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レッズの真相「ビッグクラブ2」

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 長谷部誠がイタリア・セリエAのシエナから獲得オファーを受けたというニュースが新聞紙上を賑わしていた。
 シエナからのオファーはかなりの好条件だった。当面は1年間のレンタル移籍になるが、その後、完全移籍と相成った場合には2億5000万円もの移籍金をレッズへ支払うという。
 レッズは長谷部と1年契約を交わしているが、その契約条件のなかには海外移籍に関して一定の条件であればそれを容認するという条項が盛り込まれていた。長谷部側が移籍に自信を示しているのは、そのような背景もあったのである。

 しかしシエナ側に最近、大きな動きがあった。長谷部獲得を望んでいた強化部長が辞任し、新しいGMが就任したというのだ。また、現況、シエナの外国籍選手枠は埋まっており、長谷部がシエナ入りしたとしても、すんなりとリーグデビューを飾れる環境が整っていないという。それでもこのニュースに信憑性があったのは、長谷部側の代理人の下に、シエナからの移籍契約交渉を託す正式な委任状があったからだ。
 中村修三GMが明かす。
「非公式だが、シエナからの委任状は確認していた。ハセ(長谷部)は、レッズが今季、リーグを制し、アジア(アジアチャンピオンズリーグ)を制するためには欠かせない選手。強く慰留するつもりだが……。ただ、本人の意向を含めて、今回は(移籍は)、しょうがないかなとも思っている」
 中国・済南でのA3チャンピオンズカップ期間中、レッズのフロントは長谷部の移籍を半ば容認しているようだった。それは契約条件上、断れないオファーであることを意味していた。また長谷部自身も、「欧州への挑戦については、レッズがリーグ優勝してから考える」と、かねてから公言していた。その目標を昨季果たした今、長谷部の気持ちが移籍に傾いてもおかしくはなかった。
 また、長谷部は恩義のあるレッズに対して円満な解決を望んでいた。成長させてくれたクラブに金銭面でも貢献したいという思いから、相当の移籍オファーでなければ受けないという意思も持っていたのだ。今回のシエナからのオファーは、その要望に適うものだったのである。

 しかし、レッズはそのオファーを受けようとしなかった。特に藤口光紀社長が強硬に移籍に反対し、長谷部の慰留に努めた。そして、長谷部側の代理人に対して、「今回は放出しない」という強固な意志を示したのだった。
 再び中村GMの話。内容は、10日前とは明らかに変化していた。
「今回は長谷部の移籍を認めないことにした。今、ハセは試合に出られたり、出られなかったりする状況が続いている。シエナは昨年の、いいときの長谷部を評価してオファーを出したのだろう。だが、それでいいのかと。ハセには『しっかりとした実績を残して、日本代表にも選ばれたうえで海外へ挑戦しろ』と言おうかと思っている」
 長谷部の今夏のシエナ行きは、これで潰えた。おそらく長谷部は今季、レッズのアジア制覇のために全身全霊で取り組んでくれるだろう。夢の海外移籍が先延ばしになったとしても、長谷部のモチベーションに変化はないはずだ。
 しかし、今回のレッズの“移籍回避術”は少々強引なものだったかもしれない。
 長谷部サイドは今夏の海外移籍をレッズ側の意向に沿って諦める代わりに、1年契約が切れる今季末に移籍金ゼロでの海外移籍を画策することだろう。レッズ側も今回の残留要請を強行したことで、来季の長谷部放出やむなしという結論に達したという話も漏れ伝えられている。
もし今冬に長谷部の0円での移籍を認めると、今後のクラブ運営に支障をきたすと考えられる。レッズに在籍する選手の大半は1年契約である。0円で海外に移籍できるのならば、野心ある選手、及び代理人はそれを選択する可能性が高くなる。クラブへの忠心を振りかざしても、魑魅魍魎なサッカービジネスのなかでは効力をなさない。
心血を込めて育てた選手が巣立つとき、クラブに何の足跡(金銭など)も残らないのは、あまりにも経営的に拙いのではないか。優秀なタレントを有するレッズは今、かつての弱小時代とは違う、新たな問題に直面している。

●皆様はこの「問題」をどうお考えですか?感想やご意見をにてお待ちしております。

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