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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:Fly Me to the Moon(ファジアーノ岡山U-18・金田飛鳥)

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ファジアーノ岡山U-18の金田飛鳥

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 広く果てしない大空へと羽ばたく時は迫っている。ユニフォームに縫い付けられたエンブレムのように。自らに与えられた名前のように。「プリンスで結果を残したり、今を頑張ったりして、プロに行きたいなという気持ちはあります」。金田飛鳥の未来はきっと、いつでも彼自身の手の中にある。

 全国各地から強豪が首都へ集い、3日間に渡って熱戦が繰り広げられるイギョラ杯国際親善ユースサッカー。この春で29回目を迎えた歴史あるフェスティバルは、年々参加チーム数も拡大し、昨年からは実に20チームで争われているが、今回が2度目の参加となったのがファジアーノ岡山U-18だ。

 2018年度の彼らは強者が居並ぶプリンスリーグ中国で、作陽高と立正大淞南高に続く3位に。夏のクラブユース選手権こそ予選敗退を強いられたものの、秋のJユースカップでは3年ぶりに初戦突破。「ずば抜けた選手がいない分、『切り替えを速くする』『ボールに近い選手が速くアプローチする』『距離を縮める』とか、チームとしてまず守備をする上で最初の基準の所はいつも言っていますね」と語る服部公太監督の下、着実に力を蓄えてきていることは間違いない。

 イギョラ杯初日。いきなり当たった難敵の流通経済大柏高に6-4とハイスコアで打ち勝ち、2試合目の大阪朝鮮高戦を迎えたファジアーノ。このゲームで13番を背負った選手に目が留まる。後半10分(35分ハーフ)に途中出場で3-4-2-1の最前線に解き放たれた金田飛鳥は、抜群のスピードを生かして縦へ、縦へ。加えて26分と35+3分には共にコーナーキックのこぼれ球を押し込み、嗅覚の鋭さも披露したが、2試合続けて2ゴールという数字以上に、独特の躍動感でピッチを飛び跳ねる姿が印象に残る。

 試合後。13番について尋ねると、「背後に抜けたらスピードがあるので、ボール状況を見て、『味方が蹴れそうだったら背後に走りなさい』『そこから自分の持っているスピードで点を取りなさい』と。フィニッシュの精度もだいぶ良くなってきていますね」と口にした言葉に続けて、「今年のプリンスリーグでは、小学校の時の所属チームに“野球”のチームの名前を書いてやろうかなって(笑) 今は空白にしちゃってるんですけど」と服部監督はニヤリ。意外にもストライカーは、12歳まで野球少年。中学入学と同時にクラブチームでキャリアをスタートさせた、“サッカー5年生”だったのだ。

 金田は淡々とした口調で当時を振り返る。「最初は『ずっと野球をやろう』と思っていたんですけど、坊主にするのが嫌だったのと、普通に仲の良い友達が全員『中学校のチームでサッカーやろうや』みたいになって、みんなで入った感じです」。それにしても唐突な転向だが、「小学校の昼休みとか、長い休み時間に結構サッカーはやってて、『何か楽しいな』と思っていたんです」と本人。かくして彼の日常は9人で手を使う競技から、11人で足を使う競技へとシフトしていった。

 才覚はすぐに現れた。持って生まれたスピードが、新たな挑戦へ自らを馴染ませていく。すると、所属するモンタリオ美作SCは岡山県2部リーグを戦っていた中で、この先の進路を考え始めた中学3年時に、ファジアーノの下山雅司アカデミーダイレクターから声が掛かる。「下山さんが見に来ていた時に『来てみんか?』って言われて。セレクションも1次は行かなくて、2次から行って、それで受かったみたいな感じでした」。

 もちろん「受かりたい」と思って挑んだセレクション。だが、実際に受かってはみたものの、進学する岡山学芸館高のサッカー部とファジアーノのU-18という、2つの選択肢の狭間で心は揺れる。そんな15歳の背中を優しく押してくれたのは、3年間を見届けてきた指導者だった。「『ファジアーノが一番プロに近いから』とクラブの監督に言われて、『頑張ってみるか』と覚悟を決めた感じです」。2017年4月。金田はプロへと直結するJクラブの下部組織へと、身を投じることとなった。

「最初はメッチャ大変で、『来る場所を間違えたな』と思いました」。一言で表現すれば、レベルが違った。「足元で受けても10回に1回ぐらい相手を剥がせるかぐらいで、もう先輩とかも怖くて、怒られて、『やめたい』とか思っていたんです」。自信のあったスピードを出すことすらままならない。楽しかったはずのサッカーが、いつの間にか楽しめなくなっていた。来るであろう“明日”を終わらせるべく、「やめたい」気持ちに何度も支配されていく。

 それでも、“明日”は終わらなかった。あと一歩の所で踏みとどまらせたのは家族の存在。実は彼が小学校高学年の頃、金田家にはある困難が立ちはだかっていた。その困難をみんなで乗り越えようとした道の先に、飛鳥という希望が、サッカーという希望が、家族に灯った経緯があった。「お母さんもいろいろと僕のやりたいことをやらせてくれていたので、『申し訳ない』って気持ちが強くなってきて、『自分から弱音とか吐いたらダメだな』と思ったので、そこから“やってきた”みたいな感じです」。

 改めて固めた覚悟が、少しずつ今を変えていく。「優しくしてくれる先輩がアドバイスとかしてくれて、それでだんだん楽しくなってきたというか、逆に失敗し過ぎて失うものがないみたいな。1年生の時に言われ過ぎていたので、もう言われても何も思わないというか。本当はそれじゃあダメだと思うんですけど(笑)」。

 2年に進級すると、公式戦の出場機会も増えていく。プリンスリーグでもシーズン中盤から起用され始め、スーパーサブ的なポジションを確立。「最後にどうしても点が取りたい時に、ポンと入れると決めるんで」と服部監督も言及したように、リーグ戦で記録した3つのゴールはいずれも後半40分以降に生まれたもの。「ちょっとずつ自信が付いてきた感じです」と本人が話せば、共に3トップを組む盟友であり、今年のチームのキャプテンを務める山田恭也も「最初は全然だったんですけど、もう普通にやってくれているので、凄く頼りがいのあるフォワードですね」と信頼を寄せるあたりに、如実な立ち位置の変化が窺える。

 イギョラ杯3日目。4試合で12得点13失点と、出入りの激しいゲームを繰り広げたファジアーノは3位トーナメントに回る。相手は昨年度の全国総体で準優勝に輝いた桐光学園高。エースの西川潤こそ不在ではあるものの、確実に今年度も全国上位を狙い得るチームを相手に、前半から挑んだのは真っ向勝負。4分に山田のゴールで先制すると、24分と28分にも中田樹音が続けて決定機を創出。ところが、この2つを決め切れなかった直後に失点を許し、1-1のタイスコアで後半へ折り返す。

 眠っていたストライカーが突如として目覚める。8分。前日の昌平高戦は0-5で大敗し、「何もできなくて全然ダメだったし、それがちょっとショックで、『今日は取ろう』と思っていた」金田に、この試合で初めてやってきたチャンス。右サイドを駆け上がった現田歩夢が、山田とのワンツーを経てから短く付けると、13番は右足一閃。左ポストの内側を叩いたボールは、そのままゴールネットへ転がり込む。

「枠に入れば誰かがこぼれ球とか、そんな考えで速いシュートを打ったら、たまたま入ったので…」とそのシーンを思い出す彼に、「たまたまだったの?」と水を向けると、即答で「あっ、狙いました!」と言い直す姿に笑ってしまう。自身の性格について聞いてみた所、「『何を考えているかわからない』ってよく言われますね」とのこと。「それは納得してるの?」と畳み掛けると、「はい。自分もわかりません。けど… たぶん好かれる方だと思います。たぶん」と真顔で返される。

 話を聞く少し前。こちらに声を掛けられ、立ち上がって歩き出した時に複数のチームメイトから、「メッチャ芝付いてるぞ」と笑い声が。パンツに芝生が大量に付着していたが、本人はどこ吹く風。「メッチャ付いてますか?ここ、メッチャ付きますね。静電気が凄いです」と表情も変えずに話す稀有な雰囲気も含め、『好かれる方』だという自己分析は、おそらく外れていない。「人間的には結構“天然”です」と笑った山田の言葉が、彼を表現するために最適のフレーズだと理解することは、短い会話の中からでも決して難しくはないはずだ。

 桐光学園戦は結局3-4で惜敗。最終戦の神戸弘陵高戦は2-2で引き分け、ファジアーノは2勝1分け3敗という戦績でフィニッシュ。金田はチームトップの5得点を記録し、一定のパフォーマンスは発揮したものの、「良い時と悪い時の波がはっきりしているので、それもそれで良い時があるんだったらいいかなと思いますけど(笑)、毎試合1点は取りたかったです」とも。収穫と課題を手にした3日間を糧に、福島のJヴィレッジで開催される大会へ臨み、いよいよ開幕する新シーズンのプリンスリーグへと向かっていく。

 以前のこと。トップチームの練習に参加した際、1人の選手が気になった。「福元友哉選手が好きなんです。プレースタイルもゴリゴリで足も速いし、しかもその人と一緒に2トップも組めたんです。3人に囲まれてもワンタッチとかで剥がして、凄く守備もするし、優しかったので、ああいう人になりたいなって思います」。身近なお手本を得て、その先の目標への想いも強まったようだ。「トップの選手は体が強いし、判断も速いし、背負っているものが違うというか、みんな死ぬ気でやっていてメッチャ刺激になったんですけど、『自分もそこに入ってやってみたいな』って気持ちはあるので、諦めずに頑張ってます」。

 服部監督は金田について、こういう言葉を残している。「もう自分の持っているもので勝負して欲しいですね。スピードで最後に決め切る能力を生かしつつ、もっと質を上げてもらえればと。たぶん『これをやる』という整理ができてきたのかなと感じますし、サッカーを始めたのが遅い分、まだまだ伸びると思うんですよね。これからも楽しみです」。

 この関東遠征では改めてチームへの想いを再確認した。「全国的に見ても『ファジアーノってJ2だよね』みたいな感じだから、実際今回の対戦相手も『コレで負けたらどうしよう』とか言っていて、そういうのが悔しいので、『今年のファジアーノは強いな』って言われるようになりたいです」。そのためには少し不思議な雰囲気を纏った、それでいて何とも魅力的な13番が覚醒するか否かが、小さくない鍵を握っているような気がしてならない。そして、最初は何となく歩き始めたサッカーという道程を、周囲の厚い協力を得ながら切り開いてきた彼なら、その瞬間を手繰り寄せるだけの可能性を十分に秘めているのではないだろうか。

 広く果てしない大空へと羽ばたく時は迫っている。ユニフォームに縫い付けられたエンブレムのように。自らに与えられた名前のように。「プリンスで結果を残したり、今を頑張ったりして、プロに行きたいなという気持ちはあります」。金田飛鳥の未来はきっと、いつでも彼自身の手の中にある。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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