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Jを目指せ! by 木次成夫

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第30回 JFL後期5節 栃木SC対横河武蔵野FC
by 木次成夫

 横河武蔵野FCは1939年(昭和14年)に横河電機の同好会として発足したチームです。
 JFLには第一回の1999年から参加しています(栃木は2000年昇格)。2003年に企業サッカー部から市民クラブへの移行を目指し、去る2月には「NPO法人 武蔵野スポーツクラブ」が承認されました。三鷹駅近くの「横河電機グラウンド」をベースに、下部組織もあります。以前、訪れた際、三鷹駅、吉祥寺駅付近の商店街に「横河武蔵野FCを応援しています」という旗が多数掲げられており、地域密着を感じました。昨季は6位(栃木は7位)。将来的には「Jを目指している」のかもしれませんが、積極的な強化はしていません。栃木は6月から平日昼間練習も導入しましたが、武蔵野は夜間練習だけです。

 つまり、昨季までは、ほぼ同格ながら、今季は栃木が格上(になってしかるべき)。実際、5月3日のアウェー戦では栃木が2-0の勝利を飾っています。ところが、前節終了時点で栃木は9位で、武蔵野は4位。「Jリーグを目指した」チーム強化の成果を証明する意味でも、栃木は絶対に勝たなければいけない状況だったわけです。

 結果は栃木が1-0で辛勝。執念の勝利ともいえますが、武蔵野の健闘が目立った試合でした。試合は序盤から武蔵野ペース。両サイドを広く使ったパスワーク、トラップ&パスを基本にしたポゼッション・サッカーの完成度は、“さすがは4位”と納得できるほど。対する栃木は前節の岐阜戦同様に上野優作(前・広島)と山下芳輝(前・柏)の“前Jリーガー”2トップを基点にしたサッカーで臨んだものの、キープもできなければ、ポストプレーも不発。チーム全体が空回り。

 そんな中、勝利を勝ち取れた要因は選手交代でした。柱谷監督は、後半開始時から山下を代えて、この試合がデビュー戦となるFW小原昇(前・京都)を起用。そして、後半17分に上野からFW横山聡(前・湘南。今季加入)に、26分には疲れが見えたサイドアタッカー小林成光(前・鳥栖。今季加入)からMF深澤幸次(国士舘大学出身、今季加入)に交代。スピードと切れ味で勝負するタイプを投入することで、徐々に前線が活性化しました。

 決勝点は後半35分、後期1節から加入したMF米田兼一郎(前・京都)がゴール前の競り合いに勝って、ヘディングで押し込みました。結果としては、戦力補強と柱谷監督の采配が功を奏したわけです。小原が加入したことで、攻撃のオプションが増えた点は今後、大きな武器になりえます。

 ただ、両チームの戦力差を考慮すれば、物足りない出来でした。武蔵野に後半競り勝った点で、「昼間練習の導入は成功だった」とする見方もあるでしょうが……。

 後期5節を終え、栃木は前節同様9位ながらもJリーグ昇格圏内の4位(FC岐阜)との勝ち点差は8から6に縮まりました。今後続く上位チームとの連戦、8月4日=対ロッソ熊本(2位・アウェー)、8月19日=対佐川急便(首位・アウェー)、8月25日=対YKK AP(3位・ホーム)が正念場です。

 ところで、この試合、気になったのは観衆数でした。開幕戦で1万2千人以上を集めたクラブゆえに期待していたのですが、3650人(公式発表)。天気は良かったのですが……。同じ日に行われたJ2、水戸対草津(2773人)に比べるとサッカー熱を感じるとはいえ、試合内容同様、今後に期待したいところです。

 ちなみに、試合会場の栃木グリーンスタジアムは宇都宮駅から車で20―30分。不便ですが、シャトルバス(往復500円)が充実していました。試合後の出発時間を設定せずに、ファンがいる限り対応するという配慮はありがたかったです。

 ただ、栃木グリーンスタジアムをはじめ、交通が不便な場所にあるスタジアムが日本各地に多い点には、改めて疑問を感じました。子供の教育あるいは大人を含めた福祉の一環として、税金を使って建設しているにもかかわらず、日本社会が「少子高齢化」に向かっているにもかかわらず、いわゆる“交通弱者”が行きにくいのです。自治体の偉い方々は、建設することで“動く金”を重視するあまり、その後のことは考えていなかったのではないでしょうか? 残念ながら(当然ながら)、スタジアム建設をした後には維持費がかかるわけで、利益が出るイベント利用がない限り、赤字が膨らみます。

 Jリーグは「地域密着」を掲げていますが、Jリーグが推奨する「自治体の支援」は、「税金を使ってJを目指すクラブを資金的に援助する」あるいは、「税金を使ってスタジアム使用料を優遇する」ことでもあります。日本全国の多くの自治体が負債で苦しむ中で、です。それでもJリーグに昇格して、地域活性化が実現できれば良いと思いますが……J2下位クラブの現状を見る限り、必ずしも「Jリーグ=天国」ではありません。

 もし、強くなければファンが集まらないのであれば、現在JFLに所属している「Jを目指す」クラブの未来は決して明るくありません。スポンサー収入が一気に増えない限り、現状以上に優れた選手を“獲得する”ことはできないのですから、たとえ昇格しても低迷する可能性のほうが高いわけです。

 ――と書くと、Jリーグを目指さない方が良いのかと思うかもしれませんが、違います。Jリーグはスタジアム経営を含めて、利益をあげる可能性がある「興行」です。世界陸上、五輪、W杯など短期的なイベントと比べると、長期的、日常的な経済効果が期待できます。参議院選挙で自民党が大敗した今、サッカー・クラブは地方の「プライド」を訴えるには“便利はツール”だとも思います。

 そこで大事なことは、身の丈を考慮したクラブ経営と、それを評価できるファンの存在でしょう。あとは、サッカー観戦に訪れるファンに、いかに「お金を使って」もらうか。栃木対武蔵野戦でいえば、売店で、“ご当地”感がなかった点は残念でした。例えば、宇都宮名物といえば、餃子。「マッチデー・餃子」という感じで、試合ごとに違う店が販売すれば、アウェー・ファンは間違いなく喜ぶでしょうし、美味いから帰りに“お土産に買おう”と思うファンもいるかもしれないと思うのですが……。

<写真説明>勝利を喜ぶ栃木選手たち。栃木選手のアップ写真は最新NEWSに掲載!

今まで紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
後期5節(7月28、29日)
栃木SC 1-0 横河武蔵野FC
佐川印刷 0-0 FC岐阜
アローズ北陸 2-1 ロッソ熊本 
アルテ高崎 1-4 佐川急便SC

首位=佐川急便(勝ち点54)、2位=ロッソ熊本(同47)、3位=YKK AP(同41)、4位=FC岐阜(同38)、5位=横河武蔵野(同37)、9位=栃木(同32)、18位=アルテ高崎(最下位、同5)
次節の注目カードは岐阜対横河武蔵野(8月3日)、ロッソ熊本対栃木(8月4日)


●北信越リーグ所属クラブ
天皇杯長野県予選4回戦=ベスト16(7月29日)
松本山雅 7-0M.A.C.SALTO
長野パルセイロ 5-0 上田東高校
アンテロープ塩尻 3-0 信州大学
*5回戦(ベスト8)は8月5日開催。松本山雅対上田西高校、長野パルセイロ対大原学園、アンテロープ塩尻対日精樹脂工業

天皇杯石川県予選準決勝(7月29日) 
ツエーゲン金沢 2-0 金沢大学
*決勝は9月2日 ツエーゲン金沢対テイヘンズ

全国社会人選手権富山県大会決勝(7月29日
ヴェリエンテ富山 2-0 富山新庄クラブ
* ヴァリエンテは8月17日から19日まで長野県で開催される全社・北信越大会出場決定。1回戦の対戦相手はツエーゲン金沢


●関西リーグ所属クラブ 
全国社会人選手権関西予選1回戦(7月29日)
FC Mi-OびわこKusatsu 7-2 松下電工
バンディオンセ神戸 4-2 久御山FC
*2回戦は8月5日開催。Mi-O対セントラルSC、バンディ対BIWAKO SC ROSAGE
関西地域の全社出場枠は5チーム。Mi-O、バンディともに2回戦で勝てば、全社出場決定

●四国リーグ所属クラブ
全国社会人選手権四国予選準決勝(7月29日)
カマタマーレ讃岐 2-0 三洋電機徳島
南国高知FC 4-0 ベンターナAC
*四国地域の全社出場枠は2チーム。カマタマーレ讃岐と南国高知FCの全社出場決定


●九州リーグ
17週 7月28日、29日
V・ファーレン長崎 4-1 沖縄かりゆしFC
首位=ホンダロック(勝ち点=41=15試合消化)、2位=V・ファーレン(同40=16試合消化)、3位=ニューウェーブ北九州(同39=15試合消化)
*V・ファーレンはNW北九州よりも1試合多く消化しているため、2位は暫定。今後の注目カードは、V・ファーレン対NW北九州(8月12日)


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