beacon

スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

このエントリーをはてなブックマークに追加

「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第22回:「韓国発、選手権経由」で目指すJ入団(キム・サンジュン:出水中央高)
by 平野貴也

 高校選手権を戦う外国人ストライカーがいた。鹿児島県予選の準決勝で挑戦を終えた出水中央高の最前線でファイトしていたのは韓国人の1年生、キム・サンジュンだ。突破のアイディアはまだ乏しいが、ルーズボールや空中戦の競り合いは力強い。「サポーターとかが盛り上がっている雰囲気が好き」とJリーガーを目指している青年だ。ジュニア年代ではセンターバックとして最終ラインで体を張り、U-13韓国代表に選出された。ジュニアユース時代からポジションを前線に移し、昨年は、FWとしてソウル特別市中学校選抜に選ばれ、東京都U-15選抜との東京ソウル定期戦にも出場した。代理人の紹介で出水中央高の練習に参加。評価を得て今年の3月に海を渡った。

 韓国の強豪チャンフン高から神村学園高に転校し、第88回全国高校サッカー選手権で活躍して一時は湘南に在籍したMF黄順旻(ファン スンミン)のように、日本のスタイルで自分を磨こうと韓国人選手が日本へ渡って来た例は、過去にもある。家族旅行で熊本を一度訪れたことがあるだけで日本に特に縁があったわけではないキムも、自らの強い希望で日本の高校への進学を選択した。近野隼人監督は「うちが呼んだわけではない。練習に参加させてほしいというので見てみたら良かったので、受け入れただけ」と入学の経緯を説明した。

 隣国とはいえ、言葉も習慣も違う国へ16歳で渡る決断の裏には、強い意志がある。母国とは味付けが違う日本の食事も努力して慣れた。いまだに臭いに苦戦して克服できていない納豆のような強敵も存在するが、覚悟を決めて来日しているだけに、順応力、習得力は高い。一番の障壁となる言葉の問題は、大きく改善。当初は、近野監督がスマートフォンなどの無料翻訳アプリを使って指示を出していたが、来日から半年が経ったいまでは日本語で取材に対応できるほど流ちょうに話す。日常会話には支障がない。キムは「一番難しいのは、コミュニケーション。ただ、日本語は難しいけど、似ている言葉、同じ言葉もある。『簡単』は、韓国語でも『カンダン』。まだ分からない言葉もあるけど、いまは普通に話している」とスラスラと話した。

 韓国発、選手権経由のJリーグ入りへ。自らが立てた目標をしっかりと見据えるキムは「ボールの持ち方、運び方、ゴールへ向かうアクションが好き」と憧れの1人に挙げる日本代表FW武藤嘉紀(マインツ)のような世界で活躍するFWとなるために努力を続けている。

TOP