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No Referee,No Football

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選手にも観客にも分かりにくかったポンテの警告
[J1第7節 浦和vs川崎F(1)]

 前半45分、浦和レッズポンテ選手に警告が出されたシーンは、なぜ警告が出たのか、非常に分かりにくかった。

 ポンテ選手が川崎フロンターレ小宮山尊信選手に後方から倒されたこの場面。村上伸次主審は最初、手を下に向け、小宮山選手のタックルはボールへのチャレンジでノーファウルだということを示し、プレーを流した。確かにポンテ選手はジャンプするようにして倒れており、大げさにも見えた。

 ところが、より近い位置で見ていた相樂亨副審が旗を上げてファウルを主張。村上主審は副審のシグナルを見て笛を吹き、小宮山選手のファウルを取った。このとき、川崎Fゴールの方を指差し、浦和のフリーキックであることを示していた。

 そして、村上主審は、ファウルを受けたポンテ選手にイエローカードを提示した。

 実は、このプレーの1分前にポンテ選手が谷口博之選手を後方から押し倒すファウルを犯していた。村上主審はこれが警告に値すると判断したのだが、ボールは鄭大世選手につながり、川崎Fのチャンスが続いていたため、アドバンテージを適用した。

 競技規則の付属書である「競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」のアドバンテージの項目には「警告に値する反則の場合、次のプレーの停止時に警告しなければならない」と書かれている。「次のプレーの停止時」。それがこのときは、1分後にポンテ選手がファウルを受けた場面だったのだ。

 その間、浦和がボールを奪い返し、また川崎Fボールになり、稲本潤一選手のクロスをGKの山岸範宏選手がキャッチし、再び浦和の攻撃になったのだが、ボールがタッチラインを割るなどのアウトオブプレーにはなっていない。約1分間、ポンテ選手が小宮山選手に倒されるまで、プレーは止まらなかった。

 審判以外では、1分前のプレーを覚えている人の方が少ないかもしれない。だから、ポンテ選手にも、他の浦和の選手にも、川崎Fの選手にも、さらには観客にも、なぜポンテ選手に警告が出たのかが分かりづらかった。

 むしろ、多くの人には、ポンテ選手がシミュレーションで警告を受けたように見えたのではないだろうか。だから、川崎Fにフリーキックが与えられると思った。前述したように、村上主審は笛を吹いた時点で浦和ボールであることを示していたのだが、それにはなかなか気づきにくい。

 シミュレーションを取られたと思い込んで抗議するポンテ選手に対し、村上主審は説明していた。右腕を上げて、1分前にポンテ選手がファウルを犯した方向を何度も指差し、「あっちのファウルで警告を出したんだ」と説明していた。しかし、言葉が通じなかったのだろう。ポンテ選手はまったく理解できていなかった。

 しかも、このあと村上主審が相樂副審のところに近づいて、言葉をかわした。ファウルか否かで村上主審と相樂副審の判断が最初は違っていたため、小宮山選手のファウルであることを確認する程度の会話だったのだが、周囲には、ポンテ選手のシミュレーションを取った主審が副審の意見を聞いて、小宮山選手のファウルに判定を差し替えたように見えてしまった。村上主審があらためて浦和ボールであることを示すと、川崎Fのレナチーニョ選手も判定に不満を示した。実際には村上主審の判定は最初から一貫していたのだが、非常に分かりづらかった。

 このあと、村上主審は浦和の阿部勇樹選手に説明する。ポンテ選手への警告は1分前のプレーに対してであり、今のプレーは小宮山選手のファウルだから浦和のフリーキック。村上主審の説明を受けて納得した阿部選手がポンテ選手に伝え、ようやくポンテ選手も理解した。そして、まだ納得できていなかったレナチーニョ選手にはポンテ選手が説明していた。こうして事態は落ち着き、プレーが止まって2分30秒近くたってからゲームは再開した。

 アドバンテージの適用から次のプレーの停止時まで1分あった。警告に値するファウルを犯したポンテ選手が、アドバンテージ適用後に逆にファウルを受けた。そのときのポンテ選手の倒れ方が多少大げさで、シミュレーションにも見えた。主審と副審の最初の判断が違った。こうしたさまざまな状況が絡み合って、非常に分かりづらい判定になってしまったのだ。

 競技規則の適用という点では、村上主審は何も間違っていない。とはいうものの、結果として2分以上もプレーが止まる状況を招いてしまった以上、その対応が良かったとは言えない。ポンテ選手に言葉が通じず、理解できていないことが分かった時点で、すぐに浦和のゲームキャプテンだった阿部選手を呼び、きちんと説明していれば、こうした混乱は避けられたのではないだろうか。ピッチ上の選手が判定をスムーズに理解できれば、それを見ている観客も状況を把握しやすかっただろうと思う。

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