beacon

想いのぶつかり合った『新・群馬クラシコ』は前橋育英が桐生一に1-0で競り勝ち、昨年のリベンジを果たして全国切符!

このエントリーをはてなブックマークに追加

前橋育英高が桐生一高との『新・群馬クラシコ』を制して2年ぶりの全国へ!

[11.23 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 1-0 桐生一高]

「オレらは今日勝つためにずっと1年間やってきたんです」。前橋育英高を牽引してきたキャプテンのDF桑子流空(3年)がそう語れば、「育英に勝って全国に行くために桐一に来たと言ってもいいと思います」と桐生一高のキャプテンを務めるMF金沢康太(3年)も言い切った。

 ファイナルでの対戦は9度目。近年において群馬の覇権を争ってきた両雄の対峙は、やはりいつでも熱戦になる。昨年度の選手権予選ではこのカードが3回戦で実現。桐生一が3-2で勝利を収めたものの、結果的に準決勝で前橋商高に敗れたため、どちらも全国には手が届かなかった。双方の先輩たちも強い想いを乗せ合った80分間。ピッチではあらゆる局面で意地と意地が、ぶつかり合った。

 上州のタイガー軍団、リベンジ達成。23日、第100回全国高校サッカー選手権群馬県予選決勝、2年ぶりの群馬制覇を狙う前橋育英と、8年ぶりの全国切符を目指す桐生一が相対する『新・群馬クラシコ』は、後半13分にFW守屋練太郎(3年)が挙げた今大会初ゴールがそのまま決勝点に。前橋育英が1-0で競り勝って、24度目の選手権出場を勝ち獲っている。

 お互いに手の内は知り尽くしている両者の激突。「最初はリスクを負わないで、相手の陣地でビルドアップしたいというのは全体で共有していました」と桑子が話したように、前橋育英はロングボールも辞さずに、まずは相手陣内でのプレーを選択。一方の桐生一も左SBの倉上忍(3年)を高い位置に押し出す可変システムを敷きながら、前への選択を増やしたため、自ずとバチバチとやり合うシーンが多くなる。

 前半6分は前橋育英。10番を背負う長崎内定のMF笠柳翼(3年)が左から右足でクロスを上げると、U-17日本代表候補MF小池直矢(2年)のボレーは枠を越えるも、惜しいシーンを創出。7分は桐生一。中央からCB丸山琉空(3年)がくさびを打ち込み、反転したFW関根大就(3年)のシュートはこちらもクロスバーを越えたものの、やはり好トライ。勝利への意欲を前面に打ち出し合う。

 ただ、少しずつアタックがフィニッシュに結び付き始めたのは前橋育英。10分にはMF根津元輝(2年)がドリブルからミドルを枠内へ。ここは桐生一のGK竹田大希(3年)が凌いだものの、12分にも左SB岩立祥汰(3年)のクロスから、MF渡邊亮平(3年)と笠柳が連続シュートを放つも、桐生一のボランチに入ったMF浅田陽太(3年)が気合の連続ブロック。34分にも岩立がドリブルで2人を剥がし、最後は笠柳が枠の左へ外れるシュートまで。「飲水タイムの前後ぐらいから良くなったんですよね、ボランチにボールが入って、そこから展開できるようになったので。ディフェンスのリズムも良かったんですよ」とは山田耕介監督。ややリズムが前橋育英に傾いて、最初の40分間は終了した。

 ハーフタイムを挟むと、後半はスタートから前橋育英がラッシュ。3分。小池のクロスを笠柳が落とし、根津が左足で叩いたシュートは竹田がファインセーブ。6分。岩立が蹴った左CKから、桑子が残したボールをニアで根津がヘディング。軌道は枠の左へ逸れ、スタンドからもため息が漏れる。

 ただ、桐生一も黙っていない。「ウチが守って、守って、じゃない状況を作れたのは1つ評価できるとは思っています」と田野豪一監督。一刺しの脅威を突き付けたのは9分。右サイドをエースのFW寶船月斗(3年)がドリブルで運び、折り返しを関根が右足でダイレクトシュート。ボールはわずかにゴール右へ外れたものの、一撃でスタジアムの空気を歪ませる。

 タイガー軍団の9番は、静かにその時を待っていた。14分。鋭い出足でボールを奪ったMF徳永涼(2年)は、FW高足善(2年)とのワンツーから左へ展開。受けた笠柳は「仕掛けながら練太郎がうまくライン上で動いていたので、あとは丁寧にインサイドでしっかり転がすというのを意識して」丁寧なスルーパス。絶妙のタイミングで走った守屋のシュートが、左スミのゴールネットを鮮やかに捕獲する。「もう正直打った瞬間はゴールを見ていなくて、打って、『あ、入った!』みたいな。嬉しかったです。嬉しい限りです(笑)」と笑ったストライカーは、応援団の陣取るバックスタンドへ全力疾走。1-0。均衡が破れた。

 1点を追い掛ける展開を強いられた桐生一も、攻める。30分には決定機。金沢の縦パスを寶船が丁寧に落とし、関根は左へ少し浮かせてラストパス。走り込んだ倉上は得意の左足を振るうも、ボールは枠の右へ。37分にも右SB梅崎拓弥(3年)が果敢なドリブルから左へ。サイドに開いた寶船がカットインしながら巻いたミドルは、しかし枠の右へ消えていく。

 アディショナルタイムの3分が経過し、試合終了の笛が青空に吸い込まれる。「もう、嬉し過ぎて、訳が分からなかったですね。去年の負けから自分たちは頑張ってきて、(大野)篤生さんや(櫻井)辰徳さんからも、試合前にメッセージを戴いて、絶対に勝って、去年の選手権の悔しさを晴らせるようにという想いで戦いましたし、本当に、本当に嬉しくて、泣いちゃって。本当に嬉しかったです」(桑子)。前橋育英が粘り強くウノゼロ勝利。1年前のリベンジを成し遂げ、全国への出場権を力強く手繰り寄せた。

 試合終了直後。両チームの選手たちが、それぞれに健闘を称え合う姿が印象的だった。プリンスリーグでも、インターハイ予選の決勝でも、そしてこの日も、県内の2強としてお互いがお互いを意識し合い、全力で戦ってきたからこそ、彼らにしかわからない感情は絶対にある。

 桑子が中学時代から何度も何度も対戦してきた寶船に歩み寄り、握手を交わす。前橋育英のDF柳生将太(3年)が、同じセンターバック同士としてセットプレーでも競り合った桐生一のDF丸山琉空(3年)に優しく声を掛ける。群馬加入が内定している前橋育英の右SB岡本一真(3年)は、突っ伏していた倉上が起き上がるまで寄り添っていた。彼らもマッチアップを繰り返していた2人だ。

「自分も嬉しかったんですけど、自分たちが嬉しい想いをする代わりに彼らは悔しい想いをしているので、自分たちが喜ぶよりも先にやることがあると思って、声を掛けに行きました。自分たちが勝って、彼らは負けて、悔しい想いをしていると思うので、自分たちは全国大会で不甲斐ない結果は残せないですし、彼らの分も日本一を獲りたいと思います」。桑子の真摯な表情が、両雄の関係性を物語っていたように思う。

「山田先生が1枚上でした。今年のチームには相当自信があったので、これを打ち砕く育英は凄いと思います」と素直に負けを認めた田野監督は、こう言葉を続けている。「でも、これでいいと思います。これを続けるしかなくて、お互いにこういう勝負をやっていかないといけないと思いますし、大切なのは決勝に出続けることですよね。そう思います。こっちも良い選手を育てて、頑張るしかないんですよね」。最大にして、最高のライバル。前橋育英と桐生一の戦いは、これからも続いていく。

 笠柳は力強く全国での目標を口にする。「ここ最近は前橋育英に全国で優勝や準優勝、ベスト4に入っていた頃の輝きがなくなってきていると感じているので、この100回大会というメモリアルな大会で、また自分たちの名前を轟かせられたらいいなと思います」。ライバルの想いも背負った上州のタイガー軍団が、記念すべき100回目の王者を目指して、全国のピッチを堂々と踏みしめる。

(取材・文 土屋雅史)

●【特設】高校選手権2021
▶高校サッカー選手権 地区大会決勝ライブ&アーカイブ配信はこちら

TOP