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[MOM3112]矢板中央GK藤井陽登(1年)_県決勝に続きPK阻止! 青森出身ルーキーの「信じられない」現在地

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PK戦で勝利に導いた矢板中央高GK藤井陽登(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.31 選手権1回戦 矢板中央高2-2(PK6-5)大分高 オリプリ]

 最後の最後まで集中力を切らさず、熱戦に終止符を打った。サドンデスにまでもつれ込んだPK戦、矢板中央高GK藤井陽登(1年)は大分高7人目のキックを見事にストップ。「信じられないし、自分が立って良いのかという思いもあって、まだ緊張もしてしまう感じ」という初々しいルーキーが初戦白星に大きく貢献した。

 この日の矢板中央は持ち味の空中戦を有効に使って2点を先取するも、地上戦で技術を見せてくる大分相手に2失点。勝利濃厚の状況からPK戦に持ち込まれてしまった。もっとも、藤井にとってPK戦は「負けたことがない」舞台。県予選決勝の佐野日大戦でも2本のキックを止めており、前向きな気持ちで挑んでいた。

 また、高いモチベーションは相手GKとの関係性にもあった。同じサイドのゴールを交互に守ることになった大分GK塩治晴士は藤井と同じ1年生。また奇しくも、同じ『はると』の名前を持つ守護神同士の対決だった。

「相手GKは同じ名前だし、1年生ということもあって、一つ一つのプレーを見ていたけど、キックは相手のほうが上だった。あとセービングも相手のほうが上」。上背では180cmの藤井が168cmの塩治を大きくリードしているが、プレー中は尊敬の念を持ちながら眺めていたという。

 そんな2人のPK対決は序盤、両チームのキッカーが精度の高いシュートを繰り出し続けたこともあり、なかなか見せ場は訪れなかった。互いに読みは当たりつつあるものの、伸ばした手の先をボールが抜けていく形の連続。5人目まではいずれもノーミスのまま進んでいった。

 そうして迎えた先攻大分の6人目、繰り出されたキックは藤井の届かない位置を通り過ぎていくかと思われたが、ボールはゴールポストにヒット。相手のミスに助けられる形で勝利に王手がかかった。次のキッカーはDF矢野息吹(3年)。攻守で絶大な信頼を寄せる先輩が「外すと思っていなかった」(藤井)。勝利は目の前に近づいていた。

 しかし、矢野が蹴り出したボールは大きくクロスバーの上へ向かう。依然スコアは5-5。再び藤井に出番が巡ってくることになった。そのうえ、矢野のシュートはスタジアム外にまで飛び出したため、予備のボールを補充するためいったん時間が空いた。キッカー、ゴールキーパーの双方にとっては集中力を切らしかねない間だった。

 それでも「その一本に集中していた」という藤井は冷静だった。相手7人目のキックが正面寄りの甘いコースに飛んでくるのを見切り、最後はキャッチングで対応。再び優位に立った矢板中央は7人目が正確なキックを蹴り込んで試合を締めた。県予選決勝で勝利に導いた1年生GKはまたしてもヒーローになった。

 そんな守護神の活躍には高橋健二監督もほおを緩ませっぱなしだった。「大したものですよ。1年生で最初は緊張感もあっただろうけど、最近のプレーを見ていると自信を持っていて、先輩たちも安心してゴールマウスを任せられる強い存在だなと思います」。矢板中央はGKだけで十数人を抱える大所帯。そこでの抜擢にはいくつかの縁があったという。

 青森県十和田市出身の藤井は、青森県8強レベルという地元の十和田中から、木村大地GKコーチ(青森山田高出身)の誘いを受けて矢板中央に進学。当初は「正面に転がってきたボールも後ろに転がすことがあった」(高橋監督)という。それでも練習を積むにつれて「キックやシュートストップは非常に長けている」という能力が徐々に開花していった。

 今年9月の『2019 Rookie League』で『ゲキサカ』が実施したインタビューでは「来年からトップチームで出て、100回大会の選手権で全国優勝したい」と長期的な目標を語っていた藤井。ところが同じ時期に正守護神を務めていたGK溝口陽日(3年)が負傷したこともあり、月も変わらぬうちに高円宮杯プリンスリーグ関東の舞台で白羽の矢が立った。

「一気に伸びましたね。最初から使う気はなかったんですが、けが人が出て誰を使うかということになり、他のGKも使いながらいろんな選手を試していたら、藤井になったときに本当に安定してきた。シュートストップとですね、キックでもチャンスができるので、良い感じで伸びていると思う」(高橋監督)。

 そうした活躍が評価され、冬の大舞台でも正守護神の座を射止めた。「信じられないし、自分が立って良いのかという思いもあって、まだ緊張もしてしまう感じで。でも出るからにはやろうと思っている」。全国の舞台に立っているいまも、現在の立場に不思議な感覚も隠せない。それでも「先輩の分まで頑張らないといけないという責任」とともにピッチに立っている。

 だからこそ、地に足がついている。トップチームで試合に出られるようになった時も、選手権のレギュラーが近づいた時も、遠く青森で暮らす母・真希さんからは「謙虚に頑張って」というLINEが届いた。またこの日、もう一人の『はると』からも「頑張って」と思いを託され、「試合する機会は少ないけど良い関係を築いていけたら」と新たに背負うものができた。

 なにより青森県で育った身、県代表の前回王者・青森山田高の存在も大きなモチベーションとなっている。「山田はプロ内定している人がいるし、年代別代表にも何人もいる。そこは刺激になっている。試合をした時には倒してやろうと思っている」。今大会で対戦する可能性があるのは決勝戦のみ。夢のようなサクセスストーリーを紡いできた16歳だが、ここで歩みを止めるわけにはいかない。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2019

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