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「髪を切ることがゲンかつぎ」。ブラインドサッカー日本代表の加藤が見た目にこだわる本当の理由

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テーマランチに出席した加藤健人(左)と川村怜

 ブラインドサッカー日本代表の加藤健人が22日、自身が所属するアクサ生命のテーマランチに出席した。多様性を認め、その交流を通して得られる情報を、さらにいい商品を作るヒントにすることを目的とした勉強会で、加藤は高校時代から目が悪くなった経験をふまえ、見えていた人が見えなくなることの苦悩、そのことをプラスにとらえなおしたプロセスなどを明るく、わかりやすく説明した。

 「試合前のルーティンやゲン担ぎはありますか」という社員の質問に、加藤の返答は意外だった。

「試合前とかに髪を切ることです。今度、27日から5泊6日と今までにないぐらいの長い日本代表合宿があるので、その前にまた行こうと思います」

 身だしなみ、よりカッコよさを求めて髪を切る人はたくさんいる。それがリフレッシュになるのは、切ってさっぱりした様子が目で見てわかるから、という人が大半だろう。しかし全盲の加藤の場合、髪を切っても、変わった様子を見ることはできない。それでもなぜ、リフレッシュになるのだろうか。

「気分が落ち着くし、切り替えられるんです。髪型のセットの仕方も美容室の人に教えてもらいながら、自分でやりますよ。仕事前にスーツを着て(気持ちが)ビジッっとするのと同じ感覚ですね」

 見た目を気にすることは、今も昔も変わらない。しかしその奥にある理由は、ブラインドサッカーをはじめたことによって180度変わった。加藤が続ける。

「目が悪くなった後は、『今後、もう何もできないかもしれない』と考えて、視覚障がい者に見られたくなかった。(人に)見られないように行動していましたし、引きこもりになった時期もあります。ただ、両親がブラインドサッカーを見つけてくれて、競技をはじめたことによって、サッカーでも、日常生活でも、会社でも『こんな自分でも必要としてくれる人がいる』ことを感じられる機会が出てきた。そんなことが少しずつ積み重なって、(同じ人目を気にするなら)かっこよく見られたい、と考えが変わりました。そういうことがなかったら、今頃ブラインドサッカーをやめていたかもしれません」

加藤がはめていた視覚障碍者用の腕時計。時計上部の逆三角形が「12」。側面の球が「短針」、時計版の上に見える球が「長針」。時間の経過とともに球が動く

 ブラインドサッカーでは試合中、アイマスクとヘッドギアをするため、表情は見えず、外見は誰もが同じに見える。加藤が一時期、髪の毛を明るい色に染めたのも、自分の存在を見てもらい、そのことを通してブラインドサッカーを知ってほしい、という思いから出た行動だった。そこに、ブラインドサッカーによって暗転の人生から立ち直った加藤の「恩返し」の気持ちがにじんでいる。

 22日、社内で行われたテーマランチでも、加藤は自分の経験談を話すこと以上に、一緒に参加したエース川村怜の存在を立て、場を盛り上げることに徹していた。

「日本代表ということを前面に出しすぎちゃうと、ちょっと雰囲気が硬くなってしまう。僕は普通にアクサ生命の社員ですし、日本代表には選ばれていますが、決して特別な存在ではない。壁を作りたくなかったんです」

 健常者と障がい者、男性と女性、自国の人と外国の人……。そういった違いを超えて、人として誰とでもフラットに付き合いたい。加藤はブラインドサッカーの伝道師役をつとめながら、社会に存在する「見えない壁」を少しずつ下げていきたいと願っている。

(取材・文 林健太郎)

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