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Jリーグがメディア向けに説明「理念に一切の変更はない」ホームタウン制どこが変わる?

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パートナー・放映事業本部の出井宏明本部長が今後の方針を説明した

 Jリーグは19日、臨時のメディアブリーフィングをオンラインで行い、ホームタウン活動区域外のマーケティング活動について今後の方向性を説明した。

 今月17日、一部報道機関から「事実上のホームタウン制度撤廃」が伝えられたのをきっかけに明るみになったこの議論。対してJリーグ側は同日、村井満チェアマンの言葉で否定の声明を発表し、「ホームタウン制度について撤廃・変更の事実は一切なく、今後、Jクラブの営業、プロモーション、イベント等のマーケティング活動における活動エリアに関する考え方の方向性について議論しているものです」と伝えていた。

 この日のメディアブリーフィングでは、声明にあった「活動エリアに関する考え方の方向性」が共有された。ブリーフィングにはJリーグの木村正明専務理事と、パートナー・放映事業本部の出井宏明本部長が出席。冒頭で木村専務理事が「Jリーグの理念を具現化している規約、思想、活動方針に一切の変更はない」という姿勢を強調した。

「われわれのスタンスとして、Jリーグは豊かなスポーツ文化の振興と、国民の心身の健康への寄与という理念に持っていて、それを具現化したもので規約、定款、百年構想がある。『あなたの町にも、Jリーグはある。』とあるとおり、地域密着を標榜して活動してきた。私がクラブにいた時も地域の理解を得ることを一丁目一番地に置いてきたし、入会時にはホームタウンを規定し、対象の自治体の全ての首長、県協会の全面的な支援を取り付けることを謳っている。ホームスタジアムでホームゲームの8割以上を開催することを定めている。この辺りは変わることはない前提なので議論になってはいない。これらの理念を具現化している規約、活動方針に一切の変更はない」(木村専務理事)。

 すなわち、Jリーグ規約第24条に定められている「Jクラブはホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブ作り(社会貢献活動を含む)を行い、サッカーをはじめとするスポーツの普及および振興に努めなければならない」というホームタウン規定にも変更はなし。そうした方向性は全クラブにも伝えられており、代表者が集まる実行委員会などでも合意済みだという。

 ではその一方、今回の議論によって何が変わるのか。方針変更の根本にはJリーグがこれまで築いてきた「紳士協定」があるようだ。

 出井本部長は「もともとJリーグの規約規定の中で、ホームタウンを超えた他のエリアでのマーケティング活動を規制するルールがあるものではない。どちらかといえば歴史の中でお互い考えながらやってきたいわゆる紳士協定というか暗黙のルールがあり、時代に合わせて棚卸しをしようというところ」と今回の方針転向の位置付けを説明。その上で、Jリーグ黎明期からの環境変化と、今後の方針について示した。

【これまでの周辺環境の変化】
▽人の流動化
・都市部中心に多く見受けられる、現居住都道府県と出生地が異なる方の存在
・現居住都道府県以外の居住経験がある人が半数近くいる
・地方から都市部への人の移動、地方における人口減少の加速
・都市部から地方へ、という地方創生観点での要望
▽クラブのファンベースの多様化
・ホームタウン所在都道府県以外に居住するファンの存在
(JリーグIDによるデータでは少ないクラブで30%、多いクラブで75%)
・大都市圏居住者を中心に多様なファン構成
▽クラブスポンサーのナショナル化
・J1クラブの多くはメインスポンサーがナショナルクライアント
▽マーケティングのデジタル化の加速
・SNS等でコンテンツを消費するファン・サポーターの増加
・ウェブ、SNS、ECなど「場所」に縛られないデジタルマーケティングの加速
▽海外クラブを含むさまざまな運営法人による日本国内でのスクール事業実施
・ヨーロッパ、南米の名門クラブが日本国内で小学生向けのスクール事業を展開中

 こうした環境変化を受けて、Jリーグではこれまでもたびたび事業方針の見直しを実施。東京都の新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、港区を「特区」に指定し、マーケティング活動の自由化を推進するなど、すでに行われている施策もある。

 さらにJリーグは今回、今後の事業活動・マーケティング活動の方向性を整理。それが次の4点で示された。

【今後の事業活動・マーケティング活動の思想】
▽価値提供先視点での活動
・地域による線引きというわれわれの事情ではなく、顧客視点で不要な選択の制限を与えることを避ける。
▽環境変化に合わせたチャレンジ推進、クラブ及びリーグ全体の事業機会の拡大
・成長を目指すクラブにとっての事業選択肢を広げる。
▽地域内での活動を軸にしつつ、地域に閉じない活動を含めた地域貢献を視野に入れる
・クラブの力によって多様化するホームタウン課題の解決に寄与し、地域と共に自ら成長を目指すクラブの成長機会を支援する。
▽共創&競争(適切な競争による事業成長)
・提供価値の磨き込みを推進する。

 またホームタウン以外の地域での事業活動・マーケティング活動の考え方をまとめ、次の3点をガイドラインとして運用していく方針だ。

【ホームタウンでの事業活動の考え方】
①クラブはホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブ作り(社会貢献活動を含む)を行い、サッカーをはじめとするスポーツの普及および振興に努め、これに必要な事業活動を行う。
②その上で、ホームタウン以外での事業活動(協賛営業・商品化事業・プロモーション、各種イベント、サッカークリニックの実施など)に関して、実施を希望するクラブの実施地域は制限されない。
③実施の検討に当たっては「共創&競争(クラブ双方/リーグ全体の成長)」「サービス提供先視点での活動(顧客=企業/自治体/消費者)」の思想を踏まえた戦略設計を意識し、適宜、クラブ間で必要なコミュニケーションを行う。

 その中では考慮事項として「イベント・アクティベーション告知および実際のさいの当該ホームタウンクラブのホームゲーム集客」「当該ホームタウンクラブと活動先自治体との関係性」「サッカークリニック展開の際の商圏規模、地域協会など関係するステークホルダー」に配慮することが求められている。

 これらの議論について、木村専務理事は「理念に変更がないというベースで始まった議論だが、ホームタウンの議論はこれまでもずっとしてきているので、クラブのニーズに沿ってリーグが変えられることはこれまで解決しており、残っているものがそれほどなかった。大きく変わったことはあまりない」と説明。コロナ禍の経営打撃についても「起死回生の一手になるとか、大きなポイントになる感覚は持ち得ていない」と述べ、あくまでも長期的視点での方針変更だという位置付けを強調した。

 その一方、Jリーグ側にとってはホームタウンに関する方針がファン・サポーターの大きな関心事であることが伝わる機会になったようだ。出井本部長は「ファン・サポーターはじめ様々な人から地域密着は大事だよねというお声が多くあった。あらためて地域と共にあるJリーグに価値を感じている、大事にしているというのを感じている。あらためてそこの思想の原点は大事にしながら、どう時代を合わせてやっていくかが大事だなと感じた」と振り返った。

 なお、一部報道にあったクラブ名のネーミングライツ制導入については「特段何かが決まっているわけでもなく、何も変わっていない」(木村専務理事)という。

(取材・文 竹内達也)
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