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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第19回:始まりはいつでも(関東一高)
by 平野貴也

 2点差からの逆転で、試合終盤に勝敗は決した。しかし、試合はさらに盛り上がった。悲壮感はどこにもない。まるで、今のスコアなど関係がないと言わんばかりに、両ベンチから「取られても構わない!点を取りに行け」と声がかかった。全力で最後の1点を奪い合う。ただ、それだけだ。勝っていても、負けていても、時間が惜しかった。順位が確定した後の消化試合とは思えない熱の入りようだったのは、ともにチームでの活動を終える3年生がいたからだ。

 試合は、優勝を決めていた関東一高が3-2で横河武蔵野FCユースを下した。東京都U-18リーグ1部の最終節を戦い終えた両監督は「最後は、面白くなりましたね」と笑い合った。

 関東一は、夏の全国高校総体で4強入り。冬の選手権でも東京都の優勝候補だったが、まさかの初戦敗退を喫した。リーグを優勝したため、来季のプリンスリーグ関東昇格をかけた参入戦がまだ12月に残されているが、大きな目標を失った心の傷は、まだ癒えない。チーム活動は、リーグ最終戦で一つの区切りをつけるという。受験勉強に切り替える3年生もいるからだ。

 様々な思いが交錯するリーグ最終戦だったが、主将の鈴木隼平は「気持ちがプレーに出て、良い試合になったと思う。今までは学年に関係なくやってきたけど、今日は3年生でやる最後の試合だったので、勝って終わりたいと思っていた。選手権が終わって、今もまだ気持ちの整理がついていない。でも、負けた次の日も、自然とみんなで集まってボールを蹴って遊んでいた。やっぱり、サッカーが好き。プレーできる環境があることに感謝したい。まだ時間がかかると思うけど、いつか、あの経験があって良かったと言えるようにしたい。僕自身は最後にリーグ昇格を後輩への置き土産にしたいと思っているし、同じ気持ちの3年生とは、また一緒に戦いたい」と前向きに振る舞った。

 ショッキングな敗戦から、わずか1週間。小野貴裕監督も「今は、何を聞かれても、頭の中が整理できないんですよ」と苦笑いを浮かべるばかりだったが、最後にこう言った。

「今日は、良い試合だった。最後、面白かったですよね。この試合をやって、やっぱりサッカーをやりたい、続けたいと思う選手がいたら、本物のフットボーラーになったんだなって思いますね」

 挑戦を終えるタイミングは、思うようにいかないこともある。しかし、新たな挑戦を始めるタイミングは、いつでも自分で決められる。

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