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FC東京1年でJ1復帰へ、ザックジャパンの『自立心』を見習う!

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 今季はJ2を戦うFC東京は1日、東京・小平市内のクラブハウスで新体制発表会見を開いた。阿久根謙司新社長に大熊清監督以下コーチ陣、そしてFWペドロ・ジュニオール(スポルチ・レシフェ)、FWロベルト・セザー(アバイ)、MFホベルト(横浜FC)のブラジル人トリオ、元日本代表FW高松大樹(大分)、MF谷澤達也(千葉)、DF柳楽智和(福岡)、MF上里一将(札幌)、GK常澤聡(草津)が登壇し、1年でのJ1復帰へ熱い決意を語った。

 1年でのJ1復帰を至上命題とするが、そのために華やかさや高き理想は二の次にする。昨年までは『Moving Football(ムービングフットボール)』を掲げ、バルセロナのような華麗なパスサッカーで魅了することを目指したが、2011シーズンの新スローガンは『TOKYO SPIRIT~すべては勝つために~』に決まった。サッカースタイルというよりは、精神的な強さを求める言葉となった。

 大熊監督以下、クラブスタッフ全員で決めたそうだが、会見の冒頭で「1年でのJ1復帰をみなさんにお約束したいと思います。そのために必要なポイントは勝ちにこだわること。そして、自立することです」と宣言した阿久根新社長が、スローガンに込められた意味を説明した。

 「SPIRITという箇所に意味をもたせています。Sは『スピード』、PはPersonality『個性』、Iは Independence『自立』、RはRace『競争』、次のIはInsight『状況判断』。最後のTは『テクニック』を意味します。順番は個人の個性が1番初めにきます。そしてその個性が、私が言っているように自立することが大事。その自立した個性が3つのスピード、テクニック、状況判断というものを基に戦いに臨むのがベースになります」

 中でも重視しているのがIndependence『自立』だ。大人のプロチームに『自立』という言葉が使われるのは異例のことだが、これについて大熊監督は「ずっとFC東京は全員守備全員攻撃、そして人とボールが動くということでやってきたわけですが、その中に考えるということを付け加えたかった。(昨年)J1で直接FKを決めていないのはFC東京だけだと思います。そういう意味でFKを武器にしている選手が、やらされているというよりも、自発的にFKのトレーニングをする。(自分がコーチを務めた)日本代表ではFKを持っている選手は、止めろというくらいまでやり続けていた。それは自分が勝ちにこだわり、自分の個性が何なのかを考え続けながら、トレーニングをしているのだと思っていました。自分から考え、サッカーだけでなく自立していくことが、チームのパワーを上げるのではないかと思います。アジア杯のチームの『自立心』や目標が高いというところが、FC東京の選手には少し足りないところだと思いました」と熱弁した。

 これまで“エリート集団”といわれ、ややひ弱さをのぞかせてきた選手たちに、今年は精神的なたくましさを植えつけていくことを強調した。その模範が、アジア杯を制したザックジャパンだ。1試合ごとに成長し、勝利への執念を見せた日本代表。決勝のオーストラリア戦では、後半途中からDF今野泰幸とDF長友佑都の配置などシステムについて自分たちで考え、ザッケローニ監督に意見したが、そんなたくましさ、自立した精神面を、FC東京イレブンにも求めていくつもりだ。

 一時はJ2降格により、日本代表DF今野泰幸や北京五輪代表MF梶山陽平、元日本代表DF徳永悠平ら主力選手が移籍するのではないかと心配されたが、全員がチームに残留した。そこに今年、ブラジル人トリオや高松、谷澤らが加わったが、チームに勝負強さ、精神的強さをもたらす役割として期待されるのが助っ人たちだ。中でもブラジル人FWコンビのペドロ・ジュニオールロベルト・セザーには、昨年のチームに足りなかったゴールへの執着心という面で戦力アップが期待できる。

 ペドロは昨夏にG大阪からブラジルに渡ったが、2009年は新潟でリーグ戦21試合10得点、同年途中から在籍したG大阪では同7試合3得点と大暴れ。スピードに乗ったドリブル突破と得点力に期待がかかる。本人も気合十分で「今、監督が話したようにFKでも点が取れなかった。それ以外でも点が取れなかったという印象がある。今年は何としてでも私たち新加入選手と、今までいた選手が力を合わせていきたい。J1に上がって優勝したい」と宣言。エースのFW平山相太についても「彼のプレーはわかっている。ペナルティーエリアの中で仕事をする選手だ。私個人もそうだし、チームとして活かしていければと思う」とコンビ熟成に意欲的だった。

 ロベルト・セザーは昨年、アバイの一員としてリーグ戦39試合12得点を記録。あのブラジル選手権(1部)にも出場し、22試合7得点の成績を残している。「日本人選手と力をあわせていきたい。個人的に言えば、ゴールをたくさん決めるという約束は正直できません。それはゴールが自然に生まれるものだからです。ただし、私は精一杯力を出し切るということは約束できます」とチームに尽くすことを力説した。

 この2人にはJリーグに対して個人的なリベンジの思いもある。ペドロは昨年、G大阪で起用法をめぐってもめて移籍した。ロベルトは2004年に新潟に在籍したが、当時はまだ18歳と若く試合にまったく出られなかった。その反骨心が原動力となっている。ペドロは「日本が好きなので、もう一度、日本でプレーしたいと思っていた。妻も日本が好きだから帰ってきたかった。チームのJ1昇格という目的も、すばらしいと感じた」とFC東京移籍を決断した理由を明かした。

 ロベルト・セザーも、ブラジル国内やカタールのチームからオファーを受けたが、FC東京からオファーを受けて即決したという。「新潟で1年間プレーしたけど、当時は試合に出られなかった。日本に戻りたいと思っていた」と吐露し、「スピードは若いときとかわっていない。当時よりも考える力や落ち着いてプレーすることが身についた。フィニッシュの精度も上がって、この何年かゴールを多く決められるようになった」と成長した姿を見せることに意欲的だ。当時の新潟の指揮官は現湘南の反町康治監督だったが、「1年間一緒に仕事をしたが、私のことをよく見てくれていた。恩返しできるように力を出したい」と語った。

 昨年は勝負弱さを露呈して降格してしまったが、新たにチームが重視する『個性』と『自立』が身に付いて精神的に強くなり、ブラジル人コンビの決定力、ゴールへの執着心が発揮されれば鬼に金棒だ。大熊監督は「J1復帰という目標だけでなく、J1に強くなって戻りたい、復活したいと思います」と決意を口にしたが、臨戦態勢は整った。あとはキャンプなどでさらに鍛え上げ、心身ともに“強いFC東京”を作り上げる。

[写真]左上から常澤、ホベルト、高松、谷澤。左下から柳楽、ペドロ、大熊監督、セザー、上里

(取材・文 近藤安弘)

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