[8・14 第90回全国高校選手権東京都第6地区予選2回戦 多摩大目黒3-1桜美林 筑波大駒場G]

「奥監督と全国へ――」今冬に開催される第90回全国高校サッカー選手権の各都道府県予選は、すでに一部地域で開幕。14日に行われた東京都第6地区予選では元日本代表MF奥大介監督率いる多摩大目黒が、初戦となる2回戦で桜美林と対戦。MF永田羽竜主将(3年)の先制ヘッドなどにより、3-1で勝った多摩大目黒は3回戦へ進出した。

「監督を全国へ連れて行こう!」。円陣で誓いを新たにした多摩大目黒イレブンが、苦しみながらも目標の全国大会出場へのスタートを切った。普段練習している人工芝グラウンドとは違い、局面局面で土煙が舞い上がり、ボールが不規則に跳ね上がる土のグラウンド。武器であるテクニックを活かしづらい環境、また難しい初戦ということもあり、本来のスタイルが出せたとは言い難い。それでもピッチサイドから「声、しっかりやろう」「切り替え!」とほぼ立ちっぱなしでかけ続けられた35歳の青年監督の声によって集中力を切らさなかった選手たちは、苦しみながらも第1関門を突破した。

　個人技やスルーパスでディフェンスラインを破ろうとする多摩大目黒は、左サイドから仕掛けたMF中村圭(3年)の放ったゴールマウス直撃の左足シュートやFW飯田敦基(3年)がPAから打ち込んだ決定的な右足シュートなど、立ち上がりから主導権を握って攻め続ける。そして前半20分、左SB小田亨平(3年)からの左アーリークロスに長い距離を走って飛び込んだ永田主将が、頭で合わせて先制点を奪った。

　さらに2分後の22分には、アングルをつけた右スローインをゴールライン際で受けた飯田が折り返すと、中央のFW榊亮太(3年)が頭でゴールへ押し込み、2点差へと突き放す。相手にほとんど攻撃機会を与えずに攻めていた多摩大目黒は、これで俄然優位に立った。ただ前半28分、一瞬の隙を突かれて追撃を許してしまう。桜美林はCB橘和治(3年)がPAへFKを放り込むと、混戦からFW臼倉大智(3年)が豪快な左足ボレーをゴールへ叩き込んだ。

　1点差となった試合はこの後、膠着する。総合力では多摩大目黒が上回っていたものの、桜美林の3年生にとっても最後の選手権。DF笛木将史(2年)が至近距離から放った決定的なシュートをビッグセーブしたGK池田拳人(3年)らが必死に守り、逆に臼倉のミドルシュートや、セットプレーで同点ゴールを狙った。点差がわずか1点だったこともあり、あきらめずに勇気を持って戦った桜美林イレブン。ただ、多摩大目黒は後半30分、小田の左FKを交代出場のMF岩田和之(3年)が頭で合わせて3-1。粘る桜美林を振り切り、初戦を突破した。

　日本代表として国際Aマッチ26試合に出場(2得点)し、Jリーグベストイレブンに3度選出されている奥氏が多摩大目黒の監督に就任したのが08年9月。現在の3年生は奥監督が入学時から3年間通して指導した初めての世代となる。「愛情がいっぱいです」と指揮官は照れたが、実力的にも全国を狙うことのできるチームに仕上がってきている。

　普段から奥監督は同じく元Jリーガーである大西昌之、塩川岳人の両コーチとともに選手たちの中に交じってトレーニング。1対1や2対2などこだわって技術を高めてきた。永田主将は「監督はトラップが上手すぎて身体を寄せることができないし、大西コーチの突破とかあれ以上の高校生はいない。だからどこよりも(レベルの高い練習パートナーと)質の高い練習ができていると思います」と胸を張る。今夏の全国高校総体予選では1次トーナメント決勝でかえつ有明に1-2で逆転負け。だが準優勝して全国大会でも2勝した強豪校から先制し、あと一歩のところまで追い詰めたことで選手たちの自信は増した。そして「次こそ自分たちが」の思いで今大会に臨んでいる。

　タッチライン際で休まずに声をかけ続けた奥監督。ベンチから見守るのではなく、選手たちとより近い位置で一緒になって戦う姿勢には理由がある。「高校生やユース年代の選手は集中力を持続させることが難しい。Jリーグと比べて技術はもちろんですが、プロとの差は集中力の部分だと思います。あと、ボクは彼らに最後までやり切らないまま終わってほしくない。最後まで集中してやり切れるように。だから自分も全力で声を出し続けます」。

　元日本代表の指揮官は、自身も神戸弘陵(兵庫)時代に経験した選手権全国大会のピッチを多摩大目黒イレブンとともに踏むことができるか。飛び抜けた選手はおらず、加えてまだミスが多くて隙もある。ただ、特長ある好チームへ成長した多摩大目黒が、今大会「奥監督と全国へ」の目標を全員で果たす。

(取材・文　吉田太郎)

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