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[選手権予選]「市船に負けていい試合はない」名門・市立船橋が流経大柏に魂の勝利!:千葉

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[11.26 第90回全国高校選手権千葉県大会決勝 市立船橋1-0(延長)流通経済大柏 柏の葉]

「市船スピリット」が流経大柏沈める! 第90回全国高校サッカー選手権千葉県大会決勝が26日、柏の葉公園総合競技場で行われ、ともに全国優勝経験を持つ市立船橋と流通経済大柏が激突。延長前半7分に交代出場のFW菅野将輝(3年)が決めた決勝ゴールにより、市立船橋が1-0で勝った。3年ぶり18回目の全国大会出場を決めた市立船橋は12年1月2日の全国大会2回戦で長崎県代表の長崎日大と戦う。

 伝統の青いユニフォームが3年ぶりに選手権へ帰ってくる。千葉決勝は昨年の全国高校総体優勝校で全国選手権優勝4回の市立船橋と、昨年度の全国選手権と今夏の全国高校総体でいずれも4強へ進出しているほか、最近5年間で4つの全国タイトルを獲得している流通経済大柏の2強による頂上決戦。「全国大会決勝でもおかしくない」という声も上がるほどの注目対決は、0-0のままもつれ込んだ延長戦の前半7分に決勝ゴールが生まれる。

 市立船橋は昨年の全国総体得点王のエースFW和泉竜司主将(3年)が左コーナー付近でFKを獲得。続くゴール前の混戦からFW岩渕諒(3年)のシュートがDFに当たった跳ね返りを「ほぼゴールもGKも見えなかった。PAだったので思い切り打った」と菅野が右足を振りぬく。すると、シュートは両軍選手で大渋滞のゴール前を抜けてゴール左隅へ吸い込まれた。

 ヒーローの菅野を差し置いて次々とスタンドへ走り出した市船イレブンに沸騰した応援団が呼応する。興奮のあまりスタンドを飛び出して選手に駆け寄る姿。昨年は公式戦4戦全敗だった流経大柏の圧力を耐えてつかんだ歓喜は抑えることができなかった。このあと、延長後半になってようやくサイド攻撃が機能し始めてきた流経大柏は、それまでほとんどなかったクロスまで持ち込んだが、小出悠太種岡岐将の両2年生CBを中心とした市船ディフェンス陣は、PAまでボールを運ばれてもゴールを割らせず1-0で勝利。3分間のロスタイムを経て試合終了のホイッスルが鳴り響くと、スタンドから青いユニフォームが再び飛び出してきて大きな、大きな歓喜の輪をつくった。

 全国制覇しか狙っていない名門のプライドが勝利を呼び寄せた。相手は全国随一の戦力を擁する流経大柏。簡単な相手でないことは分かっていた。それでも「(市船にとって)負けていいというのは県内も全国でもない」と、市船OBで今年から指揮を執る朝岡隆蔵監督が語ったように、市立船橋は今年1年間叩き込まれてきた常勝の伝統、「市船スピリット」を発揮した。0-1で敗れた昨年の決勝も出場した和泉は「昨年は向こうの方が気迫を感じた。でもきょうは勝ちたいという気持ちが上回った」。負傷で欠場した切り札FW池辺征史とDF鈴木潤(ともに3年)から試合直前に送られた涙ながらの「全国へ連れていってください」という言葉に士気は頂点まで達していた。「やるしかない」という強い決意が各選手のプレーからはにじみ出ていた。

 戦略も当たった。朝岡監督は「相手のサイドアタッカーを絶対に封じ込みたかった」とFW中村慶太(3年)ら相手の強力なサイド攻撃を封じるために初めて3ボランチを選択。また指揮官は「100分間の戦いになると考えた。彼ら3年生に最後までピッチに立ってほしかった」と攻撃のキーマンである菅野とMF杉山丈一郎(3年)を後半から起用するプランを立てる。

 一方、今年の全国総体得点王のFW田上大地主将(3年)が累積警告で出場停止の流経大柏は「苦肉の策」(本田裕一郎監督)で今夏以降FWからCBへコンバートしていたU-18日本代表の宮本拓弥(3年)を1トップで起用。前半17分にはその宮本が力強い反転からドリブルシュートを放ち、24分にはMF湯澤聖人(3年)とのワンツーから宮本が決定的な右足シュートへ持ち込む。だが、市立船橋は米塚雅浩(3年)と磐瀬剛(1年)の両SBと中盤が相手のサイド攻撃に蓋をし、また背後をケアする小出がピンチの芽を再三摘むなど得点を許さない。

「前半が終わって絶対にやれるという手ごたえがあった」と小出は口にしていたが、後半7分に宮本の決定的なヘディングシュートを小出が絶妙なカバーリングでブロックすると、市船はSB森一樹(3年)のサイドチェンジや負傷で後半から出場のMF中村優仁(3年)のドリブルに揺さぶられながらも身体を張ってゴールを守り続ける。流経大柏の厳しいプレッシャーの前に攻めきれずに我慢する時間の続いた市船だったが、後半から出場した菅野と杉山が得意のドリブルで長い距離を駆け上がるなど、チャンスらしいチャンスのなかった攻撃に息を吹き込んだ。また向上した中盤の運動量でU-18日本代表候補MF古波津辰希(3年)を中心とした流経大柏の攻撃を封鎖。そして延長戦で急激に足の止まった流経大柏を尻目に、ペースが最後まで落ちなかった市船は想定通りの「100分勝負」で劇的な勝利を飾った。

 胴上げは朝岡監督の「全国で優勝してから」という言葉によってお預けとなった。昨夏、船橋市役所で開催された全国総体優勝報告会では祝辞もほどほどに「次は選手権の優勝を」とプレッシャーをかけられていたが、名門が期待されているのは選手権での日本一のみ。和泉は「自分たちは背負っているものが違う。全国も優勝します」。昨年の全国選手権4強全て、また今夏の全国総体16強から11校が選手権の舞台には手が届かなかった。選手権は戦国トーナメントとなる様相だが、日本一奪還だけを見据える市船には全国でも負けていい試合はない。

[写真]延長前半7分、菅野(中央、11番)の決勝ゴールを喜ぶ市立船橋イレブン

(取材・文 吉田太郎)
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