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[選手権]「団結力」と「思いの強さ」新たな伝統加えた市立船橋が9年ぶり日本一!!

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[1.9 全国高校選手権決勝 市立船橋2-1(延長)四日市中央工 国立]
  
 「団結力」と「思いの強さ」が生んだ名門の復活Vだった。第90回全国高校サッカー選手権決勝は1点ビハインドを追う市立船橋(千葉)が後半ロスタイムにFW和泉竜司主将(3年)のゴールで追いつくと、延長後半5分に和泉が再びゴールを破って2-1で勝利。追い込まれていた名門はあまりにも劇的な逆転勝利で9年ぶりとなる高校日本一に立った。

「ああいう形でロスタイムに取れたというのは本当に強い心が彼らを突き動かしたからだと思いますし、運とかはあまり好きではありませんが、運を引き寄せたプレーだったと思います」。朝岡隆蔵監督は敗色濃厚だった後半ロスタイムに右CK後の混戦から奪った奇跡的な同点ゴールについてそう振り返ったが、和泉も「中で『あきらめない』という言葉が出ていたし『オレらなら絶対に点取れる』と言っていた」。そして千葉県大会決勝を負傷欠場して「全国大会での恩返し」を誓っていたFW池辺征史(3年)は「最後の1分、1秒まであきらめないことがチームへの恩返しだと思っていた。でもみんな全然あきらめていなかった」と感謝していた。昨春の監督就任から1年間、「気持ちが強い方が勝つ」「人間性が強い方が勝つ」と唱え続けてきた指揮官の言葉を選手たちが土壇場で表現してつかんだ日本一だった。

 独自のスカウティングなどによって無名の選手達を育ててきているものの、有力選手がJクラブの下部組織に流れる現在はかつてのようにJリーガーを何人も輩出することはできない。新チームはまず激戦区の千葉で優勝することを掲げて全国高校総体予選では7年ぶりに優勝し、選手権予選も3年ぶりに制した。ただ全国高校総体は初戦敗退を喫するなどズバ抜けたチームではなかった。それでも名門の勝利へのこだわりはライバルたちを上回っていた。朝岡監督は「甘さとか言い訳とか逃げとか、最近の選手は持ちやすいという中で、本人たちは自分達の人格を変えるというか、性格を変えるというか。それに対してアプローチをこちらもしましたし、それがギリギリの勝負で通用する判断なのか、考えなのかというところまで突き詰めてやったときに、彼らは甘さや逃げを頭から取り払うことができた」。劣勢が予想された流通経済大柏との県決勝を「点を決めて死ぬ気で守れ」と溢れんばかりの闘志によって1-0で制し、長崎日大との全国大会初戦でも0-1の残り4分から試合をひっくり返した底力は、「市船だけが持っている」メンタリティー、勝利への思いの強さがもたらしたものだった。

 この日朝に宿舎で行われたミーティングでは選手たちを驚かせるサプライズがあった。イレブンが見たモチベーションビデオには「もうひとつの選手権がある」とBチームが練習場のグラスポで引退試合をしているシーンもあった。そしてミーティングの最後にサプライズゲストとして登場したのは和泉が「北島(秀朗)さんやカレン・ロバートさんかと思っていて逆を突かれました。いつもとミーティングの場所が違っていたので(何かあるかと)」というBチームの選手たち。そして怪我で思うような3年間を過ごせなかった選手たちから「怪我であまり一緒にサッカーをすることができなかったけれど、市船に来てよかった」など改めて思いを告げられると杉山が「涙が出ました。チームがひとつになっていた。今年はBチームを含めて団結力の勝利」と振り返ったように、イレブンの闘志は最高潮にまで達していた。“特別な”仲間のためにも最後まであきらめる訳にはいかなかった。

「一丸となって団結するところだったり、気持ちの強さ、そして自信を持っていた攻撃力は後輩たちにも引き継ぐことができたと思う」と和泉。選手権Vから遠ざかった9年間には全国高校総体を3度制覇し、全日本ユース選手権で優勝したチームもある。ただそのような偉大なチームでも成し遂げることができなかった選手権日本一。伝統の堅守、セットプレーの強さも備えていた今年の市船だったが、「団結力」や「思いの強さ」を名門の新たな力に加えたチームでもあった。

(取材・文 吉田太郎)

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