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No Referee,No Football

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PKをめぐる判定
[J1第10節 京都vs清水]

 清水エスパルスが0-2から4点を取り京都サンガF.C.に逆転勝ちした試合。結果的にではあるが、清水の得点となった2本のペナルティーキックを含め、ペナルティーエリア内のプレーに関する佐藤隆治主審の判定が、試合展開に関与することになったと思う。

 ペナルティーキックか否か。最初の重要な判断は、0-0の前半24分にあった。京都の攻撃の場面。ディエゴ選手からの浮き球のスルーパスに反応したドゥトラ選手がペナルティーエリア内に進入すると、清水のゴールキーパー武田洋平選手もゴールを空けて飛び出してきた。ドゥトラ選手が一瞬早くボールを蹴った直後、武田選手とドゥトラ選手が激しく衝突。ドゥトラ選手は転倒したが、佐藤主審はノーファウルと判断し、ゴールキックを示した。

 この場面、ノーファウルの判断は正しかったが、実際にはゴールキックではなく、コーナーキックだった。ドゥトラ選手の蹴ったボールに武田選手が手で触り、ボールはコースが変わってゴールラインを割っていたのだ。

 武田選手は手でボールに触れたあとにドゥトラ選手と衝突したが、両足をたたむようにしてよけており、ボールとは無関係に体で止めにいったわけではなかった。

 例えば、ドリブルに対するスライディングタックルも、それがボールへのチャレンジで、しっかりボールを捉えていれば、スライディングして残っている体に相手選手がぶつかって転倒しても、ファウルではなく、正当なスライディングタックルである。

 このシーンも同様で、武田選手はきちんとボールに対してプレーしており、実際、接触の前にしっかり手でボールに触れていた。

 ところが、佐藤主審の判定はノーファウルで、かつゴールキックだった。つまり、武田選手はボールに触れなかったが、飛び出してシュートを防ごうとしたプレー自体が正当なものだったと判断した。

 確かに、武田選手のチャレンジに悪さはない。しかし、結果としてボールに触れることができなかったのであれば、トリッピングとして、京都にペナルティーキックを与えなければならなくなる。整合性に欠ける判断だった。

 実際には、武田選手はちゃんとボールに触れていたため、前述のように、正しい判断はノーファウルで、コーナーキック。もしも佐藤主審がきちんと判断できていれば、選手も納得しやすかったと思うが、説得力を欠いてしまった面は否めない。

 後半5分、清水の太田宏介選手が左腕を上げてジャンプしてドゥトラ選手と競り合い、左ひじがドゥトラ選手の顔に当たる場面があった。佐藤主審は太田選手のファウルを取っただけだったが、これは警告に値するファウルのように見える。もし、ここで警告とすると、太田選手は前半にも警告を受けていたので、この時点で退場になった。

 このシーンは、佐藤主審の位置からはちょうど死角になっていた。主審とプレーとの間に別の選手がいただけでなく、太田選手の左腕の動きがドゥトラ選手に隠れて、はっきり見えなかったのだろう。

 もっとも、タッチライン側にいる八木あかね副審は、このプレーがよく見える位置にいた。この場面では、八木副審が太田選手に対する警告をアピールし、佐藤主審に伝えるべきだった。

 試合中、どうしても主審の死角に入ってしまうプレーは存在する。その死角が少しでも減るように、さらには2つの角度からプレーを監視することで正しい判定を導けるように、主審は常に副審とプレーを挟み込むようにしてピッチ上を動いている。この場面も佐藤主審は適切なポジションを取っていたのだが、八木副審はノーアクションだった。副審は、オフサイドの監視を含め、ボールがプレーされている場所以外にも目を配らなければならない。この場面で八木副審がどこに注視していたのか、外からは分からないが、ここぞの視点はこのファウルに向けられるべきだった。

 この直後に、清水にペナルティーキックが与えられた。後半8分、ペナルティーエリア内で岡崎慎司選手がゴールに背を向けた状態でヨンセン選手からパスを受けた。背後からマークに付いていた水本裕貴選手をかわそうと前を向いて切り返したところで、水本選手も体を反転させたのだが、このとき腰の部分で岡崎選手の体を弾いてしまい、岡崎選手は転倒。佐藤主審は水本選手のファウルを取った。

 佐藤主審の判断は理解でき、間違っていないと思う。とはいうものの、水本選手に岡崎選手を弾いたり、抑えたりする意図はなかったようにも見える。岡崎選手の前に体を入れ、ボールをキープしようとしていたが、結果的に、その動きが自分の腰で岡崎選手の体を弾くことになってしまった。もちろん、それもファウルであると言われれば、ファウルなのだろう。

 後半32分に岡崎選手がペナルティーエリア内で郭泰輝選手に倒され、2つめのペナルティーキックを獲得した場面。これも、シュートチャンスを迎えた岡崎選手を後方から郭選手が押しており、ペナルティーキックの判断は正しい。しかし、見方によっては岡崎選手が大げさに倒れたようにも思える。本当にプレーできないほど強く押されていたのか。もう少し踏ん張れば、シュートまでいけたと判断すれば、ノーファウルとする審判もいてもおかしくない。

 どちらのペナルティーキックも、難しい判断を求められる場面だったが、ファウルかどうかの判断は主審の裁量であり、現場の審判の判断が尊重されなければならない。一方で、この2つのシーンの前にあった幾つかの判断ミスが京都の選手の不信感を招き、その後のペナルティーキックの判定が受け入れ難いものになってしまったとも言える。

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