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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第5回:高体連指折りのプレーメーカー、山本悠樹、その強味が抱かせる「確かな可能性」
by 川端暁彦

 公立高校とは思えない見事な人工芝グラウンドに小気味良くボールを蹴り合う音が響く。滋賀県立草津東高校の立派なグラウンドは税金で建てられたと思われがちだが、実は寄付を募って自前で整備したもの。規模感は違うが、創意工夫を凝らして費用を安くしながら、クラブの夢のために情熱を注いで完成させたという点では、ガンバ大阪の新スタジアムとも少しばかり重なるものがある。

 今年の草津東は「勝負の年」と言われている。グラウンドが完成した影響もあって優れた個が集まるようになり、上を狙えるチームに仕上がった。小林茂樹監督に言わせると過去にも良い選手のそろった学年はあったが、「今年はとりわけ特長を持った選手のバランスが抜群にいい」。性格的にも、プレー面でも、「組み合わせが良い」形になったという。ただ、公立校という制約もあるだけに意図してバランス良く集めたわけではない。熟練の将は「本当にたまたまです。たまたまバランスがいい」と言って豪快に笑った。

 そうしたバランスの結節点に一つの個性がある。練習でも最初の段階では大して目立たないのだが、ゲーム形式に近付いていくにつれてプレーの精度と感覚の良さで存在感が際立っていく。草津東の大黒柱たる山本悠樹は今年の高校サッカーで指折りのプレーメーカーである。

 誤解を恐れずに言うなら、少しクラシックなタイプだ。スタイルは「あこがれの選手はずっと(元フランス代表MF)ジダンでした」と語るとおりに、典型的なトップ下。非常に頭と目の良い選手で、少しのスペースを見出して、あるいは後々生じるスペースを見通してパスを繰り出して攻撃を彩っていく。

 高校に入ってからは新たに参考にするようになったというスペイン代表MFシルバの動き出しも採り入れて、徐々に新境地を開拓。「動きながらボールを受けて、自分で仕掛けていく」(山本)姿勢を磨いてきた。シュートのためのドリブルと、シュートを打たせるためのパス出し。独特の個性とセンスはスピード豊かな攻撃陣というチームの特長ともピタリとハマって、大きな脅威になっている。

 動き出しの部分、絶対的な運動量、守備への貢献といった部分でネガティブな評価を受けることもあるかもしれないし、まだ線も細い。全国的な評価を得られたのも最近のことで、いわゆる「遅咲き」のタイプだろう。だが、稀少なストロングポイントは未来に向けた確かな「可能性」を感じさせてくれるもの。残り少なくなった高校サッカーの時間に加えて、「高校後」のブレイクスルーを期待したくなる、そんな選手である。


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