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No Referee,No Football

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闘莉王の異議に対する警告、選手への対応
[J1第12節 名古屋vs鹿島]

 鹿島アントラーズが4-1で名古屋グランパスを下した試合、松尾一主審の判定に対する田中マルクス闘莉王選手の過剰な反応が気になった。

 鹿島の選手がファウルを犯すと、松尾主審に警告をアピールするなど判定に不満を感じている様子は前半から伺えた。もっとも、この時点ではそれほど興奮しているわけでもなく、それなりに冷静にプレーを続けていた。

 闘莉王選手の不満が増大するきっかけとなったのは、1-1の後半8分に勝ち越し点を決められたシーンだったと思う。鹿島が自陣から前線にロングフィードを送ると、マルキーニョス選手と増川隆洋選手が並走しながら追いかけ、マルキーニョス選手が肩でぶつかりに行った。松尾主審は正当なショルダーチャージと判断。体勢を崩した増川選手からボールを奪ったマルキーニョス選手がそのままゴール前に抜け出し、ゴールを決めた。

 楢崎正剛選手ら名古屋の選手、さらにはストイコビッチ監督もノーファウルの判定に抗議していた。しかし、倒された増川選手も、自分が競り合いに負けてボールを取られてしまったことが分かっていたのだろう。得点されたことを確認すると、肩を落としていた。

 ディフェンダーとフォワードがボールを競って、ディフェンダーが倒れる。そこで笛が鳴り、守備側チームにフリーキックが与えられるというのは、かつてよく見られた光景だが、これは安易だ。フォワードの選手のファウルにしておけば、多くの人が納得する。得点に結びつかないので、審判への非難も小さい。しかし、ファウルはファウル。ファウルでないものはファウルでない。ディフェンダーは笛を吹いてもらえると簡単に倒れ、フォワードも笛を吹かれるので強く行けない。“安全運転の笛”が良いサッカーを駆逐するのだ。
 
 この場面は、まさにそうしたシーンだった。マルキーニョス選手のプレーは100%正当であり、これをファウルにしてしまったらサッカーにならない。松尾主審はしっかりと正しく判断し、サッカーの醍醐味を引き出してくれた。

 闘莉王選手も他の名古屋の選手と同様、この判定が納得いかなかったのだろう。直後の後半10分、マルキーニョス選手からファウルを受けた闘莉王選手は、マルキーニョス選手に警告が出なかったことで怒りをあらわにした。ユニフォームをまくし上げて頭にかぶり、ピッチを叩いて悔しがった。さらにピッチ上を転げ回り、しばらくは手で顔を覆ったまま、仰向けに倒れ込んでいた。判定への強い抗議だった。

 鹿島のスローインからのボールを興梠慎三選手がヒールパス。マルキーニョス選手がコントロールミスしたところを闘莉王選手がカットし、そのままドリブルで持ち上がろうとしたが、マルキーニョス選手が後方から追いかけ、闘莉王選手をトリップした。マルキーニョス選手の足の出し方に悪い意図はなかったように見える。ファウルの位置も名古屋のペナルティーエリアを10mほど出たところ。ファウルはファウルだが、マルキーニョス選手を警告するには至らない。

 こんなに大きなジェスチャーで異議を示せば、イエローカードは必至だ。しかし、このとき、松尾主審は闘莉王選手に近づいてコミュニケーションを取ることもなく、少し離れた位置から、早く立ち上がるように声をかける程度だった。

 しかし、闘莉王選手は後半42分にも異議を示し、結局、ここで警告を受けることになる。ハーフウェーラインを少し越えたところでスローインを受けた闘莉王選手は、交代して入ってきたばかりの青木剛選手のチェックをかわそうと反転。ドリブルで前に出ようとしたところで、青木選手に後方から手で引っ張られて転倒した。ファウルの笛。ところが、ここでも警告が出なかったため、闘莉王選手は激高し、ユニフォームを完全に脱いで異議を示した。さすにが松尾主審は闘莉王選手に警告を出した。

 青木選手の手によるホールディングにはイエローカードを示すべきだった。後半10分のシーンと違い、闘莉王選手は相手ハーフ内でドリブルを開始しており、ファウルがなければ、前方に広がっていたスペースに進むことができた。青木選手のホールディングは相手のチャンスを潰すものであった。

 さらに言えば、後半10分の時点で闘莉王選手に異議で警告を出すべきだった。確かに、どう対応すべきか、非常に難しい場面ではあった。主審は選手にどう対応すれば、良いゲームコントロールになるかを常に考えている。選手への対応の仕方、選手とのコミュニケーションの取り方は、選手によって違う。選手の性格や、これまでの試合での判定に対する反応の仕方なども頭に入っている。

 後半10分の場面も、もしも闘莉王選手ではなく、他の選手が同じような行動を取るかどうかは別として、他の選手がこのような行動を取ったのであれば、松尾主審は単純に異議で警告を出していたかもしれない。しかし、闘莉王選手の性格を考えたときに、あそこで強く出てしまうと、逆にもっと興奮して、熱くなってしまうのではないかという懸念があったのではないか。少し放っておいた方が自分で冷静になれるかもしれないと考え、淡々と対応したのではないかと思う。

 松尾主審の気持ちも理解できる。しかし、この判断は主審の裁量を越えている。深く考えることもなく、きちっと警告を示すことが大切であった。

 試合の流れを読み、選手の個性を踏まえた上で、ベストな対応を考える。それが良いゲームコントールをするために重要なことであるのだが、あらためて選手への対応の難しさというものを感じさせる試合でもあった。

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