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サッカー少女 楓

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 決勝の前日、見城たちは多村に直訴した。

「多村先生、僕たちを全国へ連れて行ってください」

 本来なら、大会前に登録した者しかベンチには入れない。だが、向井は多村が島村を殴ってコーチをやめたあとも、すべての大会に多村をコーチとして登録していたのだ。

 そのことを知った多村は心を動かされたが、大きな難題があった。

 男子の決勝が行われる日、女子サッカー部もまた、決勝で鶴見女学館と対戦することになっていたのだ。

「俺は女子サッカー部の監督だ。一緒に汗を流した部員たちを最後まで見守る責任がある」

 多村の返答に、見城たちは納得せざるをえなかった。

 このとき、多村の心を動かしたのは女子サッカー部のメンバーだった。

 見城たちと入れ替わるように、楓が多村の前に現れた。

「なんだ、夏川。決勝のスタメンを誰にするかの相談か? その日の体調にもよるが、だいたい決めてあるぞ」

「いえ、違うんです」

 楓は少し言いよどんだが、さっきまで女子のメンバーで話しあって決めたことを多村に告げた。

「先生、明日は男子の決勝に行ってあげてください」

「えっ」

「今、男子サッカー部を助けてあげられるのは、多村先生しかいません」

「俺はおまえたち、女子サッカー部の監督だぞ」

「みんなで話し合って決めたんです。私たちは、監督なしで鶴見女学館と戦ってきます。大丈夫です。もともと、監督なんかいなくて、私たちだけでやってたわけだし、先生がいなくても勝ってみせますよ」

 楓の笑顔に、多村の表情もゆるんだ。

「おまえら、ほんとにいいのか」

「はい」

「わかった。俺がどこまでできるかわからないが、お世話になった向井先生のためにも全力を尽くすよ」

「その代わり、絶対に勝ってきてくださいよ。じゃないと、私たちが監督を送り出したかいがないですからね」

 多村はうなずくと、楓に1枚の紙を渡した。

 そこには何度も修正した跡のある、決勝のスタメンが書かれてあった。


※本連載は毎週月・水・金に配信予定です。
女子W杯でMVP&得点王に輝いたなでしこジャパンの澤穂希選手をモデルに、国民的サッカー漫画『キャプテン翼』の作者である高橋陽一氏が書き下ろした青春サッカー小説『サッカー少女 楓』。各メディアに引っ張りだこの話題作を全文まとめて読みたい方はコチラ(amazon.jp)からお買い求め下さい。
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