参加。読売クラブ(東京Vの前身)が日本随一の強豪になった80年代中盤、ゼルビア(FC町田)にはトップ・チームすら存在しませんでした。つまり、壮大な夢が叶ったわけです。自治体や財界の主導ではなく、当時は“青年”だった小学校教諭(現・ゼルビア代表)らが一般人の努力と情熱で――。

だからこそ、思います。Jリーグ基準は、何の意義があるのか? 同基準を満たさない競技場で、天皇杯など様々な大会は開催しています。そもそも、危機的財政状況の自治体が多い中、「Jリ-グに入りたければ、もっと税金を使いなさい」といわんばかりの『政策』を続けること自体、日本国民として、信じられません。

日本各地に、いわば“税金パワー”の後押しで、Jクラブが次々に誕生していく中、ゼルビア関係者の方々は、どんな思いで、土のグラウンドを整備していたか……。

≪ソニー仙台≫
1回戦:3-2(延長) 福島ユナイテッド
(Jビレッジ=福島県、14時KO、気温32.5度、観客348人)
*福島Uが2点先制したものの、「ジャイキリ」ならず!
2回戦:1-0(延長) ベガルタ仙台
(ユアスタ=宮城、19時KO、気温26.2度、観客4649人)
*2試合連続で120分。社員選手が多いチームとしては、驚異的な粘り勝ち!

[遠方の中立地で1回戦をする意義への疑問]
例えば、≪カマタマーレ讃岐≫
1回戦:1-1(PK5-4)高知大学
(熊谷=埼玉県、15時KO、気温36.2度、観客数175人)
*例えば、高知県開催にすれば、「龍馬ブームだし、高知まで行ってみようか」と考えるアルディージャ・ファンもいたと思うのですが……。
2回戦:1-4 大宮アルディージャ
(大宮=埼玉県、17時KO、気温31.8度、観客数2208人)
*カマタマーレは1回戦前日に埼玉県に移動して、4泊5日。1回戦の翌日は、熊谷から大宮付近のホテルに移動した後、疲労を多少なりとも癒すために「銭湯に行きました」(北野誠監督)。つまり、練習はナシ。ただ、中1日(ましてや、猛暑の埼玉)でコンディションが戻るわけもなく、動きはイマイチでした。

ちなみに、大宮まで観戦に訪れたカマタマーレ・ファンは一見して、30~50人。カマタマーレに限らず、NHKが県内限定で地元チームの試合を放映すれば、選手たちの頑張りが伝わったかもしれませんが……。「ツイッターで速報をしたのですが、反響は大きかったです」(同関係者)。

[練習で実感した資金力格差]
練習中に気付いたのですが、アルディージャは“すべて”天皇杯専用球、カマタマーレは“大多数が”持参した球。不公平と思いきや……、練習で多数の大会使用球を使いたい場合は、クラブ側が事前に購入しなければならないのです。つまり、カマタマーレは「買いませんでした」(カマタマーレ関係者)。

誰だって、可能であれば試合で使うボールに慣れたいと思うはず。そういう観点では、“金持ちに有利な”規定です。

例えば≪V・ファーレン長崎≫
1回戦:4-0 環太平洋大学(岡山県代表)
(笠松=茨城県、16時KO、気温31.7度、観客数185人)
*アクセスが相対的に悪い「水戸の北」で開催するなら、観客の少なさを予測して、例えば、横浜近辺のグラウンドで開催した方がマシだったと思います。
2回戦:1-3 横浜Fマリノス
(三ツ沢=神奈川県、19時KO、気温28.9度、観客数3364人)


●9月3日
天皇杯1回戦
順天堂大学 5-4(延長) ヴァンラーレ八戸

青森県八戸市は人口約24万人。青森市(約30万人)に次ぐ“第二の”都市です。ヴァンラーレは06年に地元クラブが合併して発足。「2016年、Jリーグ参入」が目標で、昨季は東北2部北ブロック3位でした。天皇杯は初出場。試合を見たのは今回が初めてでしたが、ツータッチ程度でスピーディに“つなぐ”スタイルに驚きました。

地元出身者を中心に好選手を集めてきた成果+今季からチームを率いる山田松市監督(元・湘南監督など)の手腕→質も志も高いサッカー

主力選手を何人か挙げると――、

CB照井篤(30歳=今季加入、前ガンジュ岩手←栃木SC、元・湘南など。岩手県出身)
*昨季はガンジュでプレーしつつ、全国高校選手権に出場した盛岡市立高校サッカー部でコーチも務めていました。現在は、ヴァンラーレを運営しているNPO法人の職員で、下部組織の子供たちの指導もしているそうです。

ボランチ新井山祥智(主将=25歳、前・八戸大学←光星学院高校=青森県)
*06年(大学3年生)にインカレ(全日本大学選手権)出場。「視野の広さと予測能力の高い選手である。攻守に渡りチーム全体のバランスをコントロールできる八戸大学の司令塔」(同大会のプログラムより抜粋)。順大戦も、際立って上手かったです。

ボランチ小島暢明(23歳=今季加入、前・国士館大学←遠野高校=岩手県←七戸中学)
*“帰ってきた”地元のスター。例えば、国士館大学が快進撃した08年の天皇杯では、3年生ながらも、同期のDF佐藤由将(現・松本山雅)らと共に主力として活躍した実績。

FW三田和典(25歳、前・八戸大学←専修大学北上高校)
*大学時代は新井山と同学年。

左SB高山祐太(19歳、前・青森県立五戸高校)
*高卒1年目とは思えないほど、果敢なプレーを披露。

≪得点経過≫
9分 0-1(八戸=三田)
11分 1-1(順大=岡本達也)
31分 2-1(順大=左山駿介)
34分 3-1(順大=天野順)
57分 3-2(八戸=高山)
67分 3-3(八戸=新井山)
69分 3-4(八戸=新井山)
84分 4-4(順大=天野順=FK直接)
114分 5-4(順大=市原秀篤)

最終的にはスタミナ面で力尽きたという印象ですが、流れの中での3連続得点には魅せられました。仕事とサッカーを両立させているアマチュアには“ありえない”と思うくらい、素晴らしいサッカーでした。ちなみに、平日の練習は「夜7時からだと間に合わない選手もいるので、夜8時から10時まで」(クラブ関係者)だとか。

試合を見ていたJFL関係者いわく、

「今後が楽しみなチームだったね」

<写真>右が天皇杯公式球、左はカマタマーレ讃岐が持参した球
▼関連リンク
大宮対カマタマーレ写真
順大対ヴァンラーレ写真

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