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Jを目指せ! by 木次成夫

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第81回「信州ダービー 松本山雅vs.長野パルセイロ」
by 木次成夫

 北信越リーグは、2連覇を目指す松本山雅が低迷する一方で、上位3チームは予想通りの混戦になっています。6節終了時点で、上位4チームの順位はーー。

1位=長野パルセイロ(昨季2位)=勝ち点16、5勝1分け
2位=ツエーゲン金沢(同4位)=同15、5勝1敗
3位=ジャパンSC(同3位)=同13、4勝1敗1分け
4位=松本山雅(同優勝)=同8、2勝2敗2分け

 つまり山雅は絶体絶命状況で6月8日、ホーム開催の長野パルセイロとのダービーを迎えました。結果は0-0ながら、内容的には完敗。パルセイロの決定的シュートがバーを直撃した他、原裕晃(新加入=前・栃木SC)のスーパーセーブにも救われました。

 とはいえ、この試合で最も驚いたのは、パルセイロ・サッカーの進化です。フォーメーションは3-5-2で、スタメンは以下の通り。

GK棗 正志
右DF籾谷真弘、CB丸山良明(33歳、新加入=前・仙台)、左DF土屋真
右MF小田竜也、ボランチ貞富信宏、ボランチ土橋宏由樹(30歳、新加入=前・山雅)、左MF大塚靖治(24歳、新加入=前・バンディオンセ神戸)、トップ下=佐藤大典
FW要田勇一、藤田 信(24歳、新加入=前フェルヴォローザ石川・白山)

 昨季のパルセイロ・サッカーは、一見、豪快ながらも大雑把でした。山雅ホームのダービーは要田のシュートで0-1の勝利を飾ったものの、全体的な動きは今ひとつ。ところが、スタメン中7人が昨季の同カード・スタメンにも関わらず、今回は質の高い“パスをつなぐ”サッカーを展開。まるで別のチームのようでした。

 補強が成功したということになりますが、際立って効いていたのは、昨季終了後に山雅から指導者転進のオファー、つまり、選手としては戦力外通告された土橋でした。山雅からすれば、30歳という年齢、ヒザなど怪我がちなフィジカル・コンディションなどを考慮した判断だったのでしょう。しかし、土橋は現役に“こだわって”退団し、パルセイロ入り。

 インサイドでの素早いダイレクト・パス、いわゆる“溜め”で緩急をつけた動きなど、一見、普通のプレーで状況を一変させるセンスは健在です。好調の理由を問うと「みんな、信頼してボールを預けてくれるんで……」(土橋)。

 また、バドゥ監督は開幕前に4-4-2を試したり、土橋と貞富をサイドで起用したり、最適な形を模索していましたが、開幕後も「相手に合わせて戦い方を選んでいる」(パルセイロ関係者)ようです。例えば、この試合の守備陣は、籾谷と土屋が山雅FWの柿本典明と吉田賢太郎をマンツーマン・マークして、丸山がスイーパー。スピードを生かした突破が武器の佐藤をトップ下に置いた点は意外でしたが、3トップ時に比べると、サイドMFの飛び出しを含めて、それぞれが良さが活きていました。全体的に「6節のツエーゲン戦でうまくいったので、そのスタイルを踏襲した」(関係者)のだとか。

 では、山雅はどうだったか……。MFの「経験の差」が試合内容に出てしまったという印象です。ピッチを広く使われ、たびたび、自陣サイド深い位置をロングクロスで狙われ、その対応のために走らされ、自分のたちの攻撃を構築する余裕は“ほぼ”なし。焦りからか、時折訪れるチャンスでは、単調な個人突破が目立ちました。

 1人のベテラン(土橋)に依存するのではなく、どこからでも攻撃を構築できるサッカーへ転換するための「チーム再編」は、クラブ側の目論見以上に難しかったということでしょう。ただ、今回のダービーで山雅選手たちは、土橋を含めたパルセイロのベテランから「戦い方」を教えてもらったという見方もできます。例えば、自分が“効果的に”走ることも大事だが、相手を“無駄に”走らせるプレーも大事だと――。

 ちなみに、今回の観衆は4126人(当日=600円、前売り=500円、中学生以下無料)。昨季(4節、07年4月29日)の同カードは6399人ながらも入場料無料でしたから、上々だと思います。

 他試合の結果と、順位は以下の通りです。

ジャパンSC 1-0 ツエーゲン金沢
フェルヴォローザ石川・白山FC 1-3 ヴァリンテ富山
グランセナ新潟 1-1 サウルコス福井

順位
1位=パルセイロ 勝ち点17(5勝2分け)
2位=ジャパンSC 同16(5勝1敗1分け)
3位=ツエーゲン 同15(5勝2敗)
4位=山雅 同9(2勝3敗2分け)
5位=グランセナ 同8(2勝3敗2分け)
6位=ヴァリエンテ 同7(2勝4敗1分け)
7位=サウルコス 同6(1勝3敗3分け)
8位=フェルヴォ 同0(7敗)

 順当に見れば、優勝争いは上位3チームに“ほぼ”絞られました。ベテラン勢がコンディションを維持できれば、パルセイロは全国地域リーグ決勝大会上位進出も可能な実力があると思います。その一方で、山雅は全国社会人選手権枠(1あるいは2チーム)での「地域決勝」出場も視野に入れつつ、リーグ後半戦を戦うことになります。そして、リーグ最終節はパルセイロ・ホームでのダービー。それまでに山雅が、どこまで上昇できるかは、下位チームの健闘しだいという面もありますが、ダービーにはリーグ戦順位とは別に、「1引き分け」後の戦いという側面もあります。地域リーグ→JFL→Jリーグと上をめざす過程で、ダービーは“ダービーとしての歴史”も刻んでいくわけです。

 複数の“いわば”全県区クラブが悲願のJリーグ参入後、成績も観客数も低迷する状況を鑑みると、すでに「信州ダービー」は貴重な財産だと思います。言い方をかえると、J2低迷クラブひとつよりも、例えば、JFL下位同士の「信州ダービー」の方が楽しいのではないでしょうか。


▼Jを目指すクラブの動向

●東北リーグ1部
(8日)
グルージャ盛岡(昨季優勝) 7-0  ビアンコーネ福島(今季昇格)
* グルージャは4勝1分けで首位。ビアンコーネは1勝5敗

●関東リーグ
(後期2節、8日)
クラブ・ドラゴンズ(今季昇格) 0-6 町田ゼルビア(昨季優勝)
*ゼルビアは8勝1分け(勝ち点25)。2位はYSCC(勝ち点16)

●北信越リーグ2部
(7節、8日)
大原学園 1-2 アンテロープ塩尻   
*首位=ジェンシャン(6勝1分け)、2位=アンテ(5勝1敗1分け)

●関西リーグ
(8節、8日)
ディアブロッサ高田 1-5 バンディオンセ加古川
*バンディ8連勝

●中国リーグ
(8節、8日)
レノファ山口 1-0 佐川急便中国
*首位=レノファ(勝ち点20=6勝2分け)。デッツオーラ島根は5位(勝ち点11)

●四国リーグ
(8節、8日)
カマタマーレ讃岐 4-0 徳島コンプリール
*讃岐7勝1分け=首位

●九州リーグ
(8節=7日、9節=8日)
8節
OSUMI NIFS 0-1 三菱重工長崎
新日鐵大分 0-1 ホンダロック
海邦銀行SC 1-4 沖縄かりゆしFC 
ヴァンクール熊本 0-7 V・ファーレン長崎  
九州INAX 0-2 ヴォルカ鹿児島
 
9節
沖縄かりゆしFC  4-0OSUMI NIFS
三菱重工長崎 2-3 ヴァンクール熊本 
ヴォルカ鹿児島 4-0 海邦銀行SC
ホンダロック 1-2 V・ファーレン長崎 
新日鐵大分  4-0 九州INAX 

*ホンダロック8勝1敗(勝ち点24、得失点差29)で単独首位。V・ファーレンは7勝1PK勝1PK敗(勝ち点24、得失点差28)で2位。3位は、かりゆし(勝ち点20)

▼JFLの結果&順位は↓
JFL前期:結果&順位表

▼「Jを目指すクラブ」情報は↓
「リスト&記事リンク」

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。この度更新が遅れたことをお詫びします。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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