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No Referee,No Football

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自分のスタイルを確立した西村主審
[J1第14節 川崎Fvs京都]

 南アフリカW杯で4試合を担当し、日本人として初めてW杯決勝の舞台にも立つなど世界的な評価を高めた西村雄一主審。帰国後初の担当となった川崎フロンターレ京都サンガF.C.の試合でも、安定したジャッジと素晴らしいゲームコントロールを見せてくれた。

 試合全体を通してポジショニングがよく、無駄な動きが少なかった。読みがいいのだろう。試合の流れを見極め、ボールがどこに展開されるのかを読んだ上ですぐに動き出し、プレーの近くにポジションを取っていた。アドバンテージの適用も的確だった。

 もちろん、ミスがなかったわけではない。例えば、前半9分に京都の中村太亮選手が足にタックルを受けて倒された場面。西村主審はノーファウルと判断したが、これは間違いで、川崎Fのキッキングのファウルを取るべきだった。後半5分過ぎには3回連続でパスやドリブルのコースに入ってしまい、プレーの邪魔になるシーンもあった。ぎりぎりのところでよけて、ボールには当たらなかったが、立ち上がりで集中力が切れていたのか、ポジショニングが曖昧だった。

 どんな審判にもミスはある。しかし、大きなミスはなかったし、小さなミスに対しても選手が執拗に抗議する場面はなかった。きちんとした判定がベースにあり、選手が安心してプレーできていたからだろう。互いにリスペクトあふれる試合だった。

 W杯でもそうだったが、この試合でも西村主審の表情は穏やかで、笑顔が何度も見られた。これまでも試合中に努めて笑うようにしているところはあったが、それが完全に身に付いたスタイルにはなり切れていなかった。W杯で経験を積んだことで、余裕が生まれたのだろう。実際、試合中の緊張感やプレースピードはW杯とJリーグでは違う。自分がもっと高いレベルの試合で笛を吹いたという自信も余裕を生むはず。それが過信になることなく、いい方向に表れている。

 W杯準々決勝のオランダ対ブラジルの試合では、そうしたソフトな対応が“弱さ”にも見えたが(例えば、ロビーニョの抗議に対する対応)、Jリーグ復帰戦を見る限り、これが彼の個性、スタイルとして確立され、それを試合の中でうまく生かすことができるようになってきたと感じることができた。

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