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恩返しの80分間でゴラッソFKも披露。日本文理MF河合匠は仲間と親への感謝を胸に次のステージへ

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日本文理高を声とプレーで牽引し続けたMF河合匠

[11.3 選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 4-2 日本文理高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 足はほとんど攣りかけていた。それでも、走った。一緒に苦しい時間を過ごしてきた仲間のために。新潟へと快く送り出してくれた親のために。タイムアップのホイッスルが鳴る。もちろんメチャメチャ悔しいけれど、やり切った感覚も同時にあった。

「親元を離れて寮生活をしてきた中で、苦しい時間の方が多くて、なかなか試合にも出られなかったこともあって、最後は負けてしまったんですけど、親も見に来てくれて、その中でゴールを決められたのは、少しは恩返しになったのかなと思います」。日本文理高の元気印。MF河合匠(3年=FC相模原HORTENCIA出身)がこの学校で経験した3年間の高校サッカーは、きっとこれからの人生の大きな糧になる。

 憧れ続けてきた晴れ舞台まで、あと2勝に迫った準決勝。2年続けて全国4強まで勝ち上がっている帝京長岡高と対峙した一戦で、まずは11番を背負った河合が真っ先に眩い光を放つ。前半4分。右サイドで日本文理が獲得したFK。中途半端なことだけはしたくないと、ずっと考えていた。

「こういう大きい舞台で、消極的になるのはチームとしても波に乗れないと思うので、練習していたところよりは距離があったんですけど、思い切って振った感じですね。対帝京長岡ということで、チャンスが少ないというイメージがあったので、『FKはモノにしたいな』と思っていました」。

 左足一閃。ボールはパーフェクトなコースを辿って、ゴールネットへ飛び込んでいく。「鳥肌が立って、ずっとサッカーをやってきた中で一番震えました」。一目散に駆け寄ったスタンドの前で、何度も、何度も両手を振り上げ、仲間たちを煽る。自主練習で積み重ねてきた成果が、この大一番でも最高の形で結実した。

 何より、気持ちが前面に出るプレーヤーだ。「大きな舞台になればなるほど、ああいう声が出る感じですね。相手には有名な選手がいる中で、どうしてもチームに流れを持ってきたかったですし、絶対勝ちたかったので、ワンプレーワンプレーで声を掛けていました。元から性格的に感情的な部分もあるので、それが出たかなと思います」。1つのチャンス、1つのクリアに、「しゃあ!」という河合の声がピッチに響く。

 ただ、帝京長岡も強い。2点を先行していたものの、後半に入って逆転を許す。河合も懸命にピッチを走り続けたが、徐々にチャンスの数も少なくなっていく。ファイナルスコアは2-4。「頭が真っ白になりました。ずっと対帝京長岡というのはイメージしていたんですけど、やっぱり壁は大きかったです。相手が強いなって感じでした」。全国への想いは、届かなかった。

 自分が想像していたような3年間を過ごしてきたわけではない。1年時は自分の中でも手応えを掴むことができていたが、2年時はなかなか明確な結果を出せず、もどかしい時間が続く。大きな覚悟を抱いて臨んだ最後の1年も、インターハイの前後はスタメンにも定着できず、何度も心が折れそうになった。そんな時、傍にはいつも仲間がいてくれた。

「チームへの貢献度としては凄く低い状況の中で、3年生になって、自分たちの代で出れなかったということが一番苦しかったですけど、いつも自主練習に付き合ってくれていたキーパーのシュンスケ(齋藤隼介)だったり、今日もメンバー外だったカイセイ(熊﨑開世)だったり、試合に出ていないヤツらも僕を助けてくれました」。だからこそ、勝ちたかった。みんなのために、勝ちたかった。

 試合が終わり、1時間は経過した頃。日本文理の選手たちは、応援に来てくれた保護者の方々への挨拶に向かう。自分を信じてきてくれた親の、3年間をともに戦ってきた仲間の顔を見ていたら、河合も涙が止まらない。何とか絞り出した言葉は、周囲への感謝に満ちていた。

「3年間、楽しかったです。良い仲間と良い指導者に恵まれて、親のおかげで良い環境でできて……。でも、やっぱり、一番は、良い仲間を持ったなと思います」。

 感謝の80分間を終え、河合はまた次のステージへと力強く歩み出す。

シュートミスに飛び上がって頭を抱える。リアクションの大きさも魅力的


(取材・文 土屋雅史)

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