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No Referee,No Football

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華麗なゴールの陰にあったアドバンテージ
[J1第13節 F東京vs神戸]

 南アフリカW杯も終わり、約2ヵ月ぶりに再開したJリーグ。FC東京ヴィッセル神戸の試合では、家本政明主審の素晴らしいジャッジがあった。

 前半18分、F東京が2点目を決めたシーン。左サイドでボールを持ったリカルジーニョ選手はタッチライン際から自ら仕掛けた。神戸はDF2人で対応したが、ドリブルを止められず、DF北本久仁衛選手が後方から手で引っ張った。しかし、リカルジーニョ選手はバランスを崩しながらも倒れることなく、そのまま突破。ここで家本主審はアドバンテージを適用し、リカルジーニョ選手のクロスに大竹洋平選手が左足で合わせ、ゴールを決めた。

 たとえファウルがあっても、その場でフリーキックを与えるよりも、そのままプレーを続行させた方がチャンスになると判断した場合、主審はアドバンテージを適用する。このシーンは、北本選手にホールディングのファウルがあったが、リカルジーニョ選手はそこで倒れずに突破しようという意図があった。もしも、北本選手が引っ張っていた時点で笛を吹き、プレーを止めてしまえば、大竹選手のゴールも生まれないし、良い審判とは言えない。アドバンテージの適用は、選手が頑張って倒れないことが前提になるが、その選手の頑張りをしっかりと見極めた素晴らしいジャッジだった。

 家本主審は5月24日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われたイングランド対メキシコの国際親善試合も担当した。日本人レフェリーとして初めてサッカーの聖地・ウェンブリーのピッチに立ったのだが、この試合でもアドバンテージから決まったゴールがあった。

 イングランドが2-1とリードしていた後半2分、相手陣内の右サイドでイングランドの選手がファウルを受けたが、そのこぼれ球がグレン・ジョンソン選手につながった。家本主審はアドバンテージを適用。グレン・ジョンソン選手はそのまま中央に切れ込み、ペナルティーエリア外から左足で豪快なミドルシュートを決めた。グレン・ジョンソン選手の前にはスペースがあり、そのままドリブルで行っても、ゴール前にクロスを上げても、十分にイングランドのチャンスとなる場面だった。家本主審はピッチ全体の状況を把握し、プレーの流れをしっかりと読んだ上で的確な判断を下した。

 試合後にイングランドサッカー協会のデヴィッド・アラレイ審判委員長(トヨタカップの主審として日本にも来たことがある)と会ったのだが、「イングランドのレフェリーと違って家本主審はプレーをあまり止めず、試合が流れるように進めていた。見習いたい」と言っていた。社交辞令もあったにしろ、特長を取り入れた評価だと思う。

 F東京の試合もイングランドの試合も、家本主審のポジショニングの良さが光った。アドバンテージを適用した場面ではファウルのあった地点のすぐ後ろにポジションを取り、全体の動きを把握していた。事前の試合分析で、チーム戦術、選手のプレースタイルを十分に把握し、自分がどこに動いて、どの位置からどの角度で見れば、全体のプレーが見えて、試合の流れを読むことができるか。それがしっかり分かった上で、体が自然と動いているのだと思う。

 選手の特徴を把握することは審判にとって、とても重要だ。ファウルを受けるとプレーをすぐやめてしまう選手もいるし、ファウルをものともせず、ゴールに向かう選手もいる。また、遠藤保仁選手のようにフリーキックが得意な選手、香川真司選手のようにボールを持つ技術の高い選手もいる。

 南アフリカW杯では西村雄一主審、相樂亨副審、ジョン・ヘサン副審のチームが4試合を担当した。西村主審、相樂副審は、日本人として初めて決勝の舞台にも立つなど大いに活躍してくれた。アジアの国際主審の中で、その西村主審に次いで日本人で高い評価を得ているのが家本主審だ。西村主審の競争相手としてさらに成長していくことを期待しているし、4年後のブラジルW杯を目指してもらいたい主審のひとりである。もちろん、西村主審の活躍が刺激にもなっているのだろうし、家本主審の成長によって、西村主審とともに切磋琢磨できれば、お互いの審判レベルもさらに向上していくはずだ。

 W杯直後のJリーグで家本主審が素晴らしいゲームコントロールを見せてくれたのはとてもうれしかった。是非、このようなレフェリングを続けていってほしい。その一方、仮にミスがあっても、“ミスはミス。家本主審ならしょうがない。次は頼むぞ”と、選手のみならずだれからも信頼され、受け入れられるような審判になっていってほしい。

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