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【検証】岡田ジャパンはW杯で勝てるのか(中)

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 指宿合宿から始まった今シリーズで注目を集めたのは3年半ぶりに代表復帰した小笠原満男と、若手主体で臨んだ1月6日のイエメン戦でハットトリックを達成した平山相太だった。

 岡田武史監督は1月13日のメンバー発表会見で小笠原について「ボランチではなく、攻撃的MFとして期待している」と明言した。会見の段階で本職とは異なる起用法に言及するのは異例で、09年JリーグMVPの2列目起用は当初から疑問を持って受け止められた。

 布石を打ったつもりだったのだろう。ボランチの一角には、パスをさばく司令塔として遠藤保仁という絶対的な存在がいる。コンビを組むのは、上下動を繰り返す運動量とフィジカルに長け、守備だけでなく攻撃にも絡んでいけるタイプ。その筆頭が長谷部誠であり、長谷部に対抗できる存在として稲本潤一がいた。

 長谷部、稲本と、小笠原ではプレースタイルがまったく違う。中村憲剛、阿部勇樹、今野泰幸もいて飽和状態のボランチではなく、コンディションが未知数の中村俊輔、チームへの適応度に不安を残す本田圭佑という海外組2人がポジションを争う攻撃的MFの新たなオプションになればと考えていたのは明らかだった。

 ところが、この目論見はあっけなく崩れた。2日のベネズエラ戦で中村憲と小笠原が2列目に並んだ中盤は完全な機能不全に陥った。中に絞って足元でボールを受けるパサータイプの2人では、サイド攻撃が信条のコンセプトを体現できなかったのだ。

 試合後、岡田監督は「中盤の組み合わせは考えないといけない」と語った。そして、ようやく小笠原のボランチ起用に本腰を入れ始めた。実際、ベネズエラ戦までは練習の大半を2列目でプレーしていた小笠原がベネズエラ戦後は一転して紅白戦でもボランチに入るようになった。

 6日の中国戦は疲労を理由に起用が見送られたが、11日の香港戦で「ボランチ・小笠原」が実戦テストされるはずだった。ところが、試合前日に岡崎慎司が右ひざに痛みを訴え、急きょ香港戦の欠場が決定。空いたFWに大久保嘉人が上がり、大久保が入る予定だった左サイドハーフで小笠原は先発することになった。

 これが機能するはずはなかった。なぜなら岡田監督が自ら“ダメ出し”したベネズエラ戦から中盤の構成は稲本と今野が入れ替わっただけで、中村憲と小笠原という2列目の組み合わせは同じだったからだ。9日前の発言は何だったのか。試合前、プレスルームで配られたスタメン表を見て、首をかしげるしかなかった。

 後半開始から今野に代わって平山が入ると、大久保が中盤に、小笠原がボランチに下がった。ついに念願の本職でのプレーとなったのだが、ダブルボランチを組んだのは遠藤だった。岡田監督が小笠原に求めたのは長谷部のようなプレーだったのだろう。だが、明らかにタイプが違う。結局、小笠原は後半17分に稲本との交代を命じられた。

 岡田監督が「ベストメンバーで戦う」と明言した14日の韓国戦。当然のように、小笠原がピッチに立つことはなかった。

 平山も苦しんだ。190cmの長身FWはいったんくさびのパスを受け、それをはたいて再び前に行くことでリズムを生む。しかし、横パスばかりのチームでは効果的な縦パスをもらう場面もわずか。平山を生かすようなハイボールも、チームとしての形もなかった。

 今回の合宿では練習から平山をDFラインの裏に走らせるパターンが延々と繰り返されていた。岡崎や玉田圭司と同じように平山は黙々と練習をこなした。香港戦前に行われた中央大との練習試合では、スルーパスに平山が走り込むが、スピードのある大学生DFにあっけなくボールを奪われるシーンが何度もあった。「岡田ジャパンのFWはこう動く」。決められたコンセプト通りにプレーする平山の姿は痛々しくすらあった。


(取材・文 西山紘平)

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