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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第7回:桐生一FW滝沢昴司がこれから常に表現する「あんなにできるだけのモノ」
by 川端暁彦

 こらえても、こらえても、なおこらえきれぬ涙が頬を伝っていた。11月8日、正田醤油スタジアムで行われた高校サッカー選手権群馬県予選決勝。本命視されていた桐生一高は、前橋育英高を相手に0-2のビハインドから追い付く驚異的な粘りを見せるも、PK戦の末に涙をのむこととなった。

 桐生一の背番号10を預かるFW滝沢昴司が見せたプレーは堂々たるものだった。完全に孤立していた前半にしても怖さはあり、0-2となって迎えた後半は反撃の狼煙を上げる1点を鮮やかなミドルシュートで叩き込み、その後は起点になりながらゴールへ迫り続けた。同点となる2点目も、滝沢昂司がロングボールに競ったところから生まれている。

「いつもあれくらいやれってんだよ。あんなにできるだけのモノを持ってんだからよ」

 桐生一・田野豪一監督はそう言って微笑みとも苦笑いとも判別できぬ表情を浮かべた。結局、3年間にわたって「ムラっ気」という課題は解消されなかった。ビッグプレーを連発したかと思えば、気の抜けたプレーが連続してしまった試合もある。良く言えば、大舞台に強いタイプなのだが、将来的に大成するために必要なのはよりコンスタントなプレーであることも間違いない。指揮官はこの10番に厳しく接し続け、時にはベンチに座らせることもためらわなかった。

 体の強さとセンスの良さ。素材感は前々から高く評価していた。1年前の選手権県予選、同じ前橋育英と当たったときも、田野監督は滝沢昴司を迷わずピッチに立たせてもいる。もっとも、後に全国準優勝を為し遂げるチームを向こうに回したその試合は、惨敗という形で幕を閉じていた。

「あのときは2点離されたところで、心が折れてしまった。今日は試合前、どんなスコアになってもあきらめない。やり切るんだと誓った」

 滝沢昴司はそう振り返る。0-2から折れずに敢闘した様は、桐生一というチームの底力と10番の成長という二つの物語を意味していた。田野監督は「大学に行って叩いてもらいながら、あいつが今日みたいな気持ちでずっと練習からやり切っていけば、そうすりゃきっとプロに行くよ」と言って笑う。

 チーム事情もあってセンターFWとして相手を背負うプレーが多かった印象だが、この決勝の後半でもそうだったように、あるいは関東高校大会で見せたように、1列目の仕事を別の選手に託しながら中盤で前を向いたときにより輝きを増すようにも感じている。もちろん守備の部分を含めてその位置に入るには足りない要素も多いが、プリンスリーグ昇格を目指しての残り試合と大学サッカーで課題を克服し、大きく飛躍していくことを期待している。この日の涙は無駄でなかったと4年後に言うために。

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