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ザック御前で2発、ラストプレーの芸術FKに憲剛「震えた。信じられない」

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[5.29 J1第13節 川崎F2-1G大阪 等々力]

 ラストプレーのひと振りで試合を決めた。雨中を切り裂き、等々力を興奮と歓喜に包んだ。1-1のまま表示されたロスタイム3分も過ぎていた後半49分のラストプレー。川崎フロンターレが左45度の角度で獲得したFKのチャンス。ボールをセットした瞬間、MF中村憲剛にはゴールの予感があった。

「ボールを置いたとき、マイナス、ネガティブな発想がなかった。疲れているはずだけど、あの時間だけは時間が切り取られたみたいで。あそこに蹴れば入るんじゃないかと。壁にだれが入っているかもクリアに見えて、すごい集中していた。明神さんの頭を越せばいいかなって。中澤選手がすごい高かったので」

 渾身の右足のキックは壁を越え、ゴール左上隅に吸い込まれる。バックスタンドのサポーター席に向かって駆け出すと、主審は試合終了の笛を吹いた。

「この喜びをサポーターと共有したいと思って、とにかくあそこに飛び込んだ。1点目はベンチに行ったから、2点目はあっちに行こうと思って。サポーターと喜びを共有したかった」

 激しい雨の中、1万4056人の観衆が詰めかけたスタンドが揺れた。ラストプレーで叩き込んだ劇的な決勝FK。G大阪のMF宇佐美貴史が「決定的な仕事を憲剛さんにされて。今日は憲剛さんのゲームだったかなと思う」と脱帽すれば、チームメイトであるGK安藤駿介も「しかし、入りますかね、最後。あそこによく行きましたね」と驚嘆するしかなかった。

「震えた。信じられない」。試合後も興奮冷めやらない中村は満面の笑みで報道陣の取材に答えていた。

「2点取ることがまずないし、左足で1点取って、右足でロスタイムにFKで取るなんてまずない。記憶にない」

 0-1の後半16分、逆転への口火を切ったのも中村だった。左サイド深い位置まで持ち込んだDF小宮山尊信がマイナスに折り返したボールを受けると、マークに来たMF佐々木勇人を切り返してかわし、PA外から左足を振り抜いた。

「迷うと入らない。右足をケアされているなと思って、左足に切り替えたらコースが空いた。打っちゃえ的な感じだった」

 豪快な左足ミドルは一直線にゴール右隅に突き刺さった。待望の今季初ゴールで1-1と試合を振り出しに戻し、その後は川崎Fが猛攻。一方的な展開となりながら再三のチャンスを生かせず、1-1ドローかと思われたが、最後の最後で勝ち点3をもぎ取った。

 スタンドには日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督も視察に訪れていた。指揮官の初陣となった昨年10月8日のアルゼンチン戦、同12日の韓国戦を最後に遠ざかっているA代表。6月のキリン杯に臨む代表メンバーからも漏れ、チームでダブルボランチを組むMF柴崎晃誠が初選出され、チームでも代表でも中村が背負ってきた14番を譲る形となった。

「大切なのは過去ではなく、未来」と若手を抜擢し、世代交代を推し進めるザックへ無言のアピールとなる2発だった。代表復帰をあきらめるわけにはいかない。「常にクォリティーの高いプレーをすることが大事だし、そのためにもチームの勝利が大事になる」。背番号14はここにいる。チームを勝利に導くプレーを見せ続け、もう一度、必ずザックを振り向かせる。

[写真]劇的な決勝ゴールを決めた中村

(取材・文 西山紘平)

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