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No Referee,No Football

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PK獲得のケネディ、倒れ方は大げさだったか
[J1第25節 名古屋vs仙台]

 名古屋グランパスベガルタ仙台の試合は、名古屋が0-1の後半12分にペナルティーキック(PK)で追い付き、試合終了間際の勝ち越しゴールで逆転勝利をおさめた。

 後半11分、最終ラインでパスを回していた名古屋はセンターライン付近から田中マルクス闘莉王選手が前線にロングボールを入れた。これに反応したケネディ選手が渡辺広大選手の前に体を入れ、ペナルティーエリア内に走り込む。ワンバウンドしたボールがゴール前に抜けてくると、渡辺選手が後方から左手を出したところでケネディ選手が転倒。扇谷健司主審は渡辺選手のホールディングのファウルを取り、名古屋にPKが与えられた。

 程度の差はあるものの、渡辺選手がケネディ選手に手をかけていたのは確かだ。扇谷主審はこれを目の前で見ていた。反スポーツ的行為として渡辺選手に警告を提示し、PKとした判定は間違っていない。

 ケネディ選手はペナルティーエリア内でGKと1対1になる場面だった。しかし、渡辺選手が手をかけたとき、ボールはまだケネディ選手の右後方で大きくワンバウンドしたところだった。ケネディ選手がボールを100%コントロールしていたわけではなく、決定的な得点機会の阻止には当たらない。ドリブルなど完全にボールをコントロールした状態でファウルを受けた場合とは異なる。とはいえ、大きなチャンスをつぶしたことは反スポーツ的行為に当たる。扇谷主審はレッドカードではなく、正しくイエローカードを示した。

 JリーグでPKの判定があると、それが正しくても、正しくなくても、PKを取られたチームの選手が主審に抗議する光景をよく見る。しかし、この場面では、何か言いたげに菅井直樹選手が扇谷主審のところにやってくるものの、ファウルを犯した渡辺選手も含め、仙台の選手はどこか観念した様子で、菅井選手の“質問”も執拗ではなかった。

 渡辺選手の手の動き、ケネディ選手の転倒が明らかで、主審もすぐ後ろに位置していたことも関係あるだろうが、基本的に仙台の選手は主審の判定には従うという考えを持っているのだろう。見苦しさはまったくなかった。

 一方、倒れたケネディ選手はペナルティーマーク近くで座り込んでいた。“してやったり”だったのか。ケネディ選手の倒れ方は、大げさに見える。渡辺選手のホールディングがそれほどケネディ選手のプレーに影響を与えていないと判断すれば、逆にケネディ選手のシミュレーションを取ってもおかしくはないと感じた。もちろん、引っ張られたことでスピードが落ち、多少はバランスも崩していた。しかし、ホールディングで“倒された”というよりも、ファウルをもらいにいくために“倒れた”ように見える。

 渡辺選手にホールディングのファウルがあったのは事実だ。ケネディ選手がファウルをもらいにいったのだとしても、その前に渡辺選手が引っ張っていなければ、PKになることはなかった。そういう意味では、この場面の“答え”はPKで合っている。しかし、それでもやはり、ケネディ選手の大げさな倒れ方は腑に落ちない。
 
 南米には「マリーシア」という行為がある。本来は試合を優位に進めるための「駆け引き」という意味らしいが、日本では、競技規則で許されるなら、その範囲内で逆にそれをうまく利用してやろうという行為として理解されている気がする。ケネディ選手の転倒がマリーシアであるとは言わないが、大げさに倒れて、審判にファウルをアピールする行為は認めたくない。

 この場面、渡辺選手のファウルを取って名古屋にPKを与えた上で、ケネディ選手に対して大げさに倒れたこと(シミュレーション)でイエローカードを示すという選択肢もあったのではないかと考えた。競技規則上、問題はない。

 とはいうものの、そのような警告を見たことはないし、もしも実際にそんな対応を取れば、スタジアムやテレビで見ているファンには分かりづらく、理解できない判定となってしまうだろう。選手も納得できず、混乱するに違いない。しかしながら、サッカーからシミュレーションや大げさに倒れてファウルをもらおうとする行為を排除していくためには、こうした厳格な対応も必要だ。それぐらい勇気のあるレフェリーが出てきてくれないかという期待も持っている。

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