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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第40回:帆を上げ、叫び、前へ進め(大阪体育大:菊池流帆)

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“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 大阪体育大の最終ラインには、やかましい男がいる。「うぉぉっ!」と叫んでヘディングをしたかと思えば、相手のシュートをブロックして「よっしゃー!」と叫び、惜しいシュートを放てば「くっそぉ!」と叫ぶ。よく見れば、いちいちガッツポーズのような姿勢も取っている。2年生のDF菊池流帆(青森山田高)は、とにかく、やかましい。今季限りで定年退職する坂本康博総監督は「気合い、入り過ぎなんですけどね。バカみたいに(笑)。まあ、彼の持ち味ですから。あれだけ勝ちたい気持ちが前面に出るのは良いこと。だけど、もう少し楽にプレーしてもいいところも無理にやるからピンチを招くところがまだある」と苦笑いを浮かべた。

 坂本総監督が指揮を執る最後の大会となる第65回全日本大学選手権、12日に行われた準々決勝は、夏の全国大会王者である明治大に2-1で競り勝った。前半に2点を奪った後、後半は1点差に詰め寄られて猛攻にさらされたが、叫ぶ男がゴール前で体を張り続け、リードを死守した。菊池は身長188cmの恵まれた体躯を誇り、空中戦を中心に相手の攻撃を跳ね返す力強さを特徴とするが、プレーを気迫と声の印象が上回る。テーピングには漢字を書くのが習慣。「前半は『闘』と書いたけど、入り方が悪かった。これじゃダメだと思って、後半は『気』に変えた。僕には気持ちしかない」と笑顔を見せた。

 青森山田高時代は、周りからコーチングを要求されても声を出せないタイプだったという。しかし、大学に入り、いつしか空中戦のときだけ出していた声のボリュームが大きくなり、叫ぶシーンは増えていった。菊池は、なりふり構わぬ姿勢で成長曲線を描こうとしている。大学サッカーを通じた先には、親が願いを込めて描いてくれた世界がある。20歳となった9日の誕生日、父から送られて来たメールには「りゅうほ」と読む少し変わった名前の由来が書かれていた。
「大きなマスト(帆)を広げ、どんなに辛いことがあっても強く前進してほしいという願いを込めました。将来、世界で戦う志向を現実にして、名前の由来の通り、大きなマストをさらに広げて海外に航海できるように願っています」

 スマートフォンを起動させ、書かれた文面の要約を口にした菊池は「泣いたっすね」とつぶやいた。期待に応え、大学サッカーで勝利の階段を昇り、次の世界へ進む。菊池は「坂本(総)監督がいる間に優勝させようと思って、ここに来た」と言い切った。日本一まであと2勝だ。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


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