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No Referee,No Football

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ミシェウの退場、第4の審判員の役割
[J1第17節 京都vs新潟]

 京都サンガF.C.アルビレックス新潟の試合で後半9分にFWミシェウ選手が一発退場を命じられた。第4の審判員を務める数原武志氏が奥谷彰男主審にミシュウ選手の乱暴な行為を伝えたのだ。

 後半8分、新潟は左サイドからのスローインのこぼれ球をミシェウ選手が追おうとしたが、目の前に郭泰輝選手がいたことで、前に進むことができなかった。郭選手はミシュウ選手が来るのを知っていたので、ミシュウ選手に背中を向け、立ち止まった。そこにはミシュウ選手の進行を止めようとする意図はあっただろうが、その動きは反則になるまでには至らない。

 一方、ミシュウ選手にしてみればブロックされたと思ったのだろう。後ろから右足で郭選手の右足を蹴り飛ばし、郭選手が倒れる。結果、郭選手が負傷することはなかったが、ボールとは関係ないところで蹴っており、退場でも致し方ない。奥谷主審は10mほど前方に動いたボールに目をやったので、この行為が見えなかった。

 プレーはそのまま流れ、約30秒後にボールがタッチラインを割ったところで、数原審判員が奥谷主審を呼び、事情を説明。奥谷主審はミシェウ選手にレッドカードを提示し、退場を命じた。

 数原審判員の判断は間違っていないが、ミシェウ選手が郭選手を蹴った直後に、すぐさま奥谷主審を呼び、プレーを止めて、ミシェウ選手を退場させなければならなかった。退場すべき選手が約30秒間、そのままプレーを続けてしまっていたのは問題。もしミシェウ選手が得点でもしてしまったら大変なことになっていた。

 Jリーグの審判団にW杯のような無線を使ったコミュニケーションシステムはないが、シグナルビープという音と振動で主審に伝える手段は持っている。副審、第4の審判員が必要なときにボタンを押すことで、主審が腕に巻いた受信機が反応し、音とバイブレーターで異変が起きていることを知ることができる。

 この場面でも数原審判員はシグナルビープを使って主審に伝え、プレーをすぐに止めさせるべきだった。副審のところに駆け寄って、旗を振ってもらってもよかった。それを怠り、プレーが切れてからピッチサイドに出て奥谷主審を呼んだ。これでは見ている人も分かりづらいし、選手や監督も納得しづらく、混乱を大きくしてしまった(反則直後に笛が吹かれ、退場が命じられれば、選手もしょうがないと思うかもしれない)。

 2010/11年の競技規則改正(日本では7月1日から施行)で、第4の審判員の役割は大きくなった。改正前の競技規則では「第4の審判員は、警告する競技者の特定を間違えて別の競技者が警告されたときや、2つ目の警告が与えられたにもかかわらずその競技者が退場させられないとき、または主審および副審の見えないところで乱暴な行為が起きたとき、主審に合図しなければならない」となっていたが、現在は「第4の審判員は、競技規則に従って、主審が試合をコントロールするのを援助する」と改正された。

 ミシェウ選手のような「乱暴な行為」に関しては、改正以前から第4の審判員は主審に合図することになっていたが、その任務の範囲が広がった。例えば、足の裏を見せたスライディングタックルが相手の足に入った場合などの「著しく不正なプレー」に関しても、主審が見えていない場合には、副審だけでなく、第4の審判員も主審に伝えなければならなくなった。また、ペナルティーキックが与えられるような重大なファウルについても、もし主審が見ていなかったら、第4の審判員はその事実について主審に伝えることができる。

 第4の審判員の役割はどんどん大きくなっている。日本の場合、J1では1級審判員が第4の審判員を務めるのでさほど問題にはならないが、J2では2級審判員であるため、ファウルの判定基準の一貫性をいかに高めるかが課題だ。また、主審、副審、第4の審判員という「ひとつのチーム」が試合中に円滑にコミュニケーションを取るためには、無線のコミュニケーションシステムも必要だ。まだまだ課題は多いが、早急に態勢を整え、よりしっかりとした審判を提供していく必要がある。

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