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No Referee,No Football

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2つの難しい判断が求められたオフサイド判定
[J1第7節 浦和vs川崎F(2)]

 浦和レッズが2-0とリードしていた前半22分、フリーキックのチャンスから川崎フロンターレ井川祐輔選手がゴールネットを揺らしたシュートをオフサイドとした判定は、正しくなかった。

 左サイドからのフリーキック。小宮山尊信選手が左足で蹴ったボールはニアサイドで浦和の平川忠亮選手の頭に当たってコースが変わり、ファーサイドから走り込んだ井川選手がダイレクトで蹴り込んだ。小宮山選手が蹴った瞬間、井川選手はオンサイドの位置にいた。この場合、浦和の選手が途中でボールに触れても、プレー全体として次の展開に至っていないので、井川選手がオフサイドかどうかは、小宮山選手が蹴ったときの位置で判断される。

 しかし、もし小宮山選手が蹴ったあとに他の川崎Fの選手がボールに触れた場合は、その時点でオフサイドかどうかの判断をすることになる。実際、この判断を行った五十嵐泰之副審には、平川選手ではなく、遅れて飛び込んだ鄭大世選手の頭にボールが当たったように見えた。だから、旗を上げた。

 これらのプレーをメインスタンド側から、それも上からの映像で確認すると、平川選手がボールに触れたのは明らかなので、“なぜそう見えるのか”と不思議だが、副審の位置からは何人もの選手が重なって見えるだけでなく、平面的な視野とならざるを得なく、難しい判断を求められる。

 さらに、五十嵐副審は、平川選手と鄭選手のどちらがボールに触れたかという判断のみならず、その瞬間に川崎Fの選手がオフサイドの位置にいたかどうか、浦和の選手との位置関係で判断しなければならない。この判断はコンマ何秒だ。

 実は、ボールに触れたのが平川選手であろうと鄭選手であろうと、接触の瞬間、井川選手よりゴールライン近くに浦和の選手が残っていたので、いずれにしてもオフサイドではなかった。しかし、平川選手か鄭選手とボールの接触の判断を行っているとき、井川選手の位置は五十嵐副審の視野に入っているものの、判断の対象から一瞬外れる。五十嵐副審が井川選手を認識したときには、(仮に鄭選手がボールに触れたとすれば)井川選手はオフサイドの位置に移動していたため、旗を上げてしまったのだ。

 これら2つの判断は簡単ではない。しかし、この時点で2-1となっていれば、別の試合展開となった可能性もある。“たられば”ではあるが、試合の流れを決定するかもしれない重要な場面に、正しくない審判の判定が関与してしまった。これもサッカーの一部であるとはいえ、とても残念である。

 平面的に位置する副審。この見間違いは避けられないのだろうか? 試合中、審判から見えないプレーは存在する。しかし、審判は見えるように行動しなければならない。今回のようなケースであれば、副審はオフサイドラインをキープするため左右に移動することができないので、平川選手と鄭選手の位置関係をはっきり確認できるように深視力を確保することが重要になる。

 サッカーの審判の深視力は非常に高いものがあるが、それをさらに向上する必要があっただろう。また、瞬間視力や直接視野を高めることも良い。しかし、何と言っても、そこにボールが来るだろう、選手がそのようなプレーをするだろうという“気付き”を持つこと。そして、それを見ること。これが最も大切で、そのためには経験を積み重ねることが求められる。五十嵐副審は将来性豊かだが、この試合においては残念ながら、この難しいケースに正しく対処するには十分とは言えなかった。

 もうひとつ、注目する点があった。それは、主審と副審のコミュニケーションである。

 今回のケースのように、オフサイドの判定を下す際、どちらのチームの選手が最後にボールに触れたのか、分かりづらい場合もある。五十嵐副審が、もし平川選手と鄭選手のどちらにボールが当たったのか、100%の確信を持てなかったのであれば、旗を上げた上で村上伸次主審を呼び、どちらの選手にボールが当たっていたのか、村上主審に聞くべきだった。

 最終的な判断を下すのは主審だ。村上主審が川崎Fの選手に当たったと判断すれば、オフサイドを取り(実際にはそれでもオンサイドだが)、浦和の選手に当たったと判断すれば、その時点でゴールを認める。これが適切な対応だったのだが、五十嵐副審に抗議に行ったレナチーニョ選手への対応もあって、主審と副審の会話を見て取ることはできなかった。

 主審には、ペナルティーエリア内のポジション取りでホールディングの反則が起きないか監視する必要もある。だから主審がどちらの選手に当たったのかまで見極めることは非常に難しいのだが、やはり村上主審もボールの軌道が変わったポイントをしっかりと視野に入れておき、正しい判定を導けるように、主審と副審でもっとコミュニケーションを取るべきであったと思う。

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