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Jを目指せ! by 木次成夫

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第131回「北信越リーグ展望 2.松本山雅」
by 木次成夫

松本山雅は昨季、北信越4位。全国社会人選手権4位。NECトーキンの辞退により、全国地域リーグ決勝大会に出場したものの、レノファ山口にPK戦の末に敗れて、決勝ラウンド進出を逃しました。04年に本格的に強化を始めて以降、05年=2部優勝
06年=1部2位
07年=1部優勝
と上昇してきた山雅にとって、「Jリーグへの道」という点では、初めての“後退”(停滞)です。

今季の新加入選手は以下の6人。
GK石川扶(25歳、前・刈谷)、
DF山崎透(28歳、前・栃木SC)、
DF寄井憲(24歳、前・甲府)、
MF北村隆二(27歳、前・岐阜)
FW小林陽介(25歳、前・熊本)、
FW木村勝太(20歳、前・甲府)、

昨季後、12人が退団したので、6人減の19人。新加入6人のうち、石川を除く5人は“プロ”契約ですが、少数精鋭にしたため、「年間予算は昨季と同程度の約1億円」(クラブ関係者)だとか。

相対的に好選手は揃いました。とはいえ、片山真人(現・岐阜)ら新加入10人中8人が大学新卒だった07年シーズンにリーグ優勝した歴史を振り返ると、なぜ、強化路線を変更したのか、疑問も感じます。職場でアマチュア選手と出会ったことが“きっかけ”になり、今や、チーム(クラブ)が生活の中で欠かせない存在になった方々は多いでしょうし、ファンと選手の相対的に“濃い”関係こそ、山雅の武器だと思っていたので――。

3月7日 練習試合
山雅 1-3 横河武蔵野FC(08年JFL7位)

会場はJR三鷹駅徒歩数分の横河電機グラウンド。結果は1-3(前半は1-2)で山雅の敗退。山雅の得点は新加入の小林陽介(元・横河)。3月15日開幕の横河と、4月12日開幕の山雅では選手のコンディションやチーム完成度が違って当然ですが、チーム力以外にも、両チーム(クラブ)の差を実感できた点で、興味深い試合でした。

山雅の「1本目」メンバーは以下の通り。一見して、今季の主力中心です。

GK
原裕晃(30歳=2年目=プロ、前・栃木SC)
右SB
阿部琢久哉(24歳=2年目=アマ、前TDK←駒澤大学←流通経済大柏)
CB
寄井、山崎
左SB
石川航平(24歳=3年目=アマ、前・国際武道大学←市立船橋)
MF
北村、木村、高沢尚利(24歳=3年目=アマ、前・青山学院大学←浦和Y)
FW
小林、柿本、大西康平(26歳=2年目=プロ、前YKK AP)

対する横河も「1本目」は、主力(であろう)選手がメインでした。

今季、山雅の試合を見たのは2月11日の東京学芸大戦以来、2回目。学芸大戦では、昨季開幕前に比べて、選手の動きが良い点に驚きました。1カ月以上、調整が早いと言っても過言ではないほど。例えば、DF坂本史生(24歳=2年目)が「大学(母校=学芸大)で練習していました」と言うように、それぞれがオフの自主トレを、こなしてきた証だと思います。

しかし、横河戦では……、松本の気候と、山雅の練習環境も影響しているのでしょうが、チーム完成度を高めることの難しさを痛感しました。横河の試合巧者ぶりが目立つ一方、山雅は“模索中”という感じ。FW登録の木村を中盤に配置するなど、守備重視策の相手を打ち破る「攻撃サッカー」を志向している点は、昨季の苦い経験が活きています。とはいえ、この試合では、守備陣と攻撃陣の連携に「熟成」が感じられませんでした。いわば、「手堅く守った後は、相対的に優れた攻撃陣に“お任せ”サッカー」。“アマ”選手が“プロ”選手に対して遠慮しているという印象も受けました。

もちろん、選手の潜在能力という点では、昨季以上のチームができる可能性は高いと思います。ただ、現状のチーム完成度という点では長野パルセイロの方が上。つまり、5月17日、長野ホームの“信州ダービー”までの「熟成」がリーグの命運を左右するかもしれないということですが……。

ところで、冒頭の写真は8日に松本市内で開催された「新体制発表会」でのヒトコマです。ファンも参加できる“恒例の”イベントとはいえ、子供なりに”慣れ“を感じさせる立ち居振る舞いに、山雅の「歴史」を感じました。そして、学芸大と横河との試合も振り返り、地域リーグ随一の人気を誇る今だからこそ、できること、すべきことは、トップチーム強化以外にも“ある”のではないか、とも思いました。

まずは、何よりも練習環境整備では?

山雅が「体育館で練習する日もあるので、フォーメーション練習が、できないこともあります」(木村)という状況に対して、横河も東京学芸大も人工芝ピッチで練習しています。横河は横河電機の社屋隣りに同社グラウンドがあり、同社ラグビー部の他、下部組織の子供たちも利用。学芸大はFC東京、小金井市と連携して、地域密着型の展開をしています。大学はグラウンドを提供し、FC東京が人工芝ピッチ造成資金を用意。FC東京は“見返り”として、同大付属中学校ピッチを下部組織の「U-15むさし」の練習に使用。さらに、学芸大では、「地域の子供向けのサッカースクールもしていて、僕も大学時代に教えたことがあります」(坂本)。

学芸大は“教員養成”大学ゆえ、子供と接する機会は、いわば職場実習みたいなもの。それぞれにメリットがある点で素晴らしい策だと思います。せっかく、経験者の坂本(教職免許の他、サッカー指導者C級ライセンスも所持)がいるのですから、松本近辺の教育関係者には、是非、“学芸大スタイル”をパクってほしいものです。

松本近辺の現状では環境整備は難しいという意見は、あるでしょう。とはいえ、JFL開幕時期を考慮すれば、目先の大問題では?

見方をかえると、環境の悪さを選手の能力と頑張りでカバーしているのが現状です。経費削減策として、練習試合など遠征は基本的に日帰り。選手寮も“ない”ので、例えば高卒3年目(プロ3年目)の木村も「自炊しています」(本人)。能力が高い選手ゆえ、期待していますが、シーズンを通して、万全のコンディションを維持できるか、心配な面もあります。クラブがレストラン(食堂)などと提携して食事券を配布するなど、策は“ある”と思うのですが……。

現在の手法でトップチーム強化を最優先していけば、数年以内に横河よりも強いチームを作ることは可能でしょう。とはいえ、トップチームが強くなるだけでは、クラブは成立しません。

もし、人工芝ピッチ1面あれば、下部組織の子供たちも練習で使えます。トップと下部組織の関係が希薄な山雅にとっては、「クラブの連帯感」という点でも非常に価値があるはずです。そもそも、なぜ、子供たちがトップの試合を見たり、トップ選手にアドバイスを求められるような場を日常的に設けないのか、疑問ですが……。せっかく、松本近辺史上最高レベルの選手が日本各地から集っているのに“もったいない”。

また、下部組織の選手は、将来のトップ選手候補であると同時に、すでに“接点がある”点で、潜在的なファン候補です。例えば、今の時期、それぞれの“卒業試合”をトップとの対戦にする配慮もアリでは? 子供にとっては、思い出になるし、新たな目標=モチベーションにも“つながる”のでは? 試合を通して、トレーナーなど周辺の人たちの仕事ぶりを見れば、将来の職業選択の“きっかけ”にも、なるのでは?

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本山雅vs.横河武蔵野-1
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