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Jを目指せ! by 木次成夫

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第128回「町田ゼルビア&V・長崎Jリーグ準加盟承認」
by 木次成夫

 2月17日、Jリーグ理事会で町田ゼルビアとV・ファーレン長崎の「Jリーグ準加盟」が承認されました。この結果、ガイナーレ鳥取(08年JFL5位)、ニューウェーブ北九州(08年JFL10位)を含めて、J準加盟は合計4クラブになりました。

 ゼルビアは昨季の全国地域リーグ決勝大会1位で、V・長崎は同2位。共に今季がJFL昇格1年目ですが、「J参入」に向けたクラブの現状は対照的です。ゼルビアのホーム、町田市立陸上競技場はナイター照明設備がないなど、大改修の必要がありますが、クラブの下部組織は“すでに”充実しています。対するV・長崎はホーム・スタジアムなど施設面では恵まれていますが、現時点ではトップ・チームしか、ありません。つまり、今後、下部組織を整備していく必要があります。

「Jを目指す」プロセスは様々ですが、Jリーグ設立に際して企業サッカー部から“生まれ変わった”多くのクラブを含めて、「まずはトップ・チームありき」で、のちに下部組織を整備するスタイルが主流です。例えば、カターレ富山とファジアーノ岡山は今季、ユース以下の整備を始めたばかり。かつて、横浜FC、ザスパ草津なども、トップ強化優先でJ参入を果たしました。そんな中、ゼルビアは、子供のチームから発展してきたという点で異例です。

 トップ強化と下部組織整備は、いわば「車の両輪」ですから、どちらを優先するのが得策かは、一概には言えません。ただ、都道府県庁所在地では“ない”し、企業城下町でも“ない”都市(町田市)をホームタウンに、チーム所在地移転経験も“ない”クラブ(ゼルビア)が、J準加盟に至ったのは、Jリーグ史上初です。見る側を巻き込むという点では、まだまだ小さなムーブメントですが、地道なボトムアップの歴史には、五輪、W杯、国民体育大会に象徴される大々的トップダウン策では“なしえない(かもしれない)”地域密着スポーツ文化定着の可能性すら感じます。

 17日、J準加盟承認に沸くゼルビアのオフィスを訪れた後、町田駅近くの「ミーナ」(様々なテナントが入った商業ビル)内に3月1日までの期間限定で設置されたPRブース「ゼルビアミニパビリオン」を見に行きました(Photoニュースに掲載)。上りエスカレーター脇に今季モデルのユニフォームを着せたマネキンを置くなど、ショッピング目的の一般客の目にも留まりやすい“導入”は、一見して、飛躍的知名度アップが期待できます。ブースでは、ゼルビアの軌跡をたどった壁新聞風掲示物の他、テレビモニターでは試合ダイジェスト風のゼルビア特集番組(J:COM)を断続的に放映しており、かなり楽しめました。常駐スタッフがいれば、“より効果があるのでは?”とは思いましたが、駅付近の通路に掲げられた多数の横断幕を含めて、例えば昨季の岡山駅や富山駅付近よりも、はるかに「Jを目指すクラブのある町」という雰囲気が感じられました。

 ゼルビア代表の守屋実氏は「準加盟は選手のモチベーションにもつながるでしょう」と言っていましたが、自治体関係者や一般市民の反応も楽しみです。例えば、FC岐阜のJFL初ホーム(07年、アルテ高崎戦)の観衆は5082人。当時は人気の高さに驚きましたが、今や経営難。ゼルビアには是非、J参入基準の平均3000人を“はるかに”上回る観衆を集め続けることを期待したいです。

 ちなみに、ゼルビアの運営予算は「昨季は約6000万円で、今季は約1億5000万円」(クラブ関係者)だとか。クラブ支援の一環として選手を雇用してくれる企業もあるからでしょうが、意外なほど低予算です。今季は予算倍増とはいえ、地域リーグに比べると、JFLは遠征費が“はるかに”かかりますから、致し方ないでしょう。特に今季は、V・長崎とホンダロック(宮崎)の昇格により、ニューウェーブ北九州とFC琉球を含めて九州・沖縄地域が4チームになりました。つまり、ゼルビアを含めた関東地域のチームにとって、経費削減のためにバスで移動するには無理がある地域のチームが増えたということです。

「(遠征のことは)これから詰めていきますが、京都(佐川印刷)くらいまではバスで移動しようと考えています」(関係者)。

 例えば昨季、ファジアーノ岡山は栃木までバスで移動しましたから、東京から京都まで程度は、いわば「JFL標準」。開幕(3月15日)がアウェーの佐川印刷戦になったことは、後に向けた“疲労度テスト”という点で、幸いとも言えます。

 ところで、年間6000万円とは、どういう意味なのか? 例えば、1万円X6000人=6000万円です。1万円÷365日=約27円。つまり、2~3日に一回、牛丼屋でタマゴか味噌汁を我慢すれば済む額です。5日に1回の缶コーヒー、半月に1回のジョッキ・ビール(居酒屋)で足りる額です。見方を変えると、1日=約54円を節約する人が3万人いれば、過去の例を見る限り、J2下位クラブの運営も可能な約6億円になります。

「Jを目指すクラブ」関係者及びファンの中には、潜在的なスポンサー収入を考慮すると、いわゆる全県区クラブがベターだという見方をする人もいますが、クラブ経営全般的に見ると、ベスト策とは限らないと思います。例えば、今季、J2は全51節中、平日夜間開催が11節あります。1チーム平均5~6試合の夜間ホーム開催。公共交通機関で帰宅できるか否かは、ファンの観戦意欲(結果しての入場料収入)に影響するのでは?

 もちろん、身近な弱小チームを「現場」観戦するよりも、遠方の強豪を「TV」観戦するほうが楽しいというファンもいるでしょうが……。
  
追記
次回は、九州、四国、中国、関西それぞれのリーグ上位2チームが参加する西日本大会(20~22日)を取材する予定です。J準加盟のV・長崎をはじめ、新シーズンに向けた「近況」を見るのが楽しみです。

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