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日本代表コンフィデンシャル by 寺野典子

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動きだした新しい船
by 寺野典子

 オシムジャパンが始動し1週間が過ぎた。

 試合で起こりうるシチュエーションを切り取ったような練習メニューは、常に実戦に即している。新しいメニューが始まる前に集まり、指揮官がメニューの実施方法を“簡単に”話し、練習が始まる。ボードを使い、攻め方や動き方を提示し、それを繰り返すというメニューもあるがオシムは違う。オシムは状況を提示するだけ。何を鍛えるための練習か、練習の目的は 選手に限らず、スタッフにも説明されることはない。

「どう動くかは選手たちが考えなくちゃいけない。自然と頭を使って、走ることが求められる練習メニューになっている。1秒たりとも気が抜けない」と鈴木啓太。

 それでもオシムはひとつひとつのプレーに対して、メッセージを発している。

 6対3でのダイレクトパスを繋ぐメニューでは、「なんで6人もいるのにボールを奪われるんだ!」「ボールを見ることなく、考えて動こう」と声を上げた。パスの出し手、受け手を意識した動きを求めていたのだろうが、「味方の動きを意識しろ」とは言わない。最低限のアドバイスを与えるだけに留まった。

「状況に応じて、自分たちで判断し、臨機応変に対処しろ」というオシムのメッセージは、終始一貫している。対戦相手の情報は与えても攻略法までは口にしない。ピッチで戦うのは選手自身なのだから、自分たちで考えろということだ。8月9日の初戦トリニダード・トバコ戦に向けたミーテイングは、質疑応答形式だった。「こういう状況ではどうするか?」と指揮官が問い、選手が応える。すると「それでもいいが、他にも方法はあるはずだ」とオシムはさらなる回答を求めたという。ひとつの方法論に縛られるのではなく、思考は常に柔軟にしておくべきだとミーテイングを終えた選手たちは感じた。「考えるのは自分たちだということ」(小林大悟)

ジーコ時代のキーワードだった“自由”なサッカー、選手たちの自主性を重んじるサッカーは、新しい代表でも受け継がれている。オシムはジーコ以上に“自由”であることを選手たちに意識させている。だからこそ「もっともっと考えるべきだ」と。“自由”を謳歌するには、自己判断が重要なのだと訴える。同時に、選手が“考える”環境を日々のトレーニングで与え続けている。

 オシム効果が表れるのは、まだ先のことなのかもしれないが、それでもオシムのサッカーを「疲れるけれど面白い」と口にする選手の数、そして彼らの目の輝きを見ていると、今後の代表の成長が楽しみになってくる。

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