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F東京・城福監督が大宣言。「サッカー産業に刺激を!」「ポストW杯の牽引車に!」

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 FC東京は23日、東京・小平市の嘉悦大学・カエツホールで2010年の新体制発表会見を行った。昨季は2度目のナビスコ杯を制したが、多数のサポーター、関係者、メディアを集めた中、城福浩監督は今季の目標について、「サッカー界の産業に刺激を与える!」と壮大なプランをブチ上げた。

 期待のCB森重真人(前大分)、U-20ブラジル代表FWリカルジーニョ、キックが武器のMF松下年宏(前新潟)、U-20韓国代表DFキム・ヨングンら、まずまずの補強に成功したFC東京。さらに日本代表に5選手を送り出すなど成長著しいクラブだが、この影響もあるのか、はたまた選手への発奮を込めてなのか、いずれにせよ目標がデカかった。

 城福監督は、この日の朝のミーティングで選手に、今季の目標を伝えたが、それとほぼ同様の内容を記者会見でも説明した。自らホワイトボードに書いて、会見をするという異例のスタイルだった。以下、監督のコメントを中心に、FC東京の2010年の“壮大な夢”をお伝えしたい。

 「選手にミーティングでホワイトボードに書いて、話をしたんですが、ここ(会見場)にも私、書いてきました。

 今年はJリーグで真の優勝争いをしたいと伝えました。真の優勝争いとは、第15節を終えて我々が1位になったとしても優勝争いとはいいません。真の優勝争いは、少なくとも11月末、12月の第1週まで、数字的に優勝の可能性があること。そうなれば優勝争いという単語が使えると思っています」

 ここまでは、普通の、どこにでもありそうなというと失礼だが、通常の指揮官の“所信表明演説”となるのだが、ここからが違った。メディア、サポーターはうなずきながら、聞き入っていた。

 「Jリーグは創設以来、首都のチームが優勝争いをしたことがありません。Jリーグは首都のクラブが優勝争いをしたことがない状態でも成り立っている産業です。

 我々は、この首都のクラブが優勝争いをすることで、ファンの方がどういう状況になるのか、小平の練習場が、味の素スタジアムがどういう状況になるのか、メディアの扱いがどういう状況になるのか、未境の地です。

 今年は、我々がその未知の世界に足を踏み入れる。最終節に向けて(首都クラブのFC東京が)優勝争いをすることが、サッカー界の産業においてどんな状況をもたらすのか、我々の手で確かめたい。これを(ミーティングで)堅く選手と約束しあった。真の優勝争いをすることは、サッカー界の産業に刺激を与えることだと信じています」

 指揮官は、首都に本拠地を置くFC東京のリーグ優勝が、クラブはもちろん、Jリーグ、そしてサッカー界の発展をも導く可能性がある、それを成し遂げると宣言したのだ。

 昨今、不景気の影響で、Jリーグの各クラブもその影響をもろに受けている。スポンサー収入は減り、運営費は縮小。今年も多くの選手が“リストラ”された。浦和でさえ、予算は縮小している。

 かつて富士通でサラリーマン経験があり、社員のリストラに携わる仕事をしたことがある城福監督だけに、大分の経営問題など、サッカー界の“経営問題”を憂い、何とかしたいという思いがあったようだ。

 “お隣”のプロ野球は、良くも悪くも首都にある巨人が優勝すれば、多大な経済効果を生むなど、野球界を盛り上げる一因になっている。もちろん、阪神も。ならば、FC東京でも同じようなことができるのでは・・・。もちろん、巨人を目指しているわけではないが、経済規模が世界屈指の首都・東京のクラブとして、サッカー界のけん引も夢に掲げた。

 「今どこのクラブも非常に経営が苦しい。大分さんだけでなく、どこのクラブも非常に厳しい。ですが今の不況の世の中を嘆いても、何も始りません。我々の今、最大のメリットは、、今年は4年に一度のW杯があること。

 きょうもたくさんのメディアの方が来てくださっていますが、今から半年間というのは、サッカーに対して非常に注目が集まる。スポーツ関係ではない部署のメディアの方でも、サッカーを見たことがない人でも、衆目が集まります。特別な半年間になる。我々はこのチャンスを逃す手はない。

 ましてや今、このチームは代表に5人選ばれている。世間が注目してくださるこの半年を我々は、大事にしないといけない。世間がこっちを向いてくれない、経済が厳しいからスポンサーの人がこっちを向いてくれない、ではなく、自分たちの手で、こっちを向かせないといけないと思います。

 W杯が終わったら、今きていただいているメディアの方がそのまま、我々のクラブに来ていて頂ける、これは何の保証もありません。(サッカー媒体以外の人が)そのままJリーグの取材を続けてくれる保証は何もないんです。

 景気の回復を待つのか、日本代表の活躍を座して待つしかないのか!? と選手には話しました。この半年間を、絶対に逃すなといいました。メディアに対する対応、ファンに対する対応、一語一句、すべてが大事な時間で、ピッチのうえの一分一秒が大事な時間になると、選手に伝えました。

 自動的に注目される時間は、6月までです。問題はそのあと。そのあとに、いかに我々自身で我々の今、働いている産業を確固たるものにするかは、我々自身で手繰り寄せるしかないんです。

 一番最初に言いましたが、首都のクラブが真の優勝争いをすることのみが、W杯以降、世間の方にサッカーを注目していただき、観客動員を増やし、スポンサーの方にも価値を見出していただける(ことにながる)。(サッカー)産業を大きくする。そうすれば、しいては我々に帰ってくる。そういうサイクルになると思います。

 最後にもう一度いいます。タイトルを必ず一つは取りたい。Jリーグで真の優勝争いをしたい。そしてポスト・W杯、ポスト・W杯を我々が牽引車になりたい。これを選手に話して、きょうグラウンドに送り出しました」

 城福監督は、まるで選挙演説のように熱弁をふるった。この世知辛い世の中で、たしかに、指揮官のいうことは大事なことだ。過去、選手のメディア対応などが問題になった時期もあったが、共存共栄で頑張っていかなければ、双方に未来はない。あとは、この指揮官の思いにどれだけ選手が応え、実践していけるか。もちろん、優勝には指揮官の指導力、采配力も必要になる。

 これまで、延々とクラブの理想論ともいえる“大志”を紹介してきが、城福監督はしっかりと実現に向けて考えていた。『2分け8敗』という数字に示されていた。

 「ここに書いてある『2分け8敗』ですが、今朝、選手にどの数字かわかるか? と質問しました。応えられませんでしたが、これは、我々は5位でしたが、1位から4位まで、そして6位の浦和さんとの対戦成績です。

 ある程度のクラブとは、我々のサッカーができて、勝っているが、ある一定以上のレベルの守備を持つチーム、高いレベルでポゼッションをするチーム、強烈なカウンターを持つチームには歯が立たなかった。そこを見つめ直すことからスタートになる。何をするかはここでは言えませんが、ハードルを越えていきたい」

 情熱的かつ、知的に話を進めた城福監督。大分から来た森重は指揮官の熱意に打たれたことも移籍を決めた理由と明かしているが、たしかに、この発言で士気を高めない選手はいないだろう。

 若き才能集団がさらに成長したうえで、高き理想と、指導論がうまく融合し、真の優勝争いを展開することがきでるのか。ポスト・W杯という“祭りの後”果たしてFC東京が牽引できるのか。この“答え”をサッカーに携わる人間として、見てみたいものだ。

〈写真〉記者会見で自らがホワイトボードに目標を書き込み、熱弁をふるった城福監督

(取材・文 近藤安弘)

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