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[Jの新風(10)]GK杉山力裕(川崎F)

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[9.2 ナビスコ杯準決勝第1戦 川崎F 2-0 横浜FM 等々力]

 試合終了の笛とともに、川崎フロンターレのゴールを守った背番号28、GK杉山力裕は涙を流して勝利を喜んだ。「(プロ入りからの)4年間一度も試合に出ていなかった。勝ててよかった。今まで支えてくれた人々やサポーターのことを考えたら涙が出た」。
 この試合がプロ4年目の22歳、杉山にとって公式戦デビュー戦。静岡学園高(静岡)時代にU-17日本代表に選出されるなど、評価されていたGKは06年の川崎F加入後もU-19日本代表に選出されるなど経験を積んできてはいた。
 だが、指の骨折など度重なるケガもあり、Jでの実績はゼロ。そのGKが日本代表オランダ遠征のために不在だった守護神・川島永嗣の代わりに立ったピッチで見事に結果を残した。

 横浜FMが放ったシュートはFW山瀬功治の5本を筆頭に計24本。CKは川崎Fのゼロに対し、横浜FMは11本を数えた。90分間を通して攻め続けられた川崎Fと杉山。だが「DFのみんなが、『自分の思っているように思い切りプレーしろ。もし弾いてもセカンド(ボールを)弾いてやる』、と言ってくれていた」と振り返る杉山はその言葉通りに、クロスに対して思い切った飛び出しを見せ、相手が次々と放つミドルシュートをことごとく弾き返した。
 
 デビュー戦が決勝進出を懸けた大一番。冷静さを保ってプレーすることは決して簡単なことではない。それでも杉山は「自分に対するプレッシャーがあることは分かっていた。緊張するもんだと覚悟していた」。サポーターやチームメイトの後押しも大きかった。試合前「オマエの力を見せてやれ」という横断幕でエールを送ったサポーターたちは、杉山がシュートストップする度に大歓声。プレーにわずかな迷いがあったシーンもあったが、声援とDFのスーパークリアにも支えられた杉山は90分間守りきって貴重な勝利をもたらした。

 静岡学園の先輩で現川崎F強化部スカウトグループ長の向島建氏は「試合前に電話したけど、きょうは確実にプレーしていた。安心して見ていられた。これまで出番がなかったけど、こういう壁を乗り越えることでまた成長できる」。また先輩DF伊藤宏樹は「練習から自信持ってやっていた。やれると思っていた。ミドルシュートもいいポジションでとめていた」と先発最年少の新鋭GKを讃えていた。
 静岡から駆けつけてくれた母・裕子さんとふたりの姉、そして幼い頃に亡くした父に捧げる勝利。「本当に感謝している。でもきょうは勝ったけど、きょうはこれで終わり。次も限りなくゼロで抑えられるように、チームが点を取って勝てるように頑張る」。デビュー戦でつかんだ自信を次戦でも。4日後の第2戦でも杉山が横浜FM攻撃陣の前に立ちはだかる。

<写真>川崎F・GK杉山
(取材・文 吉田太郎)
※この連載企画では、ナビスコ杯のニューヒーロー賞候補選手の中で、各試合最も活躍した選手を取り上げていきます。

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