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太陽王子の絶対的守護神。柏U-18GK佐々木雅士が気付いた“人間性”の大切さ

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柏レイソルU-18の守護神、佐々木雅士

[2020シーズンへ向けて](※柏レイソルの協力により、電話取材をさせて頂いています)

「ニコ~」という音が出そうな柔和な笑顔には、まだ高校生らしいあどけなさも残っているが、ひとたびゴールマウスに立てば、相手のフォワードたちを失望の渦に巻き込んでしまう実力者だ。そんな18歳が実感しているのは、一流選手に共通する要素。「(中村)航輔くんとか(キム・)スンギュさんはプレー面で異次元な所があると思うんですけど、あの人たちみたいな人間性の人がトップに行くのかなと感じています」。柏レイソルU-18の守護神。佐々木雅士(3年)は今、“人間性”の大切さを噛み締めている。

 昨シーズンは失意からのスタートとなった。プレミアリーグEASTの開幕直前に負傷。「前の年のアジア予選が終わってから、ずっとU-17のワールドカップを目指してやってきていたので、その中でケガしてしまった時は先が見えないというか、『どうしたらいいんだろう』という感じがありました」。リハビリを経て、6月のプレミア第7節の大宮アルディージャU18戦でようやくスタメン出場を果たしたが、試合後のシーンが印象深い。

 アウェイで2-0の勝利を収め、歓喜に沸くチームの傍らで、ある選手が佐々木に近付いていく。満面の笑みで彼を祝福していたのは、3年生のGK志賀一允。佐々木が欠場していた第6節まではすべての試合でスタメンに名を連ねていたものの、“後輩”の復帰に伴って、この日はベンチから90分間を見守った。にもかかわらず、試合後に見せた笑顔は、心から浮かべていたように見えた。1つ年上の“先輩”の人間性は、佐々木も十分に感じていたという。

「もともとカズは『人として尊敬できるな』と前から思っていたんですけど、カズが3年生になって支える立場となった時に、信頼感は凄くありましたし、よく話し掛けてくれたのが嬉しかったです。それがあったからこそ、ワールドカップの時も『出られなくても頑張ろう』というのはありました」。

 昨年10月に開催されたFIFA U-17ワールドカップ。世代でわずかに3人という狭き門を潜り抜け、世界へ挑むメンバーに選出された佐々木だったが、出場機会は一度も巡ってこなかった。「正直、世界大会に行って感じたことは悔しさしかなくて。試合には出られないけど、チームのために働かなくてはいけないとか、そういう複雑な想いがありましたし、それを表に出さないように意識していたつもりでしたけど、それでも悔しさが勝ってしまう時もありました」。

 ただ、チームメイトだったFC東京U-18の角昂志郎は大会後にこう語っている。「佐々木雅士が凄くチームを盛り上げてくれたんです。アイツがいなかったら、あんなに良い雰囲気にはなっていなかったかもしれないですね」。そのことを本人に尋ねると、「ゴリさん(森山佳郎監督)が“笑顔”というのをミーティングで凄く話していて、その“笑顔”という部分はそんなに意識はしなかったですけど、チームを盛り上げられたのは元からそういう性格だったのが良かったかもしれないですね(笑)」とサラッと口にしたが、高校生になかなかできることではないだろう。その背景に、所属チームの“先輩”の存在があったことは言うまでもない。

「シュートストップはもちろん得意な所ですけど、自分はビルドアップとかフィードで、攻撃のスタートとなるプレーができるのが強みだと思います」と自ら語るように、ギリギリの所へ手の届くセービング技術に加え、ジュニア時代には指を負傷した際にセンターバックで起用されたこともあるほど、足元のテクニックも確か。そのしなやかなプレースタイルは、左利きという特徴も相まって、イケル・カシージャス(元スペイン代表)を彷彿とさせる。

 既に2種登録も完了。トップチームの練習参加時に体験した、面白い話を聞かせてくれた。「練習が終わった後に、1人でご飯を食べていたらスンギュさんが『一緒に食べよう』と来てくれて。メッチャビックリしましたけど、本当に嬉しかったです。それで『僕はスンギュさんのこと、何て呼べばいいんでしょうか?』って聞いたら、『チームではスンちゃんだよ』『自分がスンちゃんなんて呼んでもいいんでしょうか?』『スンちゃんでいいよ』と言われました。だから“スンちゃん”って呼んでいるんですけど、たまに“スンちゃんさん”って、一応“さん”も付けたりしています(笑)」。このあたりも周囲の人から愛されるゆえんだろうか。

 チームの活動自粛期間も長期に及び、近くの公園でトレーニングする日が続く中で、 「シュートを1か月以上受けていないので、『それはどうなるんだろう』っていうのはあります。シュート、受けたいです」と笑った声に、根っからのゴールキーパー気質も見え隠れする。ちなみに好きな教科は図工や美術。“造る系”が好きだったそうで、「まあアーティストですね(笑)」と付け加えるあたりも微笑ましい。

 目指すのはプロ一択。「一番の目標はレイソルのトップチームに上がって、早く試合に出ることなので、プロ志望でこれからもっと頑張っていきたいですし、特に最上級生だからとか、アカデミー最後の年だからというのは関係なく、自分のできることを毎日やっていきたいですし、それが良い方向になればいいかなとは思います」。

 柏レイソルU-18の守護神。佐々木雅士は今、“人間性”の大切さを噛み締めつつ、辿り着くべきステージを明確に見据えている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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