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あえて10人で戦う“決断”…横浜FM喜田拓也「僕らはその先のプランまで見えていた」

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MF喜田拓也

[5.7 J1第12節 横浜FM 2-1 名古屋 日産ス]

 試合の行方を大きく左右したのは、負傷者の続出で窮地に立たされたホームチームの選手交代をめぐる決断だった。試合後、横浜F・マリノスケヴィン・マスカット監督は交代枠の使い方について「どの部分でメリットがあり、どこで我慢をして、どの場面で交代枠があったらいいかを考えるかという部分での判断がすごく良かったと思う」と手応えを語った。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)からの帰国後初戦を迎えた横浜FMはこの日、前半25分にMF岩田智輝、同42分にFWエウベルが負傷でプレーできなくなるアクシデントに見舞われた。本来であれば、ハーフタイム以外に認められる交代回数3回のうち2回を前半に使わざるを得ない厳しい展開。ところが、マスカット監督は岩田に代えてMF藤田譲瑠チマを投入した一方、エウベルはベンチに下げるのみで、前半終了間際は10人で戦うという選択をした。

「交代をしてしまうと(交代回数を)一枠使ってしまう。残り数分でエウベルの怪我で交代するのか、前半終わるまで10人でやっていくのか。(その二者択一で)10人でやっていくことを選択した」。エウベルがベンチに下がる際、すでにFW仲川輝人はベンチ脇でウォーミングアップを行っていたが、前半途中での投入は取りやめ。交代回数に算入されないハーフタイムに起用する運びとなった。

 結果的にはこの決断が奏功した。1-1で迎えた前半終了間際は名古屋グランパスの攻撃を落ち着いて耐え抜くと、ハーフタイムに予定どおり仲川を投入。そして後半28分にMF水沼宏太とFW西村拓真、同40分にDF角田涼太朗を加え、同41分の決勝点につなげた。その決勝点は3回目の交代で起用された角田が起点となった上、西村の積極的なシュートから生まれており、前半に交代枠を消費していれば生まれなかったかもしれなかった。

 マスカット監督は試合後会見で「交代を使った時にただ時間稼ぎと考えることもあると思うが、自分たちはどうやって相手に影響を与えられるか、チームメートに対してエナジーをどれだけ与えられるかで交代を考えている。前半に使ってしまうと一枠使ってしまうが、残り数分を10人で戦って、とにかくあそこで踏ん張れば、後半によりポジティブな部分で選手たちを起用できる部分が大きくなる」と意図を説明。「そういった判断が上手くいった部分もあった」と振り返った上で「結果論ではあるが角田が2点目の起点になっているので、あそこで使えなかったらどうなっていたか」と論じた。

 またそうした考えを持っていた指揮官と同様、ピッチで戦っていた選手たちにも“10人で戦うべきだ”という強固な意思があったという。

 ハーフタイムに投入された仲川は「前半のうちに交代枠2を使うのはちょっと今後のプランが崩れてしまうのもあるし、時間も時間だったので、10人で戦って後半からという考えだった。自分もいきなりだったので、準備もあるし、そういった面も含めて我慢だった」とし、「あと5分くらいだったので、10人で頑張るというか、耐えてからというのがあった」と意図を明かした。

 さらに「ケヴィン含めてベンチの判断も素晴らしかったと思う」と振り返ったMF喜田拓也は「そこが明確だったので、僕ら選手もスムーズに進められたところもあったと思う。選手同士でもそう話をしたし、明確な提示もあったので、迷うことなくできた」と“ベンチ”と“ピッチ内”の意思が一致していたことを明かした。

 そうした意思統一ができた背景には、数的不利での成功体験があったようだ。今季のACLグループリーグ第3戦シドニーFC戦では、2-0で迎えた後半18分に角田の一発退場で数的不利を強いられたが、そのまま攻め続けて3-0で勝利。昨季も前半35分に退場者を出しながら勝利した第21節の柏戦(○2-1)を筆頭に、10人になった試合も2勝1分と勝ち越しており、“10人でも戦える”という自信があったのだ。

「いいのか悪いのかわからないけど、僕らああいうところに免疫はあるので」。そう誇らしげに語った喜田は「10人であろうが、マリノスのサッカーは変わらないというのは僕らが培ってきた強み。どこのチームでも持てるものではないと思う。焦りは一切なかったし、前半の時間も少なかったので、その先のプランまで僕らは見えていた」ときっぱり。「やられるような雰囲気もでもなかった。もちろん気をつけてはいたけど、意思統一ができていたので心配はなかった」と胸を張った。

 もう一つ決して見過ごしてはならないのが、横浜FMのベンチに交代起用するに値する選手がズラリと控えているということだ。喜田がとりわけ強調したのもこの点だった。

「ゲームを見てもわかってもらえると思うけど、途中から入ってきた選手のパワー、流れを変える力は素晴らしい。彼らと話していても、彼らの姿勢が素晴らしいなと。もちろんスタートから出たいのは選手全員そうだと思うし、全員がチームのために頑張れるのは言葉で言うほど簡単じゃない。そういう姿勢を持った選手を入れられるシーンを作れたという意味であの判断は意味があった。賭けに見えるかもしれないけど、中の感覚としては焦りも一切なく、考えていることやどう進めていくかに統一が取れていたので、バタバタすることはなかった。コミュニケーション力だったり、選手自身が動いていく力。ACLに紐付けると、そこで培っていた力でもある。そこをピッチに反映させられたと思う」

 ただ単に交代枠を残していたというだけでは、何も生まれなかったかもしれない。ベンチにいる選手たちが準備をしているからこそ、ベンチと選手の意思統一が生まれ、10人で戦うことに意味が出てくる。そんな横浜FMのチームとしての強さが詰まった“決断”が、1か月ぶりとなるJ1リーグ凱旋試合での白星をもたらした。

(取材・文 竹内達也)
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