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レッズの真相「ビッグクラブ2」

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 06年12月。田中達也は右足脱臼骨折を負った際に埋め込んだプレートを除去する手術を行った。
 プレートを除去するのはかねてから決められていた事項だった。予想外だったのは復帰時期。当初は3月初旬のJリーグ開幕へ間に合わせるつもりだったが、それは叶わなかった。時を経てもなお、田中達の足首には激痛が走っていたのだ。
 日常生活に支障はない。しかし、彼はプロサッカー選手である。足を使うことを生業にする者にとって、右足脱臼骨折というケガからの再生は困難を極めた。
「でも、みんなが思っているより、僕は落ち込んでいなかったですよ。ケガした直後は、『これで1年くらいは休養できるかな』なんて思ったしね。むしろ、今回のプレート除去後のリハビリ中のほうが焦りはあった。今季のレッズはギドからオジェック監督に代わったから、早く新しい指揮官に自分のプレーをアピールしたかったんですよね」
 それでも実際は、ボールを蹴ると悶絶してしまいそうになった。
「あまりに痛くて、『もう家に帰りたい』と、何度も思っていた」

 それでも彼は、私たちの前に帰ってきてくれた。練習試合、紅白戦を数戦こなした後の6月上旬。中国・済南で開催されたA3チャンピオンズカップで約6か月ぶりに公式戦復帰を果たしたのだ。その復帰戦ではブランクを感じさせない精力的な動きでチームを活性化して順調な回復ぶりを内外に示す。また、彼らしいストイックな言動もあった。
「体力面は問題なかった。充実感はあったかって? チームが勝てなかったので、嬉しくはないです。それに僕自身もチャンスを逃したし。もっとシュート精度を高めないといけませんね」

 中国からの帰国後初戦、Jリーグ第15節のFC東京戦では国内リーグ戦今季初得点もマークした。ワシントンのシュートを相手GKが弾き、そのこぼれ球に反応して決めた彼らしいゴールだった。また、続くリーグ第16節の神戸戦ではスピード溢れる動き出しと切れ味鋭いドリブルを駆使して相手を幻惑し、2回もPKを奪取。もとより、献身的な前からのプレス、労を惜しまない相手バックライン裏への抜け出しは停滞感の漂っていたレッズのサッカーに風穴を開ける起爆剤となった。
 チームメイトの坪井慶介が賞賛する。
「達也が戻ってきて、本来のレッズのサッカーが取り戻せたように思う。今は攻守両面で連動性が生まれていますから。アイツ(田中達)が調子に乗るから本当は言いたくないですけど、今の好調ぶりは達也のおかげということにしておきましょう(笑)」

 リーグ18節・磐田戦。田中達は相手GKの川口能活と交錯して右足つま先を痛め、途中交代してしまう。幸い、MRI検査の結果では骨折は認められず打撲と診断された。本人も「それほど重いケガじゃない。すぐに復帰できますよ」と表情は明るい。
 しかし、実は田中達の右足は、いまだに悲鳴を上げている。ボールを蹴ると痛みが走るのは今も同じ。それでも彼はメゲない。
「シュートを打つときに痛いのは、もうしようがない。だったら、痛くならないような位置でシュートを打てばいい。こう思うんです。僕のウリは、その前の段階なんじゃないかって。つまり、シュートに持ち込むまでの動作。これができなくなったら選手として終わりだと思う。でも、今はステップやダッシュ、ドリブルは違和感なくできる。その形まで持ち込めれば、後はどんな体勢でもシュートを決めればいいんでしょ。何の心配もないですよ」
 明るく前向きな頼もしき“リトル・ジャイアント”。彼の復帰によって、レッズは備え持つ力を、一回り大きくさせたように感じる。

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