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東京V・平本が緊急GK、「お前しかいないだろと言われて……」

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[5.4 J2第10節 東京V0-0FC東京 味スタ]

 東京ヴェルディのFW平本一樹が急きょゴールキーパーを務めた。すでに交代枠を使い切っていた後半ロスタイム、守護神の土肥洋一が左足を痛めるアクシデントがあった。F東京のCKだったため、平本は守備につこうと自陣ゴール前に戻ってきたが、チームリーダーのDF土屋征夫から声がかかった。

「あの場面は、お前しかいないだろと言われて。土屋さんに。最初、前に居たので、土肥さんがどういう状況かも分かっていなかった。心境? もう、やるしかないだろうと。GKの経験は? ないです。初めてです」

 周囲に促されてGKユニホームをまとい、グローブもはめた。本人の言葉通り、Jリーグでは初めての経験だった。前田隆司GKコーチに「落ち着いて行けよ。余計なことはするなよ」と言われ、ゴールマウスに立った。0-0の緊迫した状態。それも、最初のプレーがCKだった。緊張しないはずない。

 しかし、180cmのストライカーは堂々としたものだった。CKのピンチにも動じなかった。むしろ、「できれば前に出たかったけど、出ないように抑えました」と明かす。その後もF東京は猛攻を仕掛けてきたが、幸い? 守備機会はゼロ。時間も数分間だったが、緊急事態を救った形だ。

 そもそも、このGK自体が2度目の“緊急登板”だった。この日、FW平繁龍一が怪我をしたため、前半28分から急きょ出場した。「裏を狙ったり、ポストをしたりと。勝ちたかったですね」と平本。東京ダービーのうえ、ここまで3連敗とチームがどん底だったため、何とかゴールを決めて勝利に導きたかったが、“本職”のほうはシュート1本に終わり、悔しそうな表情を浮かべた。

 特に後半途中からF東京が退場者を出し、1人少なくなったため、余計にゴールを取りたかった。だが、数的優位になってから、攻撃が停滞した。平本は「最初はFC東京のほうも前から出てきたけど、1人減って、だだ引きになって裏のスペースが消えた。足元勝負になって停滞した」と分析。「スペースがなくても、ボールを裏に入れても良かった」と中盤の選手に注文した。

 これで今季は1分3敗の勝ち点1で、依然、最下位のままとなっている。昨季は5位とあと一歩のところでJ1復帰を逃しており、今年こそは-の思いがある。もちろん自分やサポーターのためにもというのがあるが、有望な若手選手にJ1を経験させたいという“兄貴心”もあるという。

「(下部組織からの昇格組など)若くていい選手がいっぱいいる。そいつらをJ1でやらせてあげたいというのがある。自分たちベテランは、そいつらに何としても、J1でやらせてあげたい」と平本。この日先発したFW河野広貴やMF小林祐希をはじめ、東京Vには多数の下部組織出身の有望株がいる。中には、J1を経験できず、移籍したものたちもいる。自身も下部組織出身で、V川崎時代を知る男。今年で30歳とベテランの域にさしかかり、そんな思いが芽生えた。

 現在は攻守でうまくかみ合わず苦しんでいるが、この日は攻守で復活の兆しを見せた。昨年のようなボールも人も動くサッカーが戻りつつある。今季はまだ4試合が終わったばかり。それにこの日、難敵のライバルから今季初勝ち点を奪った。これはプラス材料といえる。次節8日は岐阜と対戦するが、まずはここで勝ち点3を奪い、上昇気流に乗せる。

[写真]急遽GKを務めた平本

(取材・文 近藤安弘)

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